昨日、君と会った僕
僕は昨日の出来事を永久に忘れないだろう。
昨日の昼頃、僕は幼馴染の家に行った。彼女は変わらない様子で僕を招き、僕の好きなリンゴジュースを出した。「リンゴジュースが好き?子供かよ!」と思ったあなた。大人がリンゴジュースを好きじゃいけないルールなど無いよ?と、まあ、僕はいつもと変わらない彼女にあった。
彼女の部屋は相変わらず綺麗で、紙の一つも落ちていなかった。古ぼけたマンションの一角にある彼女の部屋は外見からは想像つかないほどである。彼女は彼女の母親が死んでから一人で住んでいた。と言うか、この古ぼけた家賃と整備が比例しないマンションに住む人など、彼女と大家くらいしかいない。僕の家はそのうちの隣にある一軒家で、僕も親を亡くした身であるから、一人で住んでいた。お互い、親を亡くしたのが高校の時だったため、児童施設には入らなかったのだ。
勿論、入れるのなら、入ったほうが生活には余裕はあったのかもしれないが、一人暮らしにあこがれていた時期であったのか、家があるのならここに住んでいたいと思ったのだ。幸い、家のローンなどもなく、あるのは莫大な財産だった。当然、家の維持費などはかかるものの、そんなのも大したことがないほどであった。大学生になった今でもその財産の5分の2くらいしか消費されていない。父はえらく倹約家であったから、いつの間にこんなにたまっていたのだろう。そして僕もその血を受け継いで、無駄遣いは好きではないから、さほど消費されていないのだろう。大学の入学費などはやけに高かったが、それでもまだ、半分以上は残っている。
彼女のほうは知らない。結局、金銭面で大学もいけなかったようだが、今も仕事をしているわけでもないようだ。もうそろそろお金も尽きる頃だろう。
「なあ。バイトしないのか?」
「んー?しないよー。そうゆうこと苦手だもん。お金はまだあるし。……っていうか!竜ちゃん!大学で好きな人とかできた?ねーねー!」
彼女はそう言いながら僕の体をゆすってくる。
「濁すなよ。」
そういった僕の言葉も、彼女には届かないようだ。
「竜ちゃんのタイプってどんなんなのかなあ~!やっぱおっとり系?癒し系いいよねえ~。」
彼女はにやけたような顔をして聞いてくる。
「お前みたいなやつかな。」
僕はふざけてそう言ってみた。
机にあったリンゴジュースをごくりと飲みほし、彼女の顔を確認した。
彼女の顔は真っ赤に染まっており、その後、照れたように少し沈黙した。
「……全くー!竜ちゃんは冗談が得意だなあー!」
実をいうと冗談でもない。実際、彼女が中学のころから僕は彼女が好きだった。しかし、彼女はモテていたから、次々に男を作り、中学の頃の僕はそれでずいぶん苦しんだ。今だってそうなのだろう。そういうところは嫌いだ。
僕は気が付いてくれないことを少し残念に思ったが、言われても迷惑なのかと思い、また、苦しくなった。
「まあ、冗談に決まってるだろ。何一瞬本気にしたんだよ。」
本当はそんな嘘などつきたくない。
しかし、そうしかなかった僕は、そう言って、彼女を笑った。
彼女も、そのろくでもない冗談に笑った。
そして、そのとき、僕は気が付けなかったのだ。
「そー言えばね!さっき、竜ちゃんにあげたリンゴジュース……ど・く・い・りだぞ?」
彼女は真剣に見てきた。
思わずドキッとしたが、彼女の悪戯にはなれていたため、すぐに嘘だと分かった。
「な……そういえば、さっきから……ぐあああああ……息が……息ができない……。」
僕は迫真の演技をした。
「ふふふふ。演技下手すぎ!」
彼女はそう言って、大笑いしていた。
ふと彼女は立ち上がり、リンゴジュースをまたもや持ってきた。今度は大きめのビンに入ったままのリンゴジュースだ。少し減っているから、僕についだものと同じだろう。
「もう一杯、毒入りのジュースはいがが?」
彼女はそう言いながら、僕のグラスと、自分のグラスにもリンゴジュースをついだ。
「あれ?甘いもの嫌いじゃなかったっけ?」
彼女は小さいころから大人の真似をしたがる人だった。
「何歳だと思ってるの?そんな変なプライドとっくに捨てたよ。」
彼女は少し笑ってそういった。
しかし、ここから少し顔を覗かせているキッチンには、たくさんの種類のコーヒーの粉がは置いてあって、やはりまだ苦いものは好きなのだと確信させた。
「……それに。好きな人と同じものは飲みたくなるものなの。」
彼女は微かにそう呟いた。僕は、恥かしさとうれしさのあまり、何と言ったらいいのかわからず、聞こえないふりをした。
「実は両想いなんではないか」なんて、思ってはみるが、彼女の待ち受けに映っていたのは顔は見えなかったが、男の写真で、「好きな彼がいるのか」と、僕は残念になった。
その写真の男は僕かもしれないだなんて思ったが、期待して辛くなるのは自分だということは分かっていたから、変な期待は止めておこうと思った。
冗談だ、冗談だなどと、心の中で何度も言い聞かせ、それでも少し期待した僕は、また今度確認してみようと、今確認できない意気地なしになった。
「このリンゴジュースさ、結構高かったの。いやー。実は1か月前から買っておいてたんだけどね。普通のスーパーじゃ変えない代物なの!農地から直接購入したのよ!おいしいでしょー!実は今日が賞味期限だったりするの。」
彼女はなぜ、お金がないのに無駄遣いをするのだろうか?
