誠実な人
地下墓地の町でなんとか宿も決まった私達は適当に見つけた酒場で食事をしていて、3日後に控えているコンサートのためか町には沢山の観光客でごった返している。
あれ以来ほとんど会話もしなくなったセインさんが心配で見つめているとセインさんと目が合った。
「サーラさん、明日1日僕に付き合ってもらえませんか?」
「お、おお、お前此の期に及んで……お?」
テトラさんがシリクさんを止めて首を振っている。
「ちっ!」
セインさんは気に留めてる様子はなく、真っ直ぐ私を見つめてくる。
「分かりました。明日、どこで待ち合わせしますか?」
約束をした後宿屋に戻った私にアリエルが問い詰めてきた。
「どういう事よ」
「あの思い詰めた目を見てたら放っておけなくなって……」
「じゃあもし、もし告白されたりでもしたらどうする気? あれはそういう目よ」
「ま、まま、まさかぁ」
「サーラは本当にそういうところ鈍感だよ……でも、そういう優しいところも大好きなんだけど……分かった、前にも言ったけど行き着くとこまで行っちゃったらケアはあたしがしてあげるから……行って来なよ」
「ありがとうアリエル」
ーーーーー
翌日、サーラが1人で出て行った後、アリエルはキャッティの元に行き、後をつける話をすると2人がどうなるか興味があるのか、それともただ単に尾行が楽しみなのか話に乗ってきた。
「ねぇアリエルさん、本当にいいのかな?」
「シーッ! バレたら元も子もないでしょう。だいたい何を今更言ってるのよ」
「なんか、ワクワクするのれす!」
アリエルは耳と目の良いキャッティを連れてサーラを着けていた。面白がってクゥもついてきてしまったけど、何かの役に立つかもと見たアリエルはクゥも連れてきていた。
「で、お前らだけでなんとかなるとでも思ってたのか?」
「抜け駆けは許さないぞ」
「テトラ様〜」
結局サーラとセインが気になったシリクとテトラも加わり、5人一緒に追跡することになる。
「いたのれす!」
広場の一角にサーラがぽつんと待っている。当然1人きりの美女を放っておく男がいるわけもなく、次々と声を掛けてきていて必死に断り続けている姿が見えた。
「セインの奴、女を待たせちゃダメだろうが」
「すまん、あいつらちょっと殺してくる!」
「テトラ様!?」
「マテだ! マテ! 我慢しろテトラ」
「シリク退け、あいつら殺せない!」
必死に断るサーラを覗き見ながら5人が待つとセインが姿を見せ、サーラの手を取ると走ってその場を離れていく。
「やべぇ、コンサート前で混雑してるから見失っちまうぞ」
「大丈夫だ。俺の鼻は既に標的を捉えている!」
「私の耳はサーラの足音を補足した!」
「……心強えよ、オメェら」
距離をとりながら後をつけていくアリエル達は、2人が店に入っていく姿を確認すると、アリエルとシリク、テトラとキャッティでペアを組んで店に入り込み、クゥには外で見張ってもらうことになる。
「くれぐれもバカやるんじゃねーぞ」
「テトラ様と2人きりになれるなんて、私もう死んでも良い!」
店に入った2組のペアは、サーラとセインが見える席を隠れるようにして座り、聞き耳を立てている。
「お客様、注文は……」
「うるせぇ! 今集中してんだ。黙ってろ」
「あんだとコラァ! 注文しねぇなら客でもねぇ!サッサと店出てけ!」
「い、いや、すまねぇ」
「すまねぇじゃねぇ! 出てけ!」
「馬鹿すぎ……」
5分もしないうちにアリエルとシリクは店をトボトボと出てくると外で待っているクゥの元に戻る。
「あれ? どうしたんれすか?」
「クゥ、聞かないで……」
テトラとキャッティはと言うと、注文もしっかりお茶とデザートを頼み……会話を楽しんでいる。
「テトラ様ーーでーーーなんですよ〜」
「い、いや、キャッティ今はだな……」
更にしばらくしてからテトラとキャッティが耳をペタンとくっつけながら店から出てきた。
「で! 結局お前ら何やってやがったんだ!」
「す、すまん、だがそれはシリクお前も同じじゃないのか?」
「はぁ……頭痛い」
結局2人きりになって舞い上がってしまい会話を楽しんでしまったキャッティがサーラの事をスッカリ忘れてしまい、気が付いた時にはサーラとセインがいなくなっていて、外で待つシリク達の元に戻ってきた。
これ以上の追跡は人混みが多すぎて無理となり、諦める事になった。
「こんな事なら1人で追跡するんだったわ……」
アリエルは1人後悔する。
ーーーーー
私はセインさんとお茶を楽しめるお店で会話をしていると騒ぎが起きて騒がしかったため、お茶をサッサと済ませて店を出ることにした。
デートの様にお店を見て回り、地下墓地の町を楽しんだ。徐々に夕方が近づいてきた頃。
「サーラさん、この後はこの先にある広場に行こう」
「でも、もうそろそろ夕方になりますよ?」
「そこで最後だから」
セインさんに付いていくと、綺麗な広場に辿り着いた。辺りには恋人達らしい2人組がたくさんいて、なんだか居にくく感じてしまう。
空いているベンチを見つけてそこで腰を下ろした。
「サーラさん、この間はその……本当に済まなかった。その……女性の股に頭を突っ込む様な辱める思いを僕は2度もしてしまった」
「う……あれはわざとじゃなくて事故なんですから、もういいですってば」
「いや、僕が良くない。ケジメをつけさせて欲しい」
「ケジメ、ですか?」
セインさんが真っ直ぐ私を見つめてくる。
「頼りないかもしれませんが、僕と一緒になって欲しい」
「えーと……それってなんかおかしいような気が……」
話をしていくうちにわかったことだけど、セインさんは男が女性に対して辱める行為をしてしまったら結婚する事だと思っていたみたいだった。
責任を取るという意味を辱める思いをさせた事と勘違いしていた様なので、赤裸々になりながら必死に説明をしたら顔を真っ赤にさせながら納得してくれた。
ついでに思い詰めていたのは、私の人生をセインさんのせいで台無しにしてしまう事になると思ったからだそう。
「どうやら僕の無知のせいだったみたいだ。でも、君といずれそういう関係になれたら僕は嬉しいとは思っている」
どさくさに紛れて本気の告白をされて、一瞬だけドキッとしてしまう。
「え、えーと……ですね」
「いや、いいよ。いつか君が振り返る様な男になってみせる。その時がきたらもう1度言うさ」
セインさんはとても誠実で真っ直ぐな人だなぁと思った。
「さぁ、そろそろ戻ろう。戻ったらきっと大変だ」
「そうですね」
お互いに笑いあった後、先に歩き出したセインさんの腕に組みついて寄り添う。ただなんとなくそうしたかったから。
私が腕に組みついてきて一瞬ビックリした顔を見せた後、照れた表情を浮かべながら2人で宿屋に戻っていった。
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