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アオイちゃん好き好き大作戦②

 

 風待家の若夫婦はおしどり夫婦……。

 風待家の若夫婦は人目も憚らずイチャつき通すバカップル……。

 風待さんちの長男さんは嫁ラブ上等の色欲魔……。


 ダメだ。

 あれからずっとイメトレをしているが、設定を盛ったり減らしたりしても全然できそうな気がしない。


 時間は夜遅くの午後二十一時。

 俺とアオイはシャワールームでジャジャとナナのお尻を洗っている。


「同じタイミングでウンチしてくれて助かったな」


「そうですね。別々にしてたら二度手間でした。ジャジャとナナは仲良しさんだもんねー?」


「ううぅー」


 ナナが嫌そうな顔で嫌そうな声を出す。

 家と違う雰囲気の浴室が怖いんだろうな。

 ナナは怖がりだから。


「はい、大丈夫大丈夫。ナナは良い子だねー」


 アオイはナナの腕をしっかりと掴み、弱めで温めのお湯を出すシャワーノズルをお尻に向けている。

 ここに来る前に一応濡れティッシュで拭いているんだが、被れでもしたら可哀想だからな。

 清潔を心掛けよう。

 綺麗に洗ってキッチリ乾かした後は、ベビーパウダーでサラッサラに仕上げる予定だ。


「おー」


「んー?ジャジャは終わっただろ?」


 素っ裸にタオルを巻いた姿のジャジャは俺の腕の中だ。

 風呂好きなジャジャはこのシャワールームでも物怖じしない。

 むしろもっとシャワーで遊びたいと、俺の腕の中でモゾモゾと動いている。


「お家に帰ったらいっぱいジャブジャブしような?」


「むー」


 あら不機嫌。

 まぁこの避難所生活は、ジャジャとナナにすら我慢させる事が一杯あるからな。

 そろそろストレスも溜まってきたんだろう。

 お昼は歳の近い赤ん坊のお友達と大騒ぎさせているが、さすがに夜は大人しくしてもらわないと他の避難者に迷惑だからな。

 可哀想だが、もう少し辛抱してもらおう。


「あら、こんばんわアオイちゃん。双子ちゃん達のお風呂?」


「あ、椎名さん。こんばんわ」


 シャワールームの入り口に、中年の女性が現れた。

 あ、そういや鍵閉めるの忘れてたわ。


「あ、もしかしてお待ちしてます?お尻を洗ってるだけなんですぐ終わりますね」


「いえいえ気にしないでちょうだい。ゆっくり洗ってあげて?」


「す、すみません」


 アオイは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。

 アオイと仲が良いって事は、ママ友か?

 最近のアオイの頑張りようは人間関係にも言える事で、この避難所のママ友の輪に迎え入れられるまでになっている。

 最初の頃はあれだけ人見知りだったのに、凄いヤツだよ本当。


 えーと、確か椎名さんって言ったら、小学生ぐらいの女の子がいるご家庭のお母さんだっけか?


「えっと、こんばんわ」


「う」


 記憶と顔の一致を待たず、とりあえず挨拶をする。

 ジャジャを抱いたまま軽く会釈。ジャジャも俺に合わせて、短く可愛らしい挨拶の声を出した。


「あ、コンバンワ」


 おっと?

 なんかぎこちないぞ?


「あ、旦那さんも居たのね」


「はい、お手伝いをしてもらってます。パパがいないとジャジャが不機嫌になっちゃうんですよ」


「へ、へー。ジャジャちゃんはパパっ子なのねー」


 俺と目線を合わせようとしない椎名さんの奥様。

 んー。これが問題なんだよなぁ。


 や、やってみるか?

 まずは軽く、探り探りで行こう。

 俺は素早く身を屈めて、アオイの肩にピタリと身を寄せた。


「そ、そうなんですよー。ジャジャったらママだけじゃ(やー)ってワガママ言うんですよ。な?ママー?」


「え、あ、はい」


 作戦その1!

 できるだけ密着してママ呼び!

 家族内でふざけてる時なんかはアオイの事をママと呼ぶ事は結構あるが、他人の前で呼んだ事は滅多に無い!

 小っ恥ずかしいからな!


 この作戦の狙いは一つ!


『普段からパパ、ママと呼び合っている事をアピールする!』


 さすがにコレは軽すぎたのか、アオイは違和感は感じたもののそれが何か分かっていない。

 不思議そうに首を捻り、ついでにお湯のガランも捻って水を止めた。

 椎名さんも見る限り無反応だ。

 やっぱり、『普段はダーリン、ハニーと呼び合ってる!』作戦の方が良かったか?

 いや、さすがにそれは不自然だろ。

 嘘くさすぎる。

 そして恥ずかしさで俺が死ぬ。


「旦那さんが手伝ってくれるだけマシよマシ。ウチなんて夕飯食べたらすぐに寝ちゃってね?風待さんちのお父さんを見習えってのよ」


 あれ?

 ちょっと態度が軟化してない?

 もしかして大成功?


「椎名さんの旦那様だって頑張ってらっしゃったじゃないですか。まぁ、薫平さんが自慢の旦那様って所は否定しませんけど」


「あー」


「ナナもそう思うよねー?」


 冗談っぽく笑うアオイに、ナナが相づちを打った。


「まぁまぁ、ごちそうさま」


 椎名の奥様は呆れた様に苦笑いを浮かべた。


「えへへ」


 シャワーノズルをネックに戻し、ナナを抱えてアオイが立ち上がる。

 タオル掛けに干されていたベビータオルを手に取り、ナナのお尻を拭いた後に全身を包む。


「お待たせしました。私達は戻りますね?ほらナナ、バイバイして」


「だぅ」


「ばぁ」


 アオイはナナの手を取って椎名の奥様へと振る。

 俺も慌ててジャジャの手を取り、同じようにバイバイをさせた。


「はいナナちゃんもジャジャちゃんもバイバーイ。おやすみなさいねー」


「おやすみなさーい」


「あ、おやすみなさい」


 アオイに続いて返事を返し、振り向きざまに考える。

 もう一個ぐらい作戦を発動させてみるか?

