地下迷宮探索
古城までの道のりは迷宮の町から徒歩で2時間程度で、鬱蒼と生い茂った森を抜けていく。1人だと不気味だったんだろうけれど、周りにはたくさんの古城に向かう冒険者がいるために安心して向かえる。とも言い切れず、道中しつこくナンパしてくる冒険者も中にはいたけど。
森を抜けた先にはとても澄んだ湖が見え、そこから中央に向かって伸びる長い橋を渡れば、湖上の中心あたりに位置する古城にたどり着ける。
その古城はと言うと、古い城と書く通り、たくさんの蔦が城を包み、古びた城の壁石は歴史を感じさせ今にも崩れそうにも見える。
私が古城まで辿り着くと古城の前では冒険者がごった返していて、霊峰の入り口の時のように足りないメンバーの募集をしていたり、野良でパーティを組むために声を掛け合っている姿が見える。
髪が長くて後ろで束ねて紐で結んでいるせいでフードが被れず顔を隠せない。仕方なくそのままサリアさんに聞いた城の脇の地下牢獄のある場所に向かって行くと、やっぱりと言うかすぐに冒険者達に囲まれてしまう。
「そこの黒髪の彼女1人かい? 見たところウィザードみたいだけど一緒にパーティ組まないかい?」
うーん、初めて潜るわけだし詳しい人達がいるのはこころ強い。だけど1人なら遠慮なく全力で戦える。ここは……
「ごめんなさい、一応戦士なんです」
「その杖とローブ姿で前衛かぁ、どっちにしたって1人は危ないから仲間に入らない?」
「待てよナイン、こっちは前衛足らないんだ。ぜひ俺らとパーティ組んでくれ」
「あなた達ねぇ、女の子にむっさい野郎が迫ったら怖がるだけでしょう。私達と行かない? こっちは全員女だけでパーティ組んでるから色々と安心よ?」
「なんだよキャッティ、それじゃあまるで俺たちがその娘襲うとでも言ってるみたいじゃねーか」
「バトロスなんかとパーティ組んだら、一緒にいるだけで妊娠しかねないわ」
「ひっでぇ言い草だ、あんまりだぜ」
笑い合いながら話に花が咲いている。
「皆さん仲がいいんですね」
「ん? あぁ、ここにいる連中はほとんど顔見知りだよ」
「無理しなければ十分暮らせるからねぇ」
「そういう事」
ふーん、以前行った霊峰とは違ってまたこれはこれで面白そうなとこだなぁ。
でもここはあえて1人で行きたい。私はいずれ男に戻るし、その間に人の繋がりをあまり作るのは良くないと思うから。
「あの、皆さんお誘いありがとうございます。とても嬉しいんですが、今日は初めて潜るので1人でどれだけ戦えるのか試したいので辞退させてもらってもいいですか?」
「そう言われちゃあ無理強いは出来ないなぁ」
「可愛い顔して勇敢だなぁ。分かった頑張ってくれ」
「あまり無茶しないでね。それと名前、聞いてなかったね。あたしはキャッティ、見ての通り猫獣人の戦士だよ」
「はい! 今日は様子見程度にするつもりです。えっと名前はサーラです。よろしくお願いします」
「俺ナインね。いつでも君なら大歓迎だよ」
「ドワーフのバトロスだ。そいつらより是非俺と組んでくれ」
「あはは、考えておきますね」
ほんと雰囲気いいところだなぁ。
頭を下げて1人地下牢獄へと入っていく。
毎日のように冒険者達が通るせいか、蜘蛛の巣も埃っぽさもない。これだけ冒険者がいると中はごった返すのではと思ったけれど、牢獄を超えて迷宮部分に差し掛かると、一度広い大部屋に出る。そこから分岐している通路に繋がる扉がざっとみても10はあって、どんどん分散されていく。その中の一つに私は入り込んだ。
迷宮内部の通路は石壁で覆われていて、縦横6メートルの非常に規則正しい四角い通路となっている。薄っすらと明るく石壁が光っていて2ブロック先、12メートルぐらいまで見えるため、明かりも特に必要なくて済みそうだった。
ここからは命のやり取りになる戦いになるため、騎士魔法の予測と感知を使い、すうぅぅはぁぁぁぁと修道士特有の呼吸法を行って、杖に気を通して神鉄アダマンティン化させる。
