虹
本日分の更新です。と言いたいところでしが、本日は後でもう1話追加予定です。
1匹目の悪魔のそばまで来る。間違いなくそれはエリニュスで、一気に叩かないと危険な悪魔だ。
「お前が我らをここまでやったの……」
言いかけたところでスコッと頭に矢が刺さり、炎を吹き上げエリニュスが苦しむ。
矢が飛んできた方角を見ると1人の人間が弓を構えてこちらに向かってくる。
「そいつは俺達の獲物だ。あっちでもやっていろ」
そこにはオルカさんの姿があった。
「アリエル! 1人足らないが行けるな?」
「オルカ、貴方……分かった。全力サポートするわ」
『サーラ、悪いけどエリニュスはあたしとオルカに任せて。たぶんこれもオルカの勘だったのかもしれない』
『さすが、なのかな?』
そう言っているうちにオルカさんは弓をどんどん撃ち込みながら、接近戦に持ち込み出すために近寄っていく。
私は残る1匹の悪魔に視線を移して、縮地法で一気に近づく。
ガシューーー
不気味な呼吸音が聞こえる。その姿はコウモリの翼に角の生えた頭部と牙を持つ顔は邪悪そのもので、全身からは炎が噴き上がり、手には炎を纏った鞭ともう一方の手に剣を持っている。
「あれはバルログ……サハラ様ダメでありんすぇ。あれは悪鬼でありんすぇ。悪鬼は悪魔と違って、その存在自体が邪悪でこわすと殺戮だけを望む悪魔で、神に対抗する為に悪魔が従えさせているんでありんすぇ。強さは並の悪魔とは桁違いですぇ!」
バルログ、4メートルを超える巨大な悪鬼で数多のデミヒューマンを従えさせる力を持ち、近づく者はその身体から噴き出してくる炎に包まれて焼かれ、片手に持つ炎の鞭により鎧などを容易く破壊して致傷を与えてくる。そしてもう一方に片手に持つ剣は首切りの剣で、首に当たれば相手の首を切り落とす。
知能も高いが、共通語は使えず悪魔語のみのため見た目で判断すると手痛い攻撃を受ける羽目になる。
また、魔法に対して強い抵抗力を持つため、大半の魔法を無効化する癖に、ソーサラーのように魔法を使ってくる。
アルがなぜダメだというのか私には分からない。ただ言えることは、アルの未来で出会っている私は今の私と違うように感じた。
繰り出される鞭を躱し、振るわれる剣も軽々躱して杖の間合いに入り込んだ。
ガシュルルル……
無機質な何の感情も感じさせない目が私を目で見つめてくる。それはまるで余裕があり、絶対なる強さに自信があって、私の攻撃なんか効かないぞとでも言っているかのようだ。
だけど、その余裕がバルログの欠点であり弱点でもあった。私の攻撃を回避することなくゆっくりとしたおそらく口調で魔法を使おうとでもしているのだろう。
連撃……私は高速移動を開始して飛びかかるように頭に杖を叩き込み、振りかぶることなく更に魔法を使おうとでもしている口目掛けて薙ぎはらう。
口に打撃を受けて詠唱をやめたバルログが剣を振るい私目掛けて斬りかかるが、既に縮地法で頭上に移動していて空を切る。そこへ更に杖を脳天めがけて叩き込み、また縮地法で移動して叩き込む。
攻撃を入れては瞬間移動で隙のある場所へ移動して叩きつけ、薙ぎ払い、突き入れる。それを連撃と高速移動をも加えてやる事で、攻撃する時以外見えていないのと同じだった。
「やあぁぁぁぁぁぁあっ!」
全ての気を杖に込めて、頭部目掛けて薙ぎ払った。
距離を置いて着地し油断なく身構えて、様子を伺う。
目にも止まらぬ連撃によって、身体のあちこちは粉砕され、断末魔も上げられないままバルログの首が杖により叩き切られて地面に落ち、そのまま動かなくなった。
「す、凄い。わっちの知るサハラ様とは比べ物になりんせん」
アルが呆然としたまま私を見てそう呟いた。
すぐにアリエルの方を見た時、エリニュスは既に息も絶え絶えの状態に追い込まれていて、オルカさんのすざましい剣戟を浴びせられて倒れるのはほぼ同時だった。
「オルカさん!」
声を掛けながら近寄ろうとすると、手を来るなとでも言うように突き出してくる。
「アリエルを、頼んだぞ」
それだけ言うとオルカさんは、倒れたエリニュスを見つめて、満足そうな笑みを浮かべながらその場に座り込んだ。
「サハラ様、そろそろ空間遮断の効果が切れんす」
「そっか」
『アリエル、それじゃあ』
『うん、待ってるから』
「アル、じゃあ待ち合わせ場所で」
「はい」
アルが時空魔法の一つであろう空間移動のような魔法で姿が消える。
私も……
空間遮断の効果が切れたのだろう。こちらに走り寄る地響きが向かってくる。
お? バルログの鞭と剣……貰っておくかな?
鞄にとりあえず突っ込んだ。
“私は自然均衡の代行者”
“あるゆる自然現象を想像し”
“具現化する”
“想像するは巨大な虹”
“見るもの全ての目を奪う”
“美しい7色の光の円弧を描いて”
「みんな……さようなら。レインボー!」
突如空に美しい虹が現れ、迫っていた地響きが止んで見惚れているようだった。その隙に私は縮地法を使ってその場を後にした。
ついにアルクレスタ達と別れになりました。また、ラストでオルカが登場。ポラベアさんはさすがに勘が働くことはなかったですが……
そしてサハラとアルは時を超える。
次話“時を駆ける2人”お楽しみに