 ええい、考える前にやってしまうのが風待薫平だろうが。


 二人で並んで扉に向かう際に、意を決して右側を歩くアオイの肩を抱き寄せた。

 密着するアオイの体。

 そのまま俺の腕はアオイの腰へと移る。

 これは、カップルならよくやるよ……な?

 街でたまに見かけるし、もっとえげつなく密着してるのも見たことあるから、まだ軽い方だろ?


 入り口を出て扉を閉める。


「はー、意外と仲良いのね……」


 中から施錠する音と一緒に、椎名の奥様の小さな声が聞こえてきた。

 だ、大勝利!?


「……薫平さん?」


「ん?」


 いくら何でも不審に思ったのか、廊下を歩きながらアオイが俺の顔を伺ってくる。

 も、もう離れた方がいいかな?

 いやでも、すぐに離れるのもなんか違う気がするし。


「ど、どうした?」


「いえ、お顔真っ赤ですけど。薫平さんこそどうしたんですか?」


「き、気のせいじゃないか?何ともないぞ」


 静まれ俺の心臓。

 こんな時にそんなハイテンポなリズムを刻むんじゃない。

 バレちまうだろうが。

 ご機嫌なナンバーはフロアを盛り上げるまでとっておきなさい!


「そうですか?それならいいんですけど……」


 相変わらず俺の左手はアオイの細い腰に回されている。うわ、柔けぇ。何だコレ。

 そういやこんなガッシリ触る事、今まで無かったな。

 ダメだ!意識したら不味い!

 そうでなくても俺の下半身は過敏なお年頃なんだから!


 息を整えて、心を落ち着かせる。

 試しにアオイの様子を見てみよう。

 んー。

 またしてもアオイの態度は普段と変わらない。

 よくよく考えたら、以前からこの程度の接触はかなりの頻度であったな。

 自室やソファの上だと、アオイが完全に俺の膝の上に乗っかってる場合もあるんだ。

 アオイとしては今更すぎて、特に驚きも無いのだろう。


「……なんだか、今日の薫平さんはいつもより優しいですね。いえ、普段も優しく無い訳じゃ無いんですけど」


 いや、効いてる。

 効いてるぞこれ。


「そうか?」


「はい」


「あー」


「だー」


 アオイの言葉に反応したのか、ジャジャとナナがアオイを真似て頷いた。


「ほら、ジャジャとナナもそう言ってます」


「気のせいだって。ほら今日も疲れたろ?早く戻ってチビ達におっぱいやって寝ようぜ?」


 うまく誤魔化せただろうか。


「そうですね。ここで寝泊まりしてると、一緒に授乳させるタイミングを図るのも難しいですしね」


 何だか上機嫌なアオイは、ナナに頬ずりをする。


「今日はいい夢が見れそうです。ね?」


「あぅ?」


 微笑みながらナナに問いかけるアオイと、不思議がるナナ。


 ……あの程度でここまで喜んで貰えるとは思わなかったな。

 恥ずかしさを我慢した甲斐があったのだろうか。

 アオイが喜んでくれたなら、良しとしよう。


 それと分かった事が一つある。

 周りの人の俺を見る目だ。


 どうやら噂が先行しててイメージの悪い俺を、周囲は直接見てはいない。

 恐ろしいのもあるし、戸惑ってるのもあるのだろう。どう接したら良いのか分からないだ。

 だから殆どの人は『アオイを通した俺』を見て、接し方を決めている。


 アオイが方々で俺の事を良いように伝えている所為もあるのだろう。

 俺のイメージが輪郭を失ってボヤけているんだ。

 噂で聞く俺と、アオイが嬉しそうに伝える俺とのギャップで混乱している。

 一番分かりやすいアオイへの接し方と喜び様が、椎名の奥様の中の俺をはっきりと形作ったんだ。

 だから態度が急に軟化した。


 これは効果があるぞ。

 つまり俺がアオイと仲良く見せれば見せる程、『風待さん家の若夫婦』の総合的なイメージが上がっていくって事だ。


 俺でマイナスしてる分をアオイの大きなプラスでカバーして、なおかつ仲睦まじい様子を見せる毎に上昇していく。


 いける。

 これはいける。


「ジャジャはおねむかな?」


「あくぁ、ふあぁ」


 アオイが俺の腕の中のジャジャを見る。

 可愛らしく欠伸をするジャジャ。


「ふあぁ?」


 ジャジャの欠伸が移ったのか、ナナまで大きく口を開けた。


「もう少し待ってね二人とも。もうすぐ着くからねー」


 俺達家族が寝泊まりをしている会議室はもうすぐそこだ。


「……よし」


 小さく意気込み、覚悟を決めた。

 本来なら周りに見られて無いと意味は無いのだが、さっきのアオイの喜んだ顔は素直に嬉しいからもう少しだけ頑張って見よう。


 寝る前に、もう一個だけ作戦発動だ。

 この作戦は人に見せられないと言う大きな欠陥のせいでお蔵入りをしていたのだが、見せないなら問題無い。

 問題はもしかしたら興奮しすぎて死ぬかもしれんと言う事だが。

 何だか今の俺は作戦成功に酔いしれてハイになっている。

 多分、こんな時にしかできない。

 男は度胸って言うからな。

 やれるウチにヤっちまおう!


 会議室のドアが開く。

 今宵、この場所は戦場となる。

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