さようなら
本日分です。
炎の柱が暴れまわっている間に私は縮地法を使いながら魔物を潰していきアリエル達の元まで戻ると、既に最前線には兵士の他に冒険者達の姿も見え始めていた。
「ありゃ一体なんだ」
そんな声があちこちから上がっていて、術者であるアリエルが使ったのがわかるとアリエルコールが起こっていた。
「ちょっとサーラ、これどういうことよ!」
「アリエル流石だね、こんな魔法は見たことがないよ」
さも驚いたようにいうと、アリエルに冷めた目で見られた。
「サハ……サーラ様、あれで倒せるのは弱い悪魔だけでありんすぇ。後方に控える悪魔はこなたの程度では倒せんせん。
それに、突破してきていんす 」
アルに言われて振り返ると炎の柱から逃れた魔物達がこちらに向かって走ってくる姿が見える。
「アリエル、飛行して上空から攻撃出来る?」
「狙撃が怖いかな?」
「全体が見えれば無理に攻撃しなくてもいいから」
「なるほど、うん、わかった」
「アルはよく分からないけど、私よりも詳しいはずだから任せるね」
「わかりんした」
そう言うとアルは腰から下げていたポーチに手を伸ばして折り畳まれた弓を取り出し、一振りするとカシャンと音を立てて組み上がる。
「あれ、矢は?」
「必要ありんせん」
矢の要らない弓かぁ。
私がアリエルとアルに指示を出していると、兵士の1人が頭を下げてきた。
「サーラ様ですね。どうか我らにも指示をお願いいたします」
「我ら?」
アリエルとアルに集中していて気がつかなかったけれど、兵士達が全員揃って私を見ていた。
「えーと……私にはそういう指揮官的なことなんてできませんよ」
「我らの総意です。是非にお願いいたします!」
「「「お願いいたします!!」」」
げぇ、これ断れないやつだ。まぁとりあえず適当にここに溢れた奴倒してとか言っておけばいいかな? 違う……
「では、一つお願いします。今すぐ、冒険者達を引き連れて町まで撤退してください」
「は?」
「お願いします」
「そ、それは……」
「お願いします」
おそらくここの兵士長であろう人物に頼み込んで撤退してもらうようにいう。邪魔だからではない。
今、セインさんやキャッティさん達と……うううん、アルクレスタさんに会ったら、抱きしめられたら心が挫けてしまいそうだから……このまま魔物を倒した後、全てを投げ捨ててアルクレスタさんの元に戻ってしまいそうだったから。
「お願いします」
気持ちが伝わったのかはわからない、けれど兵士達は迅速に対応しはじめてくれた。
「どういう事だ! 何故引く! 町を民を守るんだ!」
姿は見えないけどアルクレスタさんの声が聞こえてきた。まだ兵士達が冒険者達に言って引きはじめて間も無く、このままでは直ぐにでも戻ってきてしまう。
愛しい人の声に一目もう一度見てみたい衝動に駆られるけど、グッとこらえてアリエルとアルの顔を見て頷き合った。
「わっちに任せてくんなまし。時空魔法の空間遮断でこちには来りんせんようにしんす 」
そう言うなり素早く詠唱を唱える。
「空間遮断」
次の瞬間、私達と少し後ろにいる兵士達や冒険者達の間に透明な膜のようなものが薄っすらと見える。
「本来の使用用途は撤退用なんでありんすが、空間移動能力でも無ければ抜ける事は出来ないので、見る事はできてもこちには来れんせん」
「アル、ありがとう」
私がお礼を言うと妙に嬉しそうな顔を見せる。
「行くよ!」
「うん!」
「はい!」
炎の柱を越えてやってくる魔物が僅かながらいて、それをアルが持つ弓で矢をつがえる事なく引き絞り、放つ。
魔法矢のような光弾が1射からいくつにも分かれて飛んでいき、魔物を一斉に貫いていった。
「す、凄い……」
「こなたの弓は標的を視認し狙いを定めて放つ事で、多数の標的を撃ち抜く事ができんす。分散させただけ威力は落ちるので、標的によっては最大威力が期待できる単騎狙いにする場合もありんす」
「そんな弓があっても勝てない相手なの、悪魔って」
アリエルも関心して聞いてきたけれど、炎の柱が消えてしまい、正面からまだまだ沢山向かってくる魔物を見て直ぐに私の指示通り飛行を使って上空に舞い上がった。
私の視界から始原の魔術を行使すべき的確な場所を探す。
“私は自然均衡の代行者”
“あるゆる自然現象を想像し”
“具現化する”
“想像するは巨大な雹”
“雨の如く降り注ぎ”
“私達に向かってくる魔物を粉砕して!”
