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バトル・オブ・プリンス④

 

「決闘ってなんでまた」


 いや、こういう感じで喧嘩を売られる事は少ないが経験がある。

 正義感に燃えて俺の前に立ちはだかった奴とか偶に居たしな。

 そういうケースだと、いろいろはぐらかしながら誤解を解きつつ逃げ回るしか対処のしようが無い。

 幾ら何でもなんの非も無い相手を殴るほど俺も落ちぶれて居ないからな。


「貴様が強者だからだ。『端午の節句の昇り鯉』」


「……うわぁ、そういうケースかよ」


 タチが悪いなぁ。

 俺の悪名ってのは、言い換えると懸賞金みたいなもんだ。

 方々で暴れまわった俺が一番悪いんだけど、どうやら『昇り鯉』の名前にはそれなりに価値があるらしい。

 曰く、街の不良供の頂点。

 曰く、群れない目障りな一匹狼。

 曰く、どうしたって除去できない目の上のタンコブ。またはデキ物。

 つまり俺をなんらかの方法で屈服させた奴には、それなりの名誉が与えられる訳だ。

 あちらの業界で云う『箔が付く』って奴だな。

 往々にして、そう言った目先の自己顕示欲にまみれた奴と喧嘩すると、結果ははっきりと2種類に分かれる。

 俺を恐れて近づかなくなる奴と、怖いくらいしつこく付きまとってくる奴だ。

 俺だって黙って殴られる趣味は無い。

 売られた喧嘩はできるだけ安値まで交渉したのちに買う。

 つまり避けられる喧嘩は避けてきたんだ。

 ありとあらゆる言葉を尽くして、俺が暴力を望んでいない事を事細かに説明し、まぁ結局は喧嘩になる訳だ。

 そして、大体勝ってきた。

 相手が一人なら正々堂々。

 複数なら逃げ回り、一人づつ。

 逃げられない時は周囲の物を武器として。

 そうして勝つと、8割方の奴は尻尾巻いて逃げ出す。後日斜め上の方法でリベンジを仕掛けてくる奴もいるけれど、数回繰り返せば負けた時の恐怖が刷り込まれて自然と絡んでこなくなる。

 なんせ俺も血の気の荒い方だと自覚している。る時は、遠慮なんてしない。

 問題なのは、残りの2割だ。

 自分を強者と信じてやまない、バトルジャンキー紛いの迷惑な奴ら。

 目の前のアトル王子は、多分後者。

 体つきと態度で分かる。

 この王子、喧嘩慣れしてる上に、恐らく負けを知らない。


「えっと、一応言っとくけど。お断りします」


 もちろんだ。

 街の喧嘩ですら億劫なのに、学内の同級生と喧嘩なんかした日にはめんどくさい事態になる。

 最悪、退学も有り得る。

 こう見えても俺はもう俺一人の体では無い。

 ジャジャとナナ、そしてアオイ。

 なんだったらルージュの分まで稼がなきゃならない。

 今学校を辞めて仕事に就くなんて、短期的に見れば解決策かも知れないが論外だ。

 ウチ、双子なんだぞ!

 学校ちゃんと出て、ちゃんとした仕事に就かないと将来心配だろうが!

 なので高校を辞める、または辞めさせられるという選択肢は存在しない。

 まぁ、一番の理由としては母さんが悲しむし、アオイも親父も翔平も怒るからなんだけど。

 一応考えたんだよね。

 高校辞めて仕事に就く事。

 ただ、なんと言うか。

 そっちは最終手段だ。

 子育てを親に理解されてる上に援助までされている俺たちにとっては最優の手段では無いだろう。

 まだ考える時間は残されている、筈。

 さしあたってはバイトだな。

 親父の負担を軽減しつつ、俺の道を模索するしかない。


「貴様に拒否する権利はないぞ。平民風情が」


「いやいやいや、断固拒否しますとも。俺別に王子に恨みも無いし、人を殴るの好きでも無いんですよ」


 うーむ。

 やっぱり敬語使った方がいいよな。

 同級生に敬語なんて、なんかムズムズする。


「えっと、ダイランさん。いや、王子?決闘って、何故なんですか」


「いつの時代の話してんだこの左分け」


 牧雄とガサラが後ろから援護してくれた。

 でもガサラ。

 左分けは止めろ。笑っちまうだろうが。


「皆様の疑問はもっともです。差し支えなければわたくしが殿下に代わりご説明をさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか。ほらこの能無し、人に何かを説明するという能力が生まれつき欠けているものでして」


