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彼女はまるで、静かに燃える真っ赤な炎②

「見つかって良かった。あの可愛くない鼠、町の様子がおかしいって言うだけ言って消えたから」


 その言葉を聞きながら、俺はルテンが気になって正面を見る。


「は?」


 思わず、短い疑問の言葉が口から出た。


 目の前に、真っ赤な壁がある。

 それは揺れるように波打ちながら、見るだけでわかる熱量は発して、俺達とルテンの間に存在感高めにそびえ立つ。


 火、だ。

 燃え盛る炎の壁が、ルテンの放つ風のブレスを遮っている。


「急いで来た甲斐があった。良いモノが見れた」


「え?」


 ルージュリヒテーと名乗るその女性は、ゆっくりと目を閉じて静かに語った。


「貴方、子供達を守っていた。素晴らしい。本当に素晴らしい。そう、どんな種族だろうと小さい者は守るべき。それが子供なら尚更。あのアイが大きくなって子供を産んだ上に人間と暮らしてて、その人間が龍の父親と聞かされた時は心配だったけど、今のを見たら安心した。ちょっと目つきの悪さが酷いけど、貴方は優しい人。アイ、いやアオイノウンの子供達も安心」


「う、うん?」


 小刻みに身体を震わせて、ルージュリヒテーは尚も語り続ける。


「可愛い子供達は全力で守るべき。私が来たからには双子の身はもう大丈夫。全力全霊で守る事を約束する。アオイノウンが小さかった時も最高に可愛かった。ならその子供達も絶対可愛らしく利口に違いない。あぁ、早く会いたい。会ってお話しして抱っこしておしめを替えたりミルクをあげたりしたい。ずっと遊んであげたい」


「あの、ルージュ、リヒテーさん?」


 置いてけぼり、なんだけど。


 だんだんと赤みを帯びて行くその無表情。

 恍惚って表現がぴったりだった。

 小脇に抱えられた俺はその表情に若干引き気味である。


「あ、ごめん。ちょっと未来が明るすぎて」


 なに言ってんだこの美人さん。


「も、もう大丈夫なので、放してもらっても良いですか?あの、ありがとうございます」


 思わず敬語で喋ってしまった。


「ん。良く見たら怪我も酷い。休んでて。あとは私の仕事」


 脇に抱えられた状態から、優しく地面に座らされた。

 改めて、ルージュリヒテーの姿を見上げる。


 身長は、俺と同じぐらいか?

 身体をスッポリ隠すボロボロのマントを羽織っていて、大雑把なシルエットしか分からないけれど、多分すごいグラマラスな人だ。

 マントから伸びている黒い尻尾は、アオイや双子達と違って固そうな鱗に覆われていて、しかもかなり長いし太い。

 顔を見る。鼻はスッと通っていて高い。

 つり上がった目元は、俺のと違って凶悪さを感じない。

 耳の上あたりから後ろに伸びる、長短2種類、合計四つの角は綺麗な赤黒をしていて、まるで磨かれた宝石のような光を放っている。

 その髪は、あまり手入れをしていないのか腰まで長いのにボサボサと広がっている。

 でも間違いなく、美人さんである。


 アオイとその母であるユールは、その頭髪の色もあって透き通るような清純さを感じさせる。ユールに関しては性格がアレだから、詐欺みたいなもんだけど。

 ルージュリヒテーはなんかこう、ワイルドで大味な感じだ。

 決して清潔感が無いという意味では無い。

 その余裕たっぷりの堂々とした佇まいが、かなり似合っている。


「ん。なに?」


「あ、いや、あの」


 ついマジマジと見続けてしまった。

 慌てて姿勢を正す。


「俺、薫平。風待薫平。あの、双子の、親父だ」


「そう、風待薫平……薫平と呼んだ方が楽。私はルージュで良い」


 相変わらずの無表情で、俺に右手を差し出して来た。

 握手で、良いんだよな?


「お、おう。よろしくルージュ」


「ん……ふ」


 その手を握った瞬間、ルージュはその身体をブルリと震わせた。

 何だ。俺なんかしたか?

 今の仕草、なんかエロいんですけど。


「おい、だ、大丈夫か?」


 俺の手は予想外に強い力で握られたままだ。

 手を離す事も出来ないから、一応心配してみる。


「……だい、じょうぶ。独り立ちした時に貰ったこの名前、母様以外に呼ばれたの、初めて。他の人に触られたのも久しぶりだったから、ちょっと気持ちよかっただけ。名前を呼ばれるの、嬉しい」


 目元と口元を緩めて、ルージュは静かに笑った。

 いや、あの、ルージュさん?

 俺、別にやらしい事していないよね!?

 その無駄にエロい仕草やめてくれない!?


『風待!どうなってる!無事か!何だこの炎!おい!返事しろ悪人面!』


「あ」


 良く見たら炎の壁は俺の周りをぐるりと一周していた。

 その向こうからガサライオの必死な声が聞こえる。


『クオオオオオオオオオオオッ!』


 伸びの良い声に驚いて、上を見る。

 いつのまにかブレスを止めていたルテンが、悔しそうに上空を旋回している。


「ん。あの鳥みたいなの。可愛くないし邪魔。すぐ片付ける」


 それを見上げたルージュが、ようやく俺の手を離した。


「片付けるって」


「私は地龍だから飛ぶことはできないけれど、あの程度の高さなら届く」


 そう言って右手を一回振った。

 同時に頭の4本の角が眩く発光する。


「精霊も、何だか喜んでる。何だろう。この町に来てからヤケに機嫌が良い」


「うおっ!」


 抑揚の無い声に反して、その右手から放たれた炎の勢いが凄まじい。

 地面を焦がすその様は、まるで火炎放射機だ。


「心配ない。力の制御は完璧。伊達に二百年も修行してない」


 炎にビビって身を竦めた俺を見て、ルージュは言う。


「昔は制御しきれなくてみんなから怖がられてたけど、子供達と遊ぶために全力で頑張った」


 火炎放射器が、だんだんと細くなっていく。


「私は地龍。アークドラゴン」


 やがてその炎の色は赤から青に変わり、糸のような細さへと変わった。


「地を鎮め、炎を制する龍」


 もはや一本の線となった炎をビュンビュンと軽く振り回し、ルージュは上空のルテンを見た。


「地龍王、ルビー・ドランゲイルの一人娘」


 そして無駄の一切ないスムーズな動きで、ルージュは炎をルテン目掛けて振り下ろした。


『クァッ……』


「え?」


 ルージュから上空のルテンまでの間、目算で20mはあろうその空間に、薄い雲のような軌跡が走った。




「『悠久』のルージュは、こう見えて結構強い」




 鼻息荒く、両手を腰に添えて、ルージュは静かにドヤった。

 ルテンを、真っ二つに『燃やし』て。

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