「降雹!」
私の視界に広がる前方に、大量の大粒の雹が雨のように落ちてきて魔物達を木っ端微塵にしていく。
後ろは見ないようにしていたけれど声は届いていて、私を呼ぶ声も当然聞こえていたのを無視していた。だけど今この時は降雹を見て静まり返っていた。
『サーラ……粗方倒しちゃったみたい……』
『うん、見えてる』
「わっちの知る始原の魔術と僅か威力が違いんす」
アルの呟きのような声に、ふと創造神様から賜れた指環を思い出し、右手の中指に嵌っている指環を見てみると神秘に満ちた光を放っていた。
だけど私の視界に映る未だ生き抜き向かってくる悪魔は、先ほど戦ったハマトラより遥かに強大に見えるものもいた。
ざっと見て残り50程……なら、もう一度!
“私は自然均衡の代行者”
“あるゆる自然現象を想像し”
“具現化する”
“想像するは地割れ”
“大地よ亀裂を作り”
“向かいくる悪魔達を地の底に落とし込んで!”
「地割れ(クラークインザグラウンド)!」
向かいくる悪魔の足元、大地に亀裂が走り、氷河や雪渓などに形成される巨大なクレバスのように大地が裂ける。翼を持たない悪魔達はそのクレバスへと落ちて行き、終わりの見えない地の底へと消えていった。
『残りは2匹になったわ!』
『うん』
繋がりのないアルにはこの声は当然聞こえるはずはないため、残り2匹まで減った事を伝える。
「こなたの2匹を倒したら言われた場所に行けばいいのでありんすね?」
確認するようんか私に聞いてきたので、頷いて答える。
「分かりんした」
「じゃあ、お先」
そう言うなり縮地法で私はヒュンとアリエルのいる高度まで飛んで隣に行き、落ちないようにアリエルに抱きつく。
「しばらく会えなくなる……うううん、今度会う時は私(女体)じゃないと思う。でも必ず戻るから」
「うん、待ってる。ずっと待ってるから」
しばらく味わえないだろうアリエルとキスを交わし、抱きしめていた手を離して落下していく。
その時、ふと目を向けた先にキャッティさん達、セインさん達の姿が見え、そして……アルクレスタさんの姿が見えた。
さ、よ、う、な、ら、ア、ル、ク、レ、ス、タ、さ、ん、わ、た、し、の、い、と、し、い、ひ、と
そ、し、て、み、ん、な、あ、り、が、と、う
見えるかわからないけど、そう口を動かす。目からは涙が溢れながら手を一振りする。
得意と言っていた読唇術でわかったのか、私の名を必死に何度も何度も叫んでいるアルクレスタさんの声が聞こえた。
一度きりじゃなくて、もっともっとたくさん抱きしめて、愛して貰いたかったなぁーーー
もうすぐ終わりかぁって感じがだんだんと近づいていますね。
なんで別れるのか? 愚問ですよね。10年後には元に戻ります。偽りの夢は長くは続かないのだから。
もう少しだけでも表現力があればもっともっと伝えたい事を文字にできるんだと思いますが、今の作者にはこれが限界で申し訳ありません。
次話ですが、明日更新で「虹」です。お楽しみに