「殿下はお喋りが下手すぎて、たまにおじいちゃんみたいになるよね!アレがアレだからアレをしろー!みたいな!」


 アトル王子の後ろの女子二人が、なんだか好き勝手言っている。


「うるさい!オレだってちゃんと喋れるわ!ただ大兄上が日本では極力口を開くなって言うから!」


「第一王子ガトル殿下はアトル殿下の事をちゃんとご存知なのですよ。口を開くと余計な事しか言わないんですから。嘆かわしい。民を率いる立場の者が弁が立たないなど、本来あってはならない事です」


「弟君であるセトル殿下はあんな小さいのに凄い立派に喋るよね!」


「うるさぁーーい!セトルの方が異常なんだ!アイツの腹黒さは異常と言うしか無いだろ!」


 うわぁ、コントみたい。

 臣下である女子二人に次々と指摘されて、アトル王子は顔を真っ赤にしてわめいている。

 あの王子、なんか憎めないなぁ。


「えっと、インテイラさん?あ、あっちもインテイラさんか。カヨーネさんで、いいのかな?」


「はい、カヨーネ、と呼び捨てで結構です。私は王家に嫁ぐまではただのしがない女中なので。ウタイとは従姉妹イトコの関係にあたります。ウタちゃん、と呼べば可愛らしくお返事致しますよ?」


「はい!ウタちゃんです!」


 だからうるせぇんだよ!

 なんだあの子、魔族型超音波兵器か何かか!


「じゃ、じゃあカヨーネ。とりあえず説明してくれない?いや、決闘を受ける気は無いんだけどさ」


 なんだか強く突っぱねるのも可哀想な気がしてきた。

 事情があるならそれをきちんと聞いて、後にちゃんと断ろう。

 うん。平和的解決。


「はい。じゃあウタちゃん?今からしぃー、ね?」


「しぃー!!」


 全然静かじゃねぇよ。

 空気がビリビリ言ってんだけど。


「えっと、まずはわたくし達の事を説明せねばなりません。先ほど日下くさか様がおっしゃられてたように、わたくし達は球大陸の南方、海に面したダイランと言う国からの交換留学生です」


「ダイラン。いやごめん、聞き覚えがねぇや。勉強不足で済まない」


「ぼ、僕もわからないかも。有名な魔族の国なら大抵知ってるんだけど。フランシオンとか」


 良かった。知らないの俺だけじゃ無かった。

 優等生の牧雄が知らないのであれば、大抵の奴は知らないだろ。

 あ、でも三隈は知ってそう。

 あいつ魔法とか魔族とかのファンタジーに属する知識が豊富だからな。


「俺は知ってるぞ。魔力付与(エンチャント)技術で一部の魔法具コレクターの間では有名な小国だ。確か強化系統と水属性の魔力付与(エンチャント)に於いては殆ど独占みたいなもんなんだよな?」


 おい、小国とか言うなよ。失礼だろうが。


「あら、博識でいらっしゃいますのねライオット様。そうです。我が国は特に秀でた輸出物が無い代わりに、他の国の追随を許さぬ魔力付与(エンチャント)技術を提供する事で成り立っています。小国ですがその利益が莫大なので、我が国は数多あまたある魔族の国家の中でも比較的裕福な国と言えましょう。他にも我が国でしか採れない希少鉱石も多少ありますので、国家運営としてはそれで充分なのです」


