表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/201

家族になろうよ①

 

「それで、彼女の卵が盗まれたと言われたのね?」


 犬族の婦警さんから調書を取られていた。

 あの後すぐに到着した警察に事情を説明したのだ。どうやら買い物客から通報があったようだ。

 だけど外は寒いし、赤ん坊だっている。

 最寄りの交番も遠いので、様子を見てたこのスーパーの店長さんの厚意で、この事務所に案内して貰った。


「いや、俺は子供が拐われたとだけ」


「それで、走行中の車に飛び乗って、犯人を成敗したと」


 呆れた顔の犬耳の女性。スタイルも抜群で正直カッコいい。


「ドギー巡査、やっぱりダメですね。龍の赤ん坊となると、どこの病院も搬送を断るそうです」


 人間のお巡りさんが、電話を終えて戻ってきた。


「そう。ありがとう井上巡査。困ったわね。龍とはいえ産まれたてだもの。心配だわ」


 そう言いながら、事務所奥のソファを見る。

 座っているのはアオイノウンだ。

 さん呼びが違和感があったので呼び捨てにしている。


「しょうがないですよ。十年前の事件は有名ですから」


 人間のお巡りさんは腕を組んで溜息を吐いた。


「事件、ですか?」


 何か龍に関する困った事でもあったのだろうか。


「……十年ぐらい前にね。北欧の方だったかしら、ある歯科医院に龍が現れたのよ」


「歯医者に」


 龍も、虫歯になるのか。


「そう、痛みに耐えかねた龍がね。それで、そこの歯科医がなんとか治療をしようと試みたのだけれど、ドリルすら通らなかったらしいの」


「龍だからなぁ」


 ドギー巡査に同調しながら、深く頷く井上と呼ばれていた巡査。


「いつまで経っても進まない治療に腹を立てた龍は、歯科医院を建物ごと粉砕したのよ」


「は?」


 ちょっと、意味がわからない。


「それも、近隣の歯科全部よ。治療に訪れては壊し、って半年ぐらい続いたわ。150件ぐらいかしら。死者はおろか怪我人すら出てないのは、さすが龍としか言えないけど」


「その事件のせいでね。病院関係や救急隊とかには、龍の患者がきてもどうする事も出来ないし、対処できないってのは通説なんだ」


 ドギー巡査も井上巡査も困った顔でアオイノウンを見た。


「ドラゴラインさん。赤ちゃん達は大丈夫?」


「あ、気持ち良さそうに寝てるんで、大丈夫ですから」


 両腕に双子の姉妹を抱え、毛布で包まれている。

 この毛布と、女性用の下着と服は、もちろん店長さんの厚意だ。

 なんと優しい人か。これが、田舎のヌクモリティか。


「風待君は、家と連絡ついた?君はこのまま病院に行って貰いたいんだけど」


「あ、一応。親父が迎えに来るそうです」


「そう。良かったわ。被害と呼べる被害は無いし、落雷も人に当たってないのはさすが龍ね。あの三人組も、怪我はしてるけど大した事じゃないわ。私達みたいな獣人はタフだけが取り柄だもの」


「というわけで、風待君とアオイノウンさんは、事情が事情だけに無罪放免だ。風待君は、少し厳重注意があるがね」


 そりゃ良かった。

 ドラゴン姿のアオイノウンが、落雷を落としまくっていたからな。誰も怪我がないのは重畳だ。


「調書は記録しなきゃならないから、住所を書いて欲しいのだけど、ドラゴラインさんは、えーと、家とかってある?」


 心配そうな顔で、ドギー巡査が腰を屈めてアオイノウンと目線を合わせる。


「あ、あの、家は無くて、巣ならあるんですけど」


「やっぱりか。龍に関する古い伝説どおりね。どこにあるかとかは、言える?種族のしきたりもあるだろうから、無理にとは言わないわ」


 多種族が多い地域ほど、警察とかお役所は柔軟になるって本当だったんだな。

 引っ越す前の土地のポリ公はいけ好かない奴が多かったんだが。


「あ、あの大岩の頂上です」


 アオイノウンは、窓の外を指指した。

 それは俺の家のある森の、深いところにそびえ立つ逆三角形の一枚岩。


「牙岩に住んでいたの?へー私もこの町生まれだけど、知らなかったなー」


「あの岩を登れる奴なんて居ませんからね。内部はダンジョンになってますし」


 ダンジョン!井上巡査、ダンジョンって言ったか!?

 ダンジョンがあるのか!

 聞いたことはあるが、実際にあるとは驚きだ!


「ちょ、頂上はダンジョンとは関係無いんです。ダンジョンから上がって来れますけど、今日きた龍殺し(ドラゴンスレイヤー)以外の人は、大抵ダンジョンの最上階で宝物を拾って帰るし、頂上への道は見つけづらいから」


 何故か照れながら、アオイノウンははにかんだ。

 抱きかかえている赤ん坊がすこし身じろぐ。あの子はお姉ちゃんだな。


「んじゃ、あの三人はどっかで頂上に龍がいる事を聞いて、お宝を狙ってたのね。龍血石とかかしら」


「卵を盗んだのは偶々ですかね」


「「龍血石?」」


 聞きなれない単語が出てきた。何故かアオイノウンも不思議そうな顔をしている。


「あれ?龍の巣って言ったら、卵か龍血石でしょ?実際に売られてるわよ?目玉が飛び出る値段で」


「真っ赤な宝石の一種だよ。龍の巣でしか取れないらしいんだ」


 巡査コンビが説明してくれた。


「宝石?そんなの見た事、あれ?それ、卵の事ですか?」


「卵?いえ、宝石よ?」


「あ、あの、龍は産卵期になると卵を産むんですけど、ほとんどが命の宿らない卵なんです。そういった卵はすぐに真っ赤に染まっちゃって、とりあえず巣に押し込む物なんですけど」


 事務所の隅に置いてある、卵の殻を見た。

 なんとなく放置できなくて、俺が集めて持ってきた。


「へ、へー。まあ、龍に関しては分からない事の方が多いし、なんとなく触れちゃいけない感じになってるから、そういう事も有るわよね」


「とりあえず、風待君の調書を書こうか。親父さん、すぐに来るんだろ?」


 まあ、迷ってなければだけどな。


 そのあとは、誘拐犯を引き取りに来たパトカーや、赤ちゃんを見に来た店長さんの奥さんとかで、事務所は賑わった。


 親父が来たのは、たっぷり一時間後だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール

作者の別作品です!!



書籍1〜2巻、コミックス2巻は2019年12月24日発売!
帰宅途中で嫁と娘ができたんだけど、ドラゴンだった。


可愛い使い魔達とのんびり異世界ライフ
天騎士カイリと無敵に可愛い天魔パレード!

ハードな現代ファンタジーが読みたいなら
トーキョー・ロールプレイング~クソゲーと化した世界で僕らは明日の夢を見る~

えっちなお嫁さんは嫌いですか?
鬼一族の若夫婦〜借金のカタとして嫁いで来たはずの嫁がやけに積極的で、僕はとっても困っている〜

問題だらけのハーレムを従えて、最強の人狼が借金返済にひた走る!
騙されて多額の借金を背負った人狼、最狂のハーレムクランでのし上る! 〜火力が極限すぎてえげつない〜

あっちにもこっちにも勇者ちゃん!高校生エージェント、猟介の苦難が止まらない!
勇者ちゃん、異世界より来たる!〜とんでも勇者の世話をすることになったんだが、俺はもうくじけそう〜
よかったらどうぞ。
― 新着の感想 ―
[一言] 無精卵の殻はレア素材……ドラゴンに棄てる部位なし……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