熟練した修道士は気を通す事で、見た目こそ変わらないけれど神鉄アダマンティンと同等の硬度と威力にする事ができる。
これで準備は万端っと。
しばらく先へ先へと進んでいくと早速、奥の方から何かが近づいてくる。1、2、3……5。移動の仕方から引き返してくる冒険者の可能性もあるから慌てないで待ち受ける。
そしてその姿が見えてくるとアンデッドの中でも有名な骨だけの体となったスケルトンが現れた。
「なんだ、スケルトンか」
相手がわかった私は一気に殲滅する為に杖で殴りかかる。アンデッドの中でも1番弱い部類に入るスケルトンは、神鉄アダマンティン化した杖の一撃でいとも簡単に破壊した。
破壊したスケルトンを見ると、ここで心半ばにして死んだ冒険者の成れの果てなのが持ち物の状況でわかる。
駆け出しであれば十分な脅威となる相手だから、こういう事も仕方がないのかもしれない。
特にお金に困っていない私は、この冒険者達の成れの果てから持ち物を奪う事なく更に奥へ奥へと歩いていくと扉が見えてきた。
「これはやっぱり開けるとエンカウントするんだよね?」
誰か聞いてる人がいるわけもない。自分で自分に聞いていた。
まだ入ってすぐだし、大した相手は出ないと思うんだけど。
念のため気を引き締めて扉を開いて中に入り込んだ。
ズズッ、ズズズズズっと引きづるような音をさせて此方に体長1メートルほどの巨大な芋虫のような生き物が私に近づいてくる。こんな場所で生息しているという事は、間違いなく餌は腐肉あたりだと思う。先ほどのスケルトンもこういう奴によって骨だけにされているんだろう。
アダマンティン化させた杖で一凪して破裂させて倒したはいいけど、その体液が飛び散り体に飛んできたときは思わず悲鳴を上げてしまう。
「うえぇ、気持ち悪い」
体液を手で拭い取って壁に擦り付けながら小部屋を見回すと奥に通じる扉が見え、そのまま更に先へと進んでいく。
こんな感じで彷徨っていると下に降る階段を見つけて地下2階層に降りていく。
2階層もあまり1階層と変わりがなく、ただ数が増えたかなといった程度で3階層への下り階段を見つけてサッサと降りていった。
3階層に降りた私は、一気に進んで部屋に通じる扉の前まで辿り着いて扉に手を掛けた時、中から戦っている音が聞こえてくる。感知によって中には10体動いている者がいるのがわかる。
確か誰か先に戦っているようなら待つのがルールって言ってたよね。
ここに来るまで戦ってきた相手の大半は、アンデッドのゾンビやスケルトンに加え、地下に生息しそうな昆虫系が殆どで、今の私には雑魚以外の何でもなかった。
ただ例外でジャイアントコックローチが数匹現れた時は、さすがにその見た目のグロテスクさに逃げ出したい衝動にかられたけど。
しばらくして戦いの音が聞こえなくなったので、中に入ると小部屋には今戦っていた冒険者達6人が休憩をしているところだった。
「あ……」
「あぁ、すいません、少し休憩をしてからにするので先に行くのならどうぞ」
パーティリーダーぽい人がそう答えてくる。
「それではお先に行かせてもらいますね」
私が奥の扉へトコトコ歩いて行く。
「な! まさか1人でここまで来たのか?」
「え? はい」
パーティの1人が叫んだ。
あー、なんか面倒な事になりそう?
「つ、強いんだな、あんた……って凄い美人」
「どうなんでしょうね? たまたま危険な相手と出くわさなかっただけかもしれないです」
「あんた、名前何ていうんだ?」
「ん? サーラ」
「覚えておくよ」
なんでかわからないけどそんな事を言われた。
チラッと倒した魔物の姿を確認すると、ここまで来る間に既に何度か戦った芋虫の魔物だった。
冒険者達が私の事をボーッと見ている間に私はサッサと先に進んでいった。