寝所の攻防
男女が一つ屋根の下で、しかも同じベッドで寝ようとなればやる事は一つしか思いつかない。
「あの、キャッティさん達の部屋で休ませて頂きます」
「あそこはもうベッドがなかったはずだが?」
くおぉぉぉ! 全て仕組まれた事だったのかァァ。恐るべし孔明の罠、いや、セバスチャンの罠。
「で、ではそちらのソファーで休ませて頂きます」
「あぁ、そのソファーは脚が壊れているんだ。以前から大切にしていたものだから、そのうち大工を呼んで直させようと思っている」
いろいろ理由をつけて一緒のベッドだけは避けようとしたけれど、全て計算づくのようで、私に逃げる余地はなかった。
「何心配する事はない。君が嫌がる事は決してしないと約束しよう」
「ほ、本当ですね? 本当に何もしませんね?」
「ああ、決して嫌がる事はしないと約束しよう」
しぶしぶ了承する事にして侍女服を脱ごうとしたところで、視線に気がつき振り返るとガン見しているアルクレスタさんが……
「も、申し訳ありませんが、そ、その、見られていると着替えにくいのですが……」
「そうだな、済まなかった」
ホッとしたのも束の間、侍女服を脱いで下着姿になった私はあるものがない事に気がつく。
寝衣がない……
代わりに置いてあるのが、スッケスケの黒のネグリジェだけだった。
こ、ここ、これを着ろとぉぉぉ。めちゃくちゃナニかする気満々じゃん! グヌヌヌヌ。
というよりこんな薄い生地があったんだ。
ヤケクソになりながらネグリジェを着て振り返ると、アルクレスタさんが見ている。超見ている。ガン見だった。
「あの!」
「いや、済まない……あまりにも君が美しくつい見惚れてしまった。さぁ」
早う早うとでも言いたげにベッドに誘い込もうとしてくる。
ベッドの広さはキングサイズは優にある。
「あの、絶対変な事しないでくださいね。もししてきたら怒りますし、明日には辞めさせて頂きますので」
「分かった分かった」
本当に分かったんだろうか、ベッドの端に横になるとズリズリとにじり寄ってくる。決して触れてきたりはしないけど、直ぐ隣にいて距離を取ろうとすれば今にもベッドから落ちかねない。
ベッドから一度出た私はグルッと回って反対側に入り込んだ。今度はもう少し真ん中まで入って。
ズリズリっと音が聞こえ近づいてくる。
「あのぉ、出来たら半分からこっちには来ないで欲しいのですけど……」
「ううむ、残念だが仕方があるまい」
やっとアルクレスタさんが戻っていき、ホッとしながらも油断せずに身構えておくと、やがてアルクレスタさんの寝息が聞こえてきた。
これで一安心かな。
目を閉じて眠るために姿勢を横向きになる。フカフカのベッドは心地良い眠りへと誘い出す……ん?
半分眠りかけたところで、眠っているアルクレスタさんが近づいてきているのに気がつく。寝息が聞こえるところから寝相のようで、さすがに寝相は本人の意思ではないため何も言えない。
寝相大作戦キターー!
じわりじわりと寝相という名の進軍に私もなすすべがなく、かなり近くまで来たところで寝相は止まった。
一応約束は守ってくれてるんだ。
隣近くまで来てからは動く事なく寝ているアルクレスタさんを見つめながら、信用しつつも諦めながら眠りにつく事にした。
朝日が眩しく感じてぼんやりと目が醒め、肌の温もりを求めて探すと、おめあてのものが見つかり腕と足を絡みつけていく。
暖かい。
スリスリと肌を撫で回すとナニかに触れ、確かめるように握ってみる。
次第に頭が覚醒していくにつれ、今いる場所などの状況を思い出していき、
う……こ、これはぁぁぁ!
そっと目を開けてみると誰かにしがみついている。誰って1人しかいない。アリエルのように柔らかではなく、筋肉質でゴツゴツした感触。そして手にはナニかを握りしめていた。
そこでバチッと目が覚めた私をアルクレスタさんが見つめている。
「おはよう、随分と積極的なんだね」
「あ、ああ、これは違う、これは違うんですうぅぅぅ!」
慌てて離れようとしたところでアルクレスタさんに腰を腕で抑えられ、グイッと身体を密着されて逃げられなくされる。
「せっかく君から来てくれたんだ。もう少しこうしていよう」
「えっと、その、困ります」
あう、アリエルと間違う痛恨のミスをした。しかも手は離したもののナニかに触れたままだ。
「大変失礼な事をしてしまいましたが、支度もあるので本当にこの辺でやめてください!」
涙目になりながら少し強めに言うと、アルクレスタさんが腰にまわした腕を退けてくれる。
その顔はしぶしぶといった感じも見受けられ、これ以上の事をしたら本当に私が辞めてしまうと思ったからなのだと思う。
ベッドを出て侍女服に着替え始めると、アルクレスタさんが大事な用件があると、しっかり私の着替えを見ながら伝えてきた。
それによると、明日に各町の領主が集まり、今回の襲撃の件で話し合いが行われるという。
「政治絡みには関与しませんよ。それが嫌で辞めて冒険者になったんですから」
「そうか、そうだったな。ではその日は君がいなくても立ち回れるようにして貰えれば構わないよ」
げ……
思わず失態しまくるキャッティさん達の姿が思い浮かぶ。
「うう、分かりました。私が取り仕切らせてもらいます」
アルクレスタさんが私を見つめて笑っている。
「悪いな、君がやってくれるのであれば私も安心できるよ」
この人は気遣いが出来て聡明で素敵な人だと思う。もし私が本当に女であったならば、喜んでプロポーズも受け入れたんだと思う。
そんな事を考えていると私の背後からそっと抱きしめて首筋にキスをしてきた。
「あっ!」
「首筋、弱いんだね」
「え! と、突然だったので驚いただけです! それより今より侍女としての仕事に取り掛かります」
「よろしく頼むよ。サーラ」
こんな夜が毎日続くかと思うとこの先持つのか不安でたまらない。とりあえずは寝不足の心配かな。
本日分更新です。
紳士なアルクレスタのおかげで何とか貞操を守りきったようです。
「やり口は決して紳士ではないと思いますが」
細かい事は良いんです。致さなかったんですから。
「それよりも質問です。最近随分と女性になっている気がしますが、その辺はどうなんでしょうか」
女性化が進んで、男性を完全に忘れさせようとしていますね。
「それはマズいじゃないですか」
ですねぇ。
次回更新は明日です。




