バトル・オブ・プリンス①
1ヶ月ぶりの学校、1ヶ月ぶりのお昼休み、1ヶ月ぶりの翔平の弁当。
そして1ヶ月ぶりの校舎と部室棟の間のベンチ。
「んじゃあ、土曜日待ってるから」
『うん。いちかちゃんにも伝えておくね?』
右耳に当てたスマートフォンのスピーカーから、三隈夕乃の澄んだ声が聞こえてくる。
「おう、浩二にもな。こっちで知り合った奴らにも声かけてるから、結構なパーティーになりそうだ。賑やかしは多い方がいいからな」
冗談で口にした言葉だが、半分ぐらいは本音です。
あの騒がしい佐伯猫兄妹は、パーティーの良いムードメイカーになってくれそうだ。
牧雄も雛ちゃんもそんなに騒がしいタイプじゃないからな。
『……まさかじゃないけど、女の子じゃないよね?』
ひえっ。
「ち、違う違う!いや一人いるけれど、まだ小学生だしダチの妹だから!」
電話越しでも伝わる冷えた空気に身震いして、慌てて言い繕う。
久しぶりですね三隈さんのソレ!
『そっか、じゃあいいや。そういえば、アルバさんはあれから一度も顔を見せないの?』
ああ、あのネズ公か。
アイツなら公民館で俺が寝ている時に出没して以来、音沙汰無しだ。
聞きたい事、山ほどあるんだけどな。
「いや、会ってねぇけど。どうした?」
三隈とアイツじゃ、あんまり接点無いと思うんだけど。
『うん。前にね?ジャジャちゃんとナナちゃんに必要だから、調べて欲しい鉱石があるって言ってたの。二つほどね。一つはまだ調べてる最中だけど、もう一つはすぐに分かったから、報告しようとしてたんだけど』
「鉱石?」
「うん。何に使うのかはわからないんだけど、球大陸にあるダンジョン産の希少鉱石でね?球大陸からの持ち出しを規制されている物なんだ。アジンアンカっていう、鉄鉱石の一種だね』
聞いてねぇな。
双子達に必要なら俺かアオイに教えててもおかしくないんだが。
『あ、そうそう。その球大陸なんだけどさ。私たち今度、家族旅行で行くことになったの』
へえ!
「すげーな!滅多にチケット取れないんだろ?」
このご時世、海を渡るのはとても大変だ。
気流の乱れは激化し、海流は至る処で渦を巻いている。
親父の知り合い、と言っても飲み仲間の元パイロットさん曰く–––––。
【空と海は、ダンジョンになった】
–––––そうで、その証拠にどちらもモンスターが出る。
空なら空の、海なら海の。
特徴あるモンスターの根城と化してしまった現在、海外旅行は至難だ。
できないわけじゃない。
空も海も、『正解』のルートがあるのだ。
例えばアメリカ行きの飛行機のルートだと、北海道を北上してアラスカを経由するルートが発見されている。
例えばブラジル行きの船のルートだと、一度東南アジアへ向かい、大きく迂回をして向かうルート。
そう言った『正解』のルートは、なぜかモンスターが出ない。
今もいろんなルートの確立が急がれているし、それを生業としている人もいると、こないだテレビが言ってた。
そうなると、飛行機も船もかなりの高額となるし、順番待ちもある。
特に未だ日本からの直通ルートが確立されてない東欧なんかは、必ず一度タイを経由しないとどこの国からも空からじゃ入れない。
そんなめんどくさいお空の事情もあって、航空チケットは今じゃかなりのレア物だ。
船は民間人には無理だ。その全てを輸出入や漁業に使われている。
大陸や島の近海ではなんの問題もないんだけど、ある程度離れるとやっぱり潮が乱れてモンスターが現れるからな。
だから現代の船は皆、武装を余儀なくされ、船団を組むようになった。
漁師さんなんかもただ漁をしてるだけじゃ襲われちまうから、『漁戦士』という専門的な武装集団を雇っている。
日本のような島国だと、海外に出る手段が全部高額になるのだ。
他の陸続きの国だともう少し簡単らしいんだけどな。
陸路があるから。
それでも地形の変わりまくってる地域もあるから、楽ではないのはそっちも同じだ。
まぁ、全てテレビから得た知識なんだけど。
『うん。ウチのお父さん、商社に勤めていて魔法具の取り扱いもあるんだって。それで向こうに二週間出張に行く事になったんだけど、お母さんがお父さん一人じゃ心配だから一人で行かせられないって言うの。私も夏休みだから、どうせなら家族みんなで行こうって事になってね?お母さんもお仕事休みとるからって』
「はー。良いな。俺海外なんて行った事ねーよ」
うちの稼ぎじゃ夢のまた夢だからな。
そういやルージュは海を越えて来たそうだけど、アイツどこから来たのか自分でも理解できてないんだよな。
鼠が迎えに行かないと元来た道を戻っちまうほどの方向音痴だ。しょうがない。
この間、暇そうにしてたから夕飯の買い物手伝ってもらったんだが、公民館までの道のりを間違えやがった。一ヶ月もあそこで暮らしてたんだからさぁ。
『だからさ。アルバさんの言ってたアジンアンカ石、どうにか日本に持ってこれないか調べてくるよ。そのまんまじゃダメでも、加工品なら大丈夫な場合もあるし』
「おお、そうだな。いやでも悪いよ。せっかくの家族旅行なんだろ?」
俺たちの為にそこまでしてくれるのも、ありがたいけどやっぱり気兼ねしちまう。
『良いの!私がしたいんだから!』
「あ、ああ。お前が良いなら、俺も嬉しいだけだから良いんだけどさ」
あれ?
なんで今怒られたんだ俺。
『じゃあ、土曜日までにアルバさんに会えたら聞いといてね?』
「おう、わかった」
『うん、じゃあまた』
「ああ、またな」
通話が切れたのを確認して、俺もスマートフォンの電源を切る。
ズボンのポケットに仕舞って、買って来た缶コーヒーに手を伸ばした。
さて、昼飯昼飯っと。





