バトル・オブ・プリンス③
「あ?」
校舎と部室棟の間、さっぱり人気の無いこの場所に今は六人もの生徒が居る。
俺と牧雄とガサラの三人と、通用口の前で仁王立ちしている魔族の男子一名と。同じく魔族の女子二名だ。
「え、えっと。呼んだ?」
何だか呼びかけられたみたいだから、代表して俺が返事を返した。
何だろう。
見覚えあるなあの男子、と女子の一人。
俺達、ていうか俺をまっすぐ睨みつけている浅黒い肌の中肉中背の男子は、えっと確か同じクラスだ。
いつも教室の最後方の席で腕を組んで偉そうにしてる奴だと思う。
黒髪を全て左側に流している奇抜な髪型。
右耳にだけ過剰と言えるほど金色のピアスが無数に輝いていて、首にも金のリングが三つ。
そのコウモリのような真っ白い羽と、額にある大きくて立派な一本角は間違いなく魔族の証だ。
その隣に静かに立つ、同じく浅黒い肌の色んな所がバインバインな長身のロングヘアー美人も、ウチのクラスの女子だ。
こちらは黒いコウモリ羽と、ジャラジャラと装飾の施されたサークレットをしている。
「ヘイヘイヘーイ!頭が高いぜ、メーンズッ!!」
「ウタちゃん。その言葉は間違ってるわよ」
いきなり大声を出されて、少しビビった。
小さな女子が急に声をあげ、ウチのクラスの女子に静かに咎められている。
何つう声量だ。
校舎のガラスが揺れやがった。
「あ、そう?えっとぉ、控えおろうパーリーピーポー!!」
「ウタイ、少し黙れ」
「えー?せっかくだし、ビシッと決めようと思ったんですよ?」
「良いから黙れ」
今度は男子が真顔で制した。
なんかやたら声のデカい、あの黒髪の小さい魔族の女子は知らない奴だ。
トランジスタグラマーっての?
発育がチグハグっていうか、何だアレ。
寸尺間違ってるだろあの胸。
何であの背丈で三隈よりデカい胸してんの?
「あれ?ダイランさんに、インテイラさん?」
俺と違ってクラスメイトの名前を全部覚えている牧雄が声をかけた。
しょうがないじゃん。
名前呼ばないし、呼ばれないんだもの。
馬鹿な俺が人の名前を覚える為には、コミュニケーションが必要なんだ!
そりゃ、話しかけやすそうな奴は覚えてるけど、目の前の二人は『話しかけんな』オーラがすごくて近寄った事すらない。
他の奴と喋ってるのも見た事ない。
「そう、アトル・ケツァ・コアトー・ダイラン殿下が御自らいらっしゃいました。皆様には大変心苦しいのですが、どうかこのゴミ虫の為にお時間をくださいませんか?」
「は?」
「お?」
「え?」
俺、ガサラ、、牧雄の順に聞き返す。
今このバインバイン、なんて言った?
「……そう、己がわざわざ来てやったんだ。頭を垂れて跪くが良い平民が」
あ、そのまま続けるの?
何事も無かった様に、魔族男子は俺たちへとゆっくり近づいてくる。
「カヨさん!殿下無視したよ!絶対に聞こえてたのにね!」
「ウタちゃん良い?こういう時は黙って付き随うのが良い家臣、そして良い妻なの。人に尊大な態度を取るのに慣れてない殿下の、なけなしのプライドを笑ってはダメ」
「へえ!やっぱりカヨさんは良い奥さんになれるね!」
「ええ、まあ別に私たちは殿下の権力と財力が目的で嫁ぐのだから、気にしてあげる必要は無いのだけれどね?」
「ウタイ!カヨーネ!ほんとお願い静かにして!」
後ろでガヤガヤとなんか大変な事を言ってる女性陣に向き直し、殿下と呼ばれている魔族男子は涙目で叫んだ。
「お、おい牧雄。こいつらなんだ?」
「え、いや、同じクラスのアトル・ケツァ・コアトー・ダイランさんと、カヨーネ・ケツァ・インテイラさんだよ?魔族の交換留学生の」
すごいな。
よくそんな長い名前がスラスラと出てくるもんだ。
「向こうの声の大きいチビは俺と同じクラスだな。今朝自己紹介されたえっと、ウタイだっけか?」
ああ、ガサラと同じクラスか。どうりで見覚えがないと思ったぜ。
自分のクラスの奴の顔と名前を一致させられない俺に他のクラスの、しかも女子の顔なんて覚えられるわけがない。
「はい!ダイラン王家、殿下お側付き従士!そして第9王子殿下の許嫁であるウタイ・ケツァ・インテイラです!ライオットくん良く出来ました!」
「うるせぇ!!」
どういう声量だコレ!
俺は思わず両手で両耳を押さえる。
頬の肉が声の振動でプルプル言ったぞ!?
チビ巨乳魔族女子が勢いよく頭を下げながら大音量で自己紹介をした。
隣を見ると。俺と同じ様にガサラと牧雄も耳を押さえている。
「あ、申し遅れまして申し訳ございません。ダイラン王家、殿下お側付き筆頭女中。そして第9王子殿下の許嫁であるカヨーネ・ケツァ・インテイラでございます。以後お見知り置きを」
バインバインさんも静かで礼儀正しい所作で頭を下げる。
「そしてこちらにいらっしゃいますのが、ダイラン王家第9王子殿下。アトル・ケツァ・コアトー・ダイラン様にございます。ああ、かしこまらなくて結構ですよ?無能のあまり王位継承権も弟殿下に負けて一番末席という出来損ないの名ばかり王子ですから。むしろ殿下の方が他国の民に対して失礼なんです。ほらゴミ虫、地面に這いつくばって皆様に許しを乞いなさい?」
「カヨーネ!お前もうちょっと己を敬っても良いんじゃないか!?」
アトルとかいう魔族男子はもはや泣きべそだ。
なぁ、あれどういう関係なのか一発で理解できる奴居る?
「えっと、その殿下?が俺たちにどんな用があるんだ?」
こんな探さなきゃわかんない様な場所、偶然通りがかるのも無理があるよな。
部室棟の出口は反対側だし、そもそもここ空き教室の真裏だし。
「……フンッ!良いか!よく聞け平民!」
おお、持ち直したぞこの魔族男子。
「風待薫平!己は貴様に決闘を申し出てやりにきたぞ!喜ぶが良い!」
「はぁ?」
何言ってんだコイツ。





