選択ミス
アリエルとアルを連れて集合場所に向かう。
当然町中私達に目が集まるが、歌姫に近づき難いのか近寄ってくるものはいないのは助かった。
「おー、きた……なぁぁぁぁ!? 歌姫」
「わぁぁ、ブリーズ=アルジャントリーさんなのれす!」
「ど、どうして?」
「カタコンベマンはいないのか」
「サーラさん、説明して貰えるかな?」
それぞれの反応が面白かったけど、セインさんは冷静に質問してきた。
私はアルに言われた通り、昔の仲間ではぐれた後に私を探して歌姫として旅を続けていた事を話した。
「なるほど、そうだったのか。という事は今後はサーラさんと行動を共にするという事でいいのかな?」
「はい」
「ブリーズ=アルジャントリーです、以後お見知り置きくんなまし」
はぁ? とその言葉使いに驚いているようだった。
「そのなんだぁ? 変な喋り方すんだなぁ」
「ま、またでありんすか、そんなにわっちの言葉使いは可笑しいでありんしょうかぇ?」
「普通に変だな」
はううぅぅぅとアルの目に涙が浮かび、私とアリエルを見つめてくる。
「シリク、女の子を泣かせるなんて最低じゃないかしら?」
「そうですよ」
「う、サーラにまで言われるとは思わなかった。す、すまん」
とりあえず、朝食を済ませこの後の話に変わっていった。
セインさんは要件も終わったし戻るべきだというのに対して、テトラさんは慌てて帰る必要もないのだから、もう少しこの町に滞在しないかといってくる。もちろんクゥさんも滞在に賛成する。
シリクさんはどっちでもいいそうで、キャッティさんはテトラさんが居るならこの町にと答える。
「圧倒的に滞在派が多いな。なぁセイン、後数日ぐらいならいいんじゃないか?」
「そうだなぁ、焦って帰る必要はないか」
その言葉でアルの言った事を思い出す。本来ならこのまま決まり、おそらく滞在するんだろうと思われる。けれど、アルに迷宮の町に大規模な魔物の襲撃がある事を聞いた今はそうも言ってられない。
「私は……戻りたい」
「サハ、サーラ様!? それは! ダメです、それだと未らふぃがふぁがっふぇふぃふぁふぃふぁふ」
アリエルが咄嗟にアルの口を塞いだ。
「こらこら、アルは本当に口が軽いんだから」
セインさん達が首をかしげて見つめている。今のアルの話を逸らすのと迷宮の町に戻る理由を何かないか必死に考える。
ど、どうやって戻りたい事を言おう。ただ戻りたいじゃたぶんダメだと思う。
うーー……言ったらいけない気もする。けど、それ以外方法がなさそう。
「あのぉ、私、アルクレスタさんに会いたいんです」
顔を赤くしていう。惚気てではなく、そう言わないといけなかった気恥ずかしさからだった。けれどそれが真実味を帯びさせ、セインさん、テトラさん、シリクさんが私を愕然とした顔で見つめ、キャッティさんとクゥさんは「あー」とか意味深な相槌をうってくる。
「サーラ、ま、まさか領主と……その」
「う……その、内緒です!」
「ぐおおぉぉぉぉお! そうなのかぁぁ! そうだったのかぁぁぁぁぁ!!」
うわあぁぁぁぁぁ! 本当は違う、違うのぉぉぉぉ!
「そ、そそそ、そういう事なら、もも、戻るしか、ない、よな」
セインさんまでどもりながら喋る。
選択、間違ったかも……
ともあれ無事に迷宮の町に戻る事に決まり、街道を歩いているのだけどセインさん、テトラさん、シリクさん3人が燃え尽きたように真っ白になってトボトボ歩いていた。
「地位、名誉、容姿、性格、富、全て揃った領主じゃ俺らに勝ち目なんざもうねぇ……」
「あの噂は本当だったのか……」
「ぼ、ぼぼ、僕はサーラさんの、し、しし、幸せを優先する……ウオォエェェェェ」
うわぁ……なんかとんでもない事になってる気がする。
「うぅ、やっぱりテトラ様はサーラの事……」
「どうしよう、み、未来が、道筋が、変わる……変わってしまう……わっちの口が軽いせいだ」
こちらはこちらで足取りが重くなっているようだった。
「サーラさんも罪作りな女なのれす」
唯一無関係なクゥさんはその様子を見ながら楽しんでいるように見える。
『サーラはセイン達を気にする暇があったら、自分の事を考えなよ?
私の事は気にしなくていいから、正しいと思う選択をして』
『う、うん』
『彼らは今だけの事なの。サーラは、今じゃあたしもか。この世界のずっと先を考えないといけないんだからね?』
『うん……』
『ところでさ、領主とはしちゃったの?』
「し、してない! してないよ! 寸前まで来たけどアルクレスタさんとはまだ!……あ」
『ばか……』
思いもよらない質問に思わず声を出して否定してしまった。廃人と化していたセインさん達が、それを聞いて振り返り足を止めて固まってしまい、アリエルは頭に手をやっている。
「す、寸前まで……」
「という事はあんな事やこんな事まではやっちまったのか……」
「い、嫌だあぁぁぁぁぁぁ!」
ぐはぁっ……
髪の毛なんか気にする事なくフードを引っ張り深く深く被って顔を隠してみんなの顔をチラチラと覗き見る。
キャッティさんとクゥさんは手を口に当てて真っ赤な顔を見せていて、アルは変わらずため息をついたままで、セインさん達は変な妄想をしているように見えた。
とても長く感じられた沈黙に終止符を打ったのははシリクさんだった。
「待て! という事はサーラは最後は拒否ったって事だ……まだ、チャンスはある!」
「そ、そうか!」
「だけど、サーラさんは領主に会いたいと言ったばかりだ……」
お願いもうやめてください。
結局野営に入るまで、入った後もその話で盛り上がられてしまう。
そして街道を歩く事3日目の夕方におおよそ10日ぶりに私達は迷宮の町に戻りそこで解散となった。
本日分の更新です。
昨日の話でさらっと出しましたが、赤帝竜とは凡人の異世界転移物語のヒロイン?のルースミアのことになります。
次話は明日更新です。