「へぇ」


 よく知ってたなこの毛玉。

 うわ、ドヤ顔してやがる。

 そういやコイツ、魔法具コレクターだっけか。

 趣味の延長線上で得た知識が役立ってご満悦って顔だなそれ。

 ムカつく顔しやがって。後で強制ブラッシングの刑に処してやる。


「そんな小国である我がダイランも、技術力に胡座あぐらをかいて精進を怠れば、あっという間に他国に出し抜かれて衰退していくでしょう。当代の国王、ガルムレルド国王陛下はそれを危惧し、五年前から他国への交換留学制度を我が国でも実施いたしました。ダイラン王家の家訓は『民に模範を示せ』。その言葉通り、市井しせいの民に先んじて王子殿下方を各国に送り出したのです。国の要職に就かれておられる第一王子殿下、第二王子殿下、第四王子殿下を抜いた六名の王子を、先進国や技術国へと留学させております」


「いやいや、王族が留学って。もっと大事(おおごと)なんじゃねーの?そんなアッサリと」


 だって、この魔族男子が王族って牧雄ですら知らなかったみたいだぞ?

 だって今も目を白黒させて口を開けっぱなしにしてるもの。


「な、なんか偉い人達なのは知ってたけど、王子様とまでは」


 俺の視線の意味に気づいたのか、牧雄は首をブンブンと振って答えた。


「ええ、もちろん。この国でも充分VIPとして扱って貰っております。今もこの高校の周辺には我が国のSPが待機しておりますし、お屋敷も立派な物をご用意して頂いて、本当に感謝ですわ。この脳みそ空っぽな殿下にまで気をかけて頂いて、我ら家臣一同、日本国のご好意に足向けできません」


「そ、そういえば。日本語お上手だな」


 この学校の言球(スフィア)は食堂と体育館と視聴覚室にしか設置されていない筈だよな。

 魔族言語ってTVで聞いた事あるが、かなり難解で早口な物だったと思う。

 干渉地域内の言語を翻訳してくれる言球スフィア無しだとチンプンカンプンだ。


「ああ、私たちの国の私たちの世代はこの国の言語、喋れる者は多いですよ?世界衝突の際からの最大支援国ですし、島国であるこの国だと水属性の魔法具は需要が多くて、贔屓にして貰ってますから。我が国の中等教育機関では日本語を必修としております」


 ほえー。

 知らなんだわ。

 この国の言葉って外国人には難しいって聞いた事あるんだがな。

 まぁ、今じゃ言球スフィアも普及してるし、言語学習は以前に比べて格段に効率が良いと聞く。

 なら、まぁ、納得。


「お話を戻しますね?一応、生徒方の生活に必要以上に干渉しないようにと、校内での護衛は従士のウタイ一人しかつけておりませんの。我がインテイラ家は古より王家のあらゆるお側付きを任されてきた家系ですので、護衛家系のウタイの戦闘能力は確かな物です。私はまぁ、あんまり素養が見出せなかったので女中に就いておりますが、いざと言う時は一般人よりは対処できる自身があります」


「……いらないって言ったのに」


 カヨーネの横で拗ねた顔をしていたアトル王子が、ぼそりと呟いた。


「……少々お待ちください」


 それを聞いたカヨーネが笑みを崩さずにアトル王子へと顔を向ける。


「もうこの国に来て一年以上経つのに、まだ納得されてなかったんですか?」


「……オレは、身の回りの世話はイリス婆さん一人で良いと兄上に具申した」


「イリス様はもうとっくに隠居された身です。齢八十を越えるご老体にまだ甘え足りないと申されますか?」


「……イリス婆さんじゃなくても、城に女中など沢山余ってただろうが」


「先輩方は殿下のわがままを諌める事が出来ないから、兄上殿下が私をご指名したのです」


「……なんで女中学舎を卒業してないお前がオレの側付きなんて任されておるのだ。それこそ意味不明だろう。他にもオレに当たりの強い女中など腐るほど居たでは無いか。無能王子だからな!」


