家族になろうよ③
「さあ、さあ!僕の愛しの龍の子を見せてくれないかい!?」
「うわ、ねっ、鼠!」
ビックリした!ビックリしたぁ!
いつの間に俺の右肩に登って来たんだこの鼠!
魔法使いのような白い三角帽を深くかぶり、体より大きな木の杖を持った毛むくじゃらが、右肩でふんぞり返っている。
「おっと失礼!驚かせたかな!まあ許してくれたまえ、僕の背丈じゃ龍の子の顔が見えないからね!」
「だ、誰だお前!あとうるさい!」
もう少しボリュームを下げてくれないかなぁ!
「ハッハッハッ!細かい事気にしてるとすぐに禿げるよ!」
細かく無えよ!
「ネズミのおじさま!?」
未だグズり続けるお姉ちゃんを抱いたまま、アオイノウンが立ち上がった。
「そう!誇り高いけど背丈は低い!長毛鼠族ことモコモコ族の僕だよ!『知りたがり』アルバ・ジェルマンさ!アオイ!」
いや、誰だよ。
「嘘ぉ……」
ドギー巡査が目を見開いて俺の肩を見ている。
「ね、鼠の賢者なの?本当に居たんだ……」
「ドギー巡査?お知り合いですか?」
井上巡査は不思議そうな顔で、ドギー巡査に問いかけている。
「獣人なら、みんな知ってると思うわ……おとぎ話みたいなもんだけど……幻の鼠の獣族と、その賢者のお話。小さい頃に聞かされるもの……」
「そう、その鼠の賢者さ!賢いつもりはないけどね!」
なんだこのちんまいの。そんな有名なのか?
俺の隣に立つ翔平が、目をキラキラさせて鼠を見ている。
「うわあ、可愛い……」
コイツ、こんなマスコット的なの好きだったな確か。
小さい頃に、鼠のCGアニメを飽きもせず一日中観てたし。あの美味しいレストランのヤツ。
「そんな事より龍の子だ!アオイ!僕に君の子を見せてくれないかい!?」
「は、ハイ!」
泣き続けるお姉ちゃんをしっかり抱いて、アオイノウンは俺の前まで小走りで駆け寄る。
妹ちゃんも、未だ俺の腕の中で可愛らしく泣いていた。
「へえ……珍しいねぇ。アオイ、双子を産んだのかい?どーれ、このアルバ・ジェルマンにお顔を見せてくれたまえ」
俺の右肩から覗き込むように、双子を見る鼠。
その声はさっきまでの音量とは違い、優しい。
「うん。強い子達だ。ちゃんと空に愛されているね。この子が姉かい?」
「は、はい。先に産まれました」
「ほうほう……ちょっと失礼」
俺の肩からピョンと跳び、アオイノウンの肩に移る。
トコトコと器用に腕を伝って歩き、お姉ちゃんの顔のすぐそばに到着した。その小さな手で、頬を触る。
「うん。アオイにそっくりだ。雷の龍気を纏ってるところもね。うん」
優しく三回頬を撫で、振り返ると俺の腕に移る。
同じように妹ちゃんの顔のそばまで来ると、また頬を触る。
「ああ、こっちは君に似ているね」
「俺?」
「もちろん。へえ?空の龍なのに、風にも愛されている。いやあ、素敵だ。やっぱり龍って見ていて飽きないなぁ」
なあ、なんで俺?
「不思議かい?聞きたいことがあるなら、答えよう。こと龍に関しては、僕より深い知識を持つ者はいないからね」
「ネズミのおじさま、この子達、一月ぐらい孵化しなかったんです。それが心配で」
アオイノウンが俺より先に問いかけた。
まあ、母親のコイツの方が、気になる事が多い筈だ。
「うん。じゃあ説明しよう。と、その前に。お腹を空かせてるみたいだからね。この子達に母乳をやりなさい。泣かせたままじゃ可哀想だ」
それは同意する。
「お、おじさま。私、母乳なんてどうあげていいか」
「大丈夫。龍種は本能が強い種族さ。自然と色々できるようになってるよ。最近、胸が張っているんじゃないかい?」
俺は思わず、アオイノウンの胸を見た。
お世辞にも大きいとは言えない。
「兄ちゃん。女の人の胸をジッと見ちゃダメだよ」
弟に常識を説かれてしまった。
「そ、そう言えば、産卵が終わった後ぐらいからなんか痛いなって」
「うん。身体はちゃんとできている。ほら、君の子がお腹を空かせているよ」
「あ、ドラゴラインさん。あそこの衝立の奥に椅子を用意するわ」
「僕が持っていきますね」
ドギー巡査と翔平が動き出した。
「……見たか薫平。あの配慮ができるかできないかで、モテる男とモテない男に分かれるんだぞ?」
「……そんな事を耳元で言うなよ親父」
俺だっていま感心してるんだから。
「ほら、妹ちゃんも連れていきな?」
俺の腕で弱々しく泣く妹ちゃんを、アオイノウンに差し渡す。
「何を言ってるんだい?君も行くんだよ?」
はい?
なんか、鼠がおかしな事言ってるぞ?
「君も、授乳しなくちゃ」
だから、何を言ってるんだこいつは。





