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ただいま、おかえり①

 

「お耳を拝借だ野郎供!アンド女の子達!」


 親父が腰に手を当てて声を張り上げる。


「本日の風待家は大掃除を予定しています!そしてルージュちゃん!」


「父、そんな大声出さなくても私はここにいる」


 ルージュがいつも通りの無表情で返事を返した。

 現在俺たちが居るのは、1ヶ月ぶりの愛しの我が家。そのリビングダイニングのソファだ。

 三人掛けに翔平、俺とアオイが座り、一人掛けにルージュ。

 ジャジャは俺、ナナはアオイの膝の上で久しぶりのお家をキョロキョロと見渡して不思議そうにしている。

 親父はソファの正面、テレビ台に乗っている大インチ薄型液晶テレビの前に腕を組んで仁王立ちしていた。

 その顔はムカつくほど笑顔である。


「ようこそ風待家へルージュちゃん!本来なら軽い歓迎パーティーでも開きたいんだが、一月も空けていた所為で我が家は埃だらけ!しかも電気が停まっていたから冷蔵庫の中はあんまり見たくない有様になっている!なので、パーティーは今度の土曜日に三隈ちゃんや佐伯ちゃん達を呼んで盛大にやろう!」


「父、気持ちはありがたいけど、私はこれからタダ飯食いの居候も同然。あんまりお金を使わせる訳にいかない」


「いーや!するね!パーティーするね!なんせルージュちゃんはこっちがお願いして来て貰ってるんだ!歓迎の宴をしないと父の気はすまないね!」


 この中年。

 何でこんなに元気なんだろう。


「翔平、親父酒飲んでんのか?」


「飲ませる訳ないじゃん。朝だよ?」


「ようやく帰ってこれたんですし、嬉しいんですよ」


 アオイと翔平が答える。


 この地域の切れた電線の復旧工事が終わったのが一昨日。

 各世帯に電気が問題なく流れていると電力会社から通達されたのが昨日だ。

 あの『牙岩ダンジョン拡張事件』からもう一月も経っている。

 俺たちの住む地域が、一番遅く復旧された。

 仕方のない事だと思う。特に我が家は渦中の牙岩に一番近いからな。

 ダンジョンから漏れ出すモンスターや、伸びた樹木が一番多かったのもこのエリアだ。

 安全の確保と、慎重な作業。

 それを両立するには時間が必要だったんだ。


 住宅密集地を優先にしていた枯れた木々の伐採作業も着々と進み、ある程度事件以前の街並みを取り戻し始めている。

 ただやっぱりダンジョン化した森が残ってしまうところもあるそうだ。

 今はガサラ達トレジャーハンター達が、懸命にダンジョンエリアを測定している。

 後で差し入れでも持って行ってやるか。

 樹木の伐採を終えた町内や近辺。そこにダンジョンモンスターが現れなくなった事が確認されると、避難民は次々と家に引き上げていった。

 避難所にはまだ数世帯の家族が残って居るが、遅くても今月中には皆自分の家に戻れるだろう。

 後発の俺達も同じ様に家に帰り着き、一月も放ったらかしていたツケを思い知る。


 もう、すんごい埃っぽいのだ。

 窓という窓、玄関や勝手口を全開にしてもなお埃が目立つ。

 確かどこかで聞いたことがある。

 家と言うのは、住人がいなくなるとすぐに荒れると。

 この一月の間、窓どころか玄関の開け閉めすらしていないから、中の空気が循環されずに淀んでしまっていたのだ。

 どんな家でも、天井には埃が溜まるものだし、落ちてくるものだ。

 毎日の清掃を怠ればあっというまに床は白くなってしまう。

 親父の言う通り、停止していた冷蔵庫の中身は悲惨な事になっているし、他の部屋もここと似た様なもんだ。


 水洗トイレのタンクの水はもちろん一月前の物。匂いもこもるし水垢もつく。

 排水溝から来る上水道や下水道の匂いだって、風呂場や洗面室に充満していた。

 本当なら休日に親父が嬉しそうに手入れをしている庭も、雑草が育ちまくって見るも無残になっている。


 おいおい。たった一月で引っ越して来た時の状況に戻りやがったよ。


 と言うわけで本日の風待家は大掃除を決行することにした。

 一応、避難中も俺と親父で何度か足を運んで、リビングや廊下の床は軽く拭いてある。

 そうでなければ双子達を連れて帰って来ていない。


「んじゃあ!父さんはリビングと廊下!翔平はキッチンと冷蔵庫!アオイちゃんは二階のお部屋とお布団なんかのお洗濯!あとで車出すから、間に合わない乾燥は国道沿いのコインランドリーでやろう!!ルージュちゃんはお掃除の間チビ達をよろしく頼む!」


「うわぁ、冷蔵庫、大変だろうなぁ」


 翔平が眉をひそめて冷蔵庫を見る。

 さっきブレーカーを上げたばかりだから、おそらく中はまだ冷えていない。

 一月も熟成させられた食品は、見た目もおぞましく匂いもキツイだろう。


「お洗濯、お昼までに終わらせたいですね」


「ん。天気も良い。私も時々手伝う」


 アオイとルージュが庭から見える空を見上げる。

 梅雨半ばなのにここ最近の七月の空は快晴だ。


「なぁ、俺は?」


 さっき親父が告げた役割分担の中に、俺が居ない。

 いや、聞かなくてもわかってるんだけどさ。

 一応ね?


「はぁ?今言った事以外全部に決まってるだろうが」


「ほぉう?それは何か?風呂場にトイレ、洗面台に二階のベランダ、そして庭と玄関先もって事か?」


「おう。あとお昼と夕飯の買い物と、ベッドマットの虫干しもあるぞ」


「ざっけんな!終わるわけないだろ!」


 俺だけ作業量が異常なんだが!?


「おうなんだうちの長男は遅めの反抗期か?若くて元気なんだから人より十倍は働けや」


「限度があるだろうが!」


「く、薫平さん。私も手伝いますから」


「ん。ジャジャとナナがお昼寝したら、私も手伝う」


 アオイは苦笑して、ルージュは変わらず無表情で俺を気遣ってくれる。

 ええ子達や。


「だぅ」


「あー!」


 俺とアオイの膝の上に座るジャジャとナナが、リビングダイニングの隅に置いてあるおもちゃ箱を見つけた。

 あれは双子達の宝物だからな。

 動物さんシリーズをメインとした、お気に入り達だ。

 久しぶりに動物さん達に会えて感動しているのだろう。


「おもちゃさん達とは後で遊ぼうね?とりあえずジャジャとナナを遊ばせる場所から先にお掃除しちゃいましょう」


 ナナの頭を撫でながら、アオイは俺の肩にもたれかかる。

 うん。近い。

 そして暑い。


「その間は私が抱っこして庭で散歩している。虫に刺される心配は無用。私の操る薄い火の結界を抜けれる虫は存在しない」


「……火事には気をつけろよ?」


「ん。少し燃えても何の問題もない。炎は全て私の支配下」


 自慢げに胸を反らすルージュ。

 事情と能力を知らなければ放火魔のソレと同じ発言だ。


「んじゃ、最初に二階の薫平の部屋から始めちゃおうか。さぁみんな!お仕事ですよ!」


 相変わらず不思議なテンションの親父の号令で、大掃除が開始された。

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