「またそうやって自分を卑下なさる。良い加減に大人になってくださいまし殿下。普段から申し上げてますでしょうに。何を言われても王家の者として堂々となさってくださいと。私やウタイ程度の軽口に気分を害されるようじゃ、将来外交の場に出た時どうされますか」


「ハハッ!外交!外交と申したかカヨ!そんな重要職、オレが就けるわけなかろうが!父上だってそのつもりで、俺をこんな片田舎に留学させたのだ!テトル兄上もセトルも首都東京の学舎に留学しているのに、わざわざ俺だけな!いくら俺が愚かだとは言え、気づかないわけがなかろう!」


「違います!陛下は殿下に適した留学先をお選びしたまで!一体いつになったら王陛下のお気持ちに気づかれるのですか貴方は!」


「気づいているさ!王位継承権なんぞ欲しくもなんとも無かったが、わざわざ国民の前で末席に据えられた時からな!あれ以来、父上はオレの前に一切姿を見せやしない!それはそうであろう!なんせ、血を分けたとは思えないほど俺が不出来だからだ!」


「また貴方様はそうやって–––––」


 えー。

 何これ。


「なぁ、俺と決闘する説明って、まだ終わってないよな」


「お、終わってないね」


 牧雄が苦笑いをしながら答える。


「なんだか、あの王子とやらも大変らしいな」


 ガサラが腕を組んで、ベンチに座った。


「そうなの!」


「うわぁ!」


「ひぃい!」


「ぶぅううう!」


 びっくりしたぁ!

 立っている俺と座っているガサラの間に、いつのまにかウタイが居た。

 発せられた突然の大声に、牧雄が腰を抜かしてヘタリこんでしまった。

 ガサラなんて、なまじ獣人で耳がいいもんだから泡吹いて白目剥いてんぞ。


「おっと、また声大きかった?ごめんね?どうにも癖で」


「が、ガサラ?おーいガサライオくーん?」


 ピクピクと痙攣するパッツンモコモコ毛玉を揺さぶる。

 ダメだ返事が無い。

 ただの–––––。


「はっ!」


 お、起きた。


「て、敵襲か?」


「落ち着け」


 敵なんざ居ない。


「あはは、ごめんね?こんぐらいで大丈夫?」


「う、うん」


「それでも充分デカイんだが」


 未だ呆けている牧雄が頷いて、俺が軽くツッコミを入れる。


「カヨさんはねー。本当は殿下の事大好きなんだよ?」


「はい?」


 あんなにボロクソ言ってたのに?


「殿下の留学先がこの国だって発表されたら、インテイラ家のコネを全力で使ってお側付きになるぐらい大好きなの。第7王子テトル殿下はもともとカヨさんを起用するつもりだったんだけどね?私もその流れで付いて来たんだー。私もカヨさんも将来的には殿下のお子を孕んで、インテイラと王家の結びつきを強くする役目があるからねー。カヨさんが付いて来たのは、この国で殿下に女遊びを覚えさせない為だってカヨさんのお母様が言ってた。本人は周りにバレてないと思ってるけれどね」


「はぁ」


 えっと、んじゃ、なんだ。


「いいえ言わせてもらいます!殿下はお時間が空けば筋トレ筋トレ筋トレとそれこそ馬鹿のように筋トレなさってますが!魔族が筋肉を鍛えてどうするのですか!魔法の鍛錬をなさいませ魔法の!」


オレの唯一と言っていい趣味まで否定するか!どうせ魔法省にはセトルが内定しとるのだ!劣っている俺が今更鍛錬したところでどうだと言うのだ!」


「向上心と言うものがあります!」


 あそこでギャースカギャースカ言い争ってんの、痴話喧嘩イチャイチャな訳だ。


「おい、もう昼休み終わるぞ」


 ガサライオが腕の時計を見せる。

 まじか、もう授業?

 なんだったんだこの時間は。


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