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心配、かけたね①

「すいません!お医者様!私の夫が!」


「あ、アオイ!落ち着け!」


「落ち着いてられません!お医者様はどちらに行かれましたか!?」


 アオイに背負われた状態で、公民館まで運ばれてしまった。

 鬼気迫る表情で駆け寄ってきたアオイは俺の背中の怪我を見るや否や、顔面を蒼白にして無言で俺を捕まえ、物凄いスピードでここまで来たのだ


「兄ちゃん!」


 消防隊員や救急の人がバタバタと忙しなく動く公民館の玄関。その下駄箱の前に我が弟、翔平の姿があった。


「翔平、無事だっ……」


「何してんだよ!なんでそんな大怪我!」


「あ、あの、翔?」


「心配した通りじゃないか!また無茶したんだろ馬鹿兄貴!」


 なぁ、少しは兄ちゃんの話、聞いてくんない?

 怒られる覚悟はしていたんだけど、もう少しさぁ。


「アオイ姉ちゃん!こっちだよ!救急の人達こっちで怪我人診てる!」


「分かりました!すいません怪我人が通ります!」


 アオイに背負われたまま、人混みを掻き分けて廊下を進む。

 公民館に併設された小さな体育館に、仮設の救護スペースが出来ていた。


「兄貴!」


「風待君!」


 体育館に運ばれると、ちょうど救急隊の人に手当てをされていたドギー巡査と、それに付き添っていた牧雄が居た。

 ドギー巡査の千切れた制服の下からは包帯が巻かれていて、どうやら救急処置は済んでいるようだ


「牧雄!良かった。ちゃんと辿り着いてたんだな?他の子供達や雛ちゃんは?」


 アオイの背中で二人を見つけた俺は少しだけ上体を上げて二人を見やり、次に周囲を見渡して子供達の姿を探す。


「雛は子供達の親御さんを探しに行ってます。みんなここら辺の子供達だから、親御さんも公民館に避難しているんじゃないかって」


「そっか、良かった……」


 牧雄の言葉に肩の力が抜ける。

 あの子達が無事なら、怪我までした甲斐があるってもんだ。


「それより風待君!あなた酷い怪我じゃない!重傷者はあそこで処置を受けてるわ!こっちよ!」


 話に割って入って来たドギー巡査が立ち上がり、衝立で区切られた救護スペースを指差した。


「ありがとうございますドギーさん!すいません!私の夫が!」


「兄なんですけど!背中に大怪我を!」


 ドギー巡査に促されて、アオイが救護スペースへと急いで入る。

 随伴する翔平も勢いよく雪崩れ込んで来て、衝立ついたてで区切られた救護スペースの中に居た救急隊員の人がギョッとした。


「あの!夫を助けて下さい!」


「え、奥さん!?あ、いや。分かりました!寝台にゆっくり寝かせて下さい!」


 救急隊員の人が困惑している。そりゃそうだ。アオイの見た目で結婚してるなんて言われたら困惑するだろう。正確には俺たち結婚してませんけど!


「はい!」


「アオイ姉ちゃん、こっちだよ」


 翔平の補助を貰いながら、アオイは俺を簡易ベッドにゆっくりと下ろした。

 うつ伏せでベッドに寝て枕がわりのタオルに顎を置く。


「こりゃ、酷いな。軽い処置はされてるみたいだけど、急いだ方がいい。奥さん良いですか?」


「なんですか!?」


 グイグイと隊員の女の人に詰め寄るアオイ。


「あ、あの。私は医者ではないので本格的な処置は無理なんですが、救護本部になっている病院には魔族の医師もいらっしゃいますから、後日必ず向かって下さい。あそこなら治癒魔法での治療も可能なので」


