捨て駒
「最近、よく出てるな。
このコンビ」
男はテレビが好きだった。
低俗な芸能人がくだらない事をする。
男は人を見下すのが好きだった。
「LLコンビだな」
身長が高い東出昌大と松山ケンイチ。
松山と言えば、何といっても『デスノート』でのL役だろう。
番組の終わりころになると、番宣。
『聖の青春』、将棋の映画のようだ。
難病に苦しめられた棋士の物語、実話ということだ。
男は天を見上げた。
何かを思い描いているように。
まるで次の駒をどう動かすか、
何通りも考えているかのように。
「将棋か」
男はニヤリと顔を崩した。
その翌日。
「加藤は飛車、
鈴木は角、
平岩は金、
箕浦は銀」
男は広いデスクの上で資料の裏にメモをしていた。
部下が作った、くだらない企画書だ。
「こいつは、歩」
資料を裏返し、名前を確認した。
「あとはみんな歩だな」
使えない奴らの名前を記憶する脳の容量を持ち合わせていなかった。
男は戦いのシミュレーションした。
これから争う相手と。
ライバル会社にどう勝つか、というシミュレーションを。
「まず、歩で先手を取る」
男は一つ頷く。
「こいつらの換えはいっぱいいる」
いわゆる捨て駒だ。
こいつらは使えない、
体力勝負しかない、
死ぬほど残業をさせてやろう。
金さえ払っていれば問題ないだろう。
男は思った。
「その後で動くのが、こいつらだ」
男は資料の上部にペンで丸を描いた。
「バカな上司は売上しか見ない。
捨て駒どもは能率が悪くてもしょうがない。
その分、長く働かせれば売り上げは上がる。
俺のために働てもうら」
長時間労働に耐え切れなくなった捨て駒どもは、
会社を辞めてくれるのだ。
そうなれば、また時給が安い捨て駒を補充できる。
だから、捨て駒なのだ。
「利益は他で帳尻を合わせればいい」
男は天を見つめる。
男は次の一手を模索していた。
男は順調に出世した。
会社は、たとえ強引で無茶なやり方でも、
彼の売り上げに頼っていた。
しかし、社会が劇的に変化していた。
Ai、人工知能の登場だった。
業務Aiだった。
そのAiも社員を駒として動かすのだ。
将棋のように。
その頃、業務より複雑な将棋でもAiに勝てなくなっていた。
よって、男がAiに勝てるわけなかった。
男は連戦連敗の指し手になってしまった。
Aiは残業も抑え『歩』を動かした。
そうして、男は会社を追われた。
だが、捨て駒は捨て駒だった。
指し手が代わっても。
先日、映画『デスノート』見ました。
結構好きでした。
『聖の青春』も見に行こうと思ってます。