「竜ちゃんのために買ってきたんだよー。本当は誕生日の時に一緒に飲もうかなーって思ってたんだけどね。竜ちゃん来なかったじゃん?」
そういえば、誕生日の日(3週間前)、彼女から電話があって「一緒に飲もうよー!」と言われていたのだ。てっきりお酒を買ってきたのかと思ったのだが、まさか高級ジュースだとは思わなかった。その日は、大学の人たちに誘われて盛大に祝ってもらうということで断ったのだが、今日来てよかったと心から思った。
「このまま僕が来なかったらどうするつもりだったんだよ?」
僕はジュースを飲みほした後聞いた。
「うーん。賞味期限切れのジュースを黙って出すか、自分で飲みほすかな。もったいないけど。」
彼女は笑顔のままで言ってきた。
「危なかったわ……。お腹壊すとこだった。」
僕はそう言って、胸をなで下した。
「いやいや。賞味期限が切れたくらいじゃ死なないよ。お腹も痛くならないと思う!味が落ちるだけで。消費期限は危ないらしいけど。」
確か、テレビでそんなことを言っていたのを覚えている。
「へー。まあ、賞味期限切れってわかればそれだけであまり飲みたくなくなるけどな。」
「私は気にしないけど。竜ちゃんは神経質すぎるんだよー。」
まあ、よく言われることだ。神経質何て遺伝なんだから仕方がないじゃないか。などと言い訳をしてしまうけど、実際、直そうとしていないのは自分なのだ。この性格のおかげで部屋はきれいだし、ノートだっけみやすかったりするのだ。
「まあ、いつも言われるよ。」
「その半分は私かな?結構言ってるもんね。」
彼女は自慢そうに言ってきた。自慢することは一つもないはずだが、のんきな奴だ。
「ふわわわ」
彼女はあくびをしだした。
「眠くなってきちゃった。」
彼女はにっこりと幸せそうにいった。
「今はまだ昼だぞ?まあいい。寝るんだったら僕は帰るから。」
「うん。じゃあねー。」
彼女はうつぶせになったまま、目を閉じた。
「おやすみ……ってもう寝てるのかよ。」
早いなと思いつつ、僕は電気部屋の電気を消して彼女の家を出た。
今日はやけに曇っていたから、電気をつけていたのだ。
部屋の中の静けさと、外の静けさはどうかし、なんとも不気味になった。さっきまでの煩さはどこへ行ったのだろうか。なんとなく、笑えてきた。
家に帰ると、僕は大学の課題を始めた。
日が沈む前に、僕は早めに寝た。どうも疲れたようだ。課題はまだ終わっていなかったが、あまりの眠気にそのままベットにダイブした。
「ああ、まだ電気けしてないや。まあいっか。」
彼女の部屋にはあれから明かりが付くことはなかった。彼女も相当疲れていたのだろう。
そして、僕は二度と彼女の楽しげな冗談も、笑顔も、自慢だって聞くことはできなくなった。
彼女に再開した時、彼女はまだ、眠っていた。
「全く、早く起きろよ。」
僕がいくらそういっても、彼女は起きることがなかった。
そして、僕もその隣にぐっすりと眠っていた。
「……ああ、電気消してなかったな。消さなくちゃ。」
彼女は冗談など言ってなかった。一言も。
ああ、ここで終わった。
僕も終わった。
僕はふと思い出した。
両親の死を目撃したあの日のことを。
あの日、僕は、僕と親以外の人をあの部屋で見ていなかった。
彼女の親も、彼の親も、どうして同じような時期に死んだんでしょう?きっと、その人たちに近い人が殺したんじゃないでしょうか?……例えば、毒殺とか。
楽しんでもらえたら幸いの極みです!