 詰め寄られた救急隊員の人が身を逸らしながら説明をした。


「今ここじゃ治らないんですか!?」


「完璧には無理なんです。あくまで応急処置ですから」


「そんな!」


「だ、大丈夫です!魔法薬で出血は止まってるし、命に別状があるような状態じゃないですから!」


「あ、アオイ。無理言ったらダメだって。治療を受けれるだけでありがたいんだから」


 ちょっと焦りすぎだ。そんな食い気味だと隊員さんが困るだろ。


「……だって、だってぇ」


「ご、ごめんな?」


 アオイの瞳が潤って来た。

 心配、するよなそりゃ。

 間違いなく俺のせいだから、これ以上強くいう事もできない。

 止まる事なく流れる涙を拭うアオイは、簡易ベッドの隣でへたり込んでしまった。


「兄ちゃん!アオイ姉ちゃん凄い心配してたんだからね!」


「うっ、悪い。本当に」


 パイプ椅子を運んで来た翔平に怒られた。


「アオイ姉ちゃん。こっち座って?僕、チビ達の所行ってくるね?」


 パイプ椅子を広げた翔平はアオイの肩に手を置いてパイプ椅子へと誘導する。


「あ、ありがとうございます翔平さん……」


 力なく立ち上がったアオイは、ヨロヨロとパイプ椅子に座った。


「翔平君、双子ちゃん達はママと一緒なのよね?私も行くわ」


「はい。公民館の仮眠室を貸してもらってて、ジャジャ達そこで眠ってるんです」


 ドギー巡査を案内しながら、翔平は体育館から出て行った。

 ジャジャとナナはユリーさんと一緒か。良かった。早く顔を見に行かなきゃ。


「あに……薫平くん。僕も雛を探して手伝って来ますね」


「おう。そっちも、任せっぱなしごめんな?頼むわ」


「うん。任せて」


 まだ俺の名前を言い慣れてない牧雄は、苦笑しながら手を振ると、人混みに消えて行く。


「魔法薬で一時的に麻酔が効いてる状態なんで、一気に処置しちゃいますね?痛みが出たら言って下さい。出来るだけリラックスして下さいね」


「あ、分かりました。お願いします」


 消毒液や包帯を持った救急隊員の人に言われて、体の力を緩める。

 急激に訪れる眠気。

 アオイや翔平の顔を見て、双子達の無事を知ったからだろうか。

 今まで興奮して忘れていた疲労感と倦怠感が、一気に体の内側から溢れてきた。


「無事……では無かったですけど。顔が見れて良かったです」


 まだ瞳に涙を浮かべているアオイが、ジャージの裾で涙を拭いながら俺に話しかけた。


「……ごめん。俺も少しテンパってた。お前やチビ達が心配で、ちょっと考えが足りなかった」


 俺の悪い部分を全部出したな。

 考える前に動いてしまった。もう少し、上手くいく方法もあったかも知れない。


「いえ、私たちも慌ててしまって何もできませんでした。家の周りが木で覆われてしまった時に気が動転しちゃってて、薫平さんに連絡する事ができませんでした。気づいた時には停電で電話使えなくなってて。消防団の人の指示が無かったらここまで来れてたかどうか……」


 そっか。アオイ達はアオイ達で大騒ぎだったんだな。


「翔平とは家で?」


「いえ、私が迎えに行きました。下校途中であの騒ぎに巻き込まれたそうで。翔平さんは集団下校中で下級生を引率されてたんです」


 ああ、そういえば。

 なんかの委員会に入ってそういった係になったって言ってたな。


「小さな子と避難してる最中に伸びてきた木に驚いてスマホ無くしてしまったそうなんです。とりあえず近くの大きな施設を目指して避難してきたようで、下校ルートをユリーさんに教えてもらって私が向かってる途中で会いました」


 そうか。

 さすが翔平。あんな混乱の中でもしっかりと冷静に判断できたみたいだ。


「チビ達、怖がってたろ?」


「ナナは怖がってましたけど、ジャジャはなんか楽しそうでしたね。ただ公民館は人が多すぎてさすがのジャジャもちょっとぐずってましたけど。職員さんの配慮で、赤ちゃんと一緒のお母さん方は仮眠室を空けて貰ったんです。おっぱいとか欲しがる子も居るので」


「他の人は?」


「多目的ルームや会議室や職員室に。ここら辺の世帯の方や下校中の子供達が多いんで、今大変な事になってます。私も少し机の移動とかお手伝いしました」


「そっか」


 こっちも大変だったんだな。


「ハンターさんや消防の人、救急の人達がすぐに来てくれて手分けして子供達や近隣の人の救助と捜索に出たんです。なんかA級ハンターさんが陣頭指揮を取ってくれたおかげでかなり迅速に行動してくれてるって薬局のおじさんが言ってました」


 ん?

 もしかしなくても、ガサラの兄貴分のセイジツさんの事か?

 さっきの戦闘でもなんとなくわかったけど、あの人もしかしてかなり凄い人なんじゃないだろうか。


「なんでお前、外に出てたんだ?」


 そういえば、かなりタイミングよく現れたな。


「ジャジャとナナを寝かしつけた後に、いても立ってもいられなくなって何かお手伝いしようと仮眠室を出たら、怪我をしたドギーさんが公民館に運ばれて来たんです。さっきの男の子や他の子供達と一緒に。慌ててユリーさんに知らせて、ここまで運んで来た時に薫平さんが外に居るって教えてくれて、それで」


 なるほどな。

 いやマジで牧雄がグッジョブすぎる。

 アイツが子供達やドギー巡査をここまで誘導してくれてなけりゃ、下手したらルージュも間に合わなかったかもしれない。


「後で、礼言っとかねぇとなぁ」


「はい?」


「あ、いやこっちの話だ。親父もこっち向かってるらしいから、後で電話してやらねぇとな」


 後、三隈もだな。きっとアイツも心配してる。


「公民館の電話、いま色んな人の安否確認に使われてるんです。かなり順番待ちになってて……」


 回線、混乱してるみたいだしなぁ。親父と三隈への電話、少し後になるかもしれん。俺のスマートフォンももうほとんど電池切れだしな。


 あ、そういえば。


「アオイ、ルージュと会ったぞ?」


「ルージュ……さんですか?どなたですか?」


 あれ?

 ルージュの口ぶりだと昔馴染みだった感じだったんだけど。



「私」


「うぉっ!いつの間に!」


 突然の声にビクついてしまう。

 救護スペースの衝立ついたての横にルージュが立っていた。

 肩にガサラを片手で肩に担いでいた。


「あ、あの下ろして……」


「ん」


 かなり恥ずかしそうなガサラを衝立ついたてにもたれかけさせ、ルージュはそのボロボロのマントを叩いてズレを直した。


「この姉ちゃん、怖ぇよ……」


「あなたのお兄さんにお願いされたから。怪我人は大人しくしとく」


「いや、俺歩けたし……」


「怪我人は大人しくしとく」


 ……頑固だな。


「……ルゥ姉様?」


「ん。今はルージュリヒテー。久しぶりアイ。あ、違う。今はアオイノウンだった」


 大きく目を見開いて、アオイはルージュを見ている。

 ルージュは相変わらずの無表情だが、よくよく見ると口元が少し緩んでいた。


「ん。昔も可愛かったけど、今も変わらず可愛い。逢えて良かった。アオイと子供達、護りに来たよ」


 そう言ってルージュは、パイプ椅子に座るアオイを優しく抱きしめた。


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