侍女とメイド
ブックマーク増えてきていて、とても励みになります。
お風呂と寝るとき以外外さないと言い張るカトレアさんが大問題だった。
「みんな妥協してるんだから我慢してよ」
「僕なんか敵が来たら、自分でスカートまくらないといけないんれすよ?」
「私はなんとかなりそうだ」
さすがの私でもカトレアさんの対処に困ってしまう。
「キャッティさん……なんで、ある程度想定出来る事を考えないで依頼を引き受けたんですか……」
「うー、ごめんサーラ……」
「キャンセル……するれすか?」
うーむ、これはさすがにそうなるのでは……
その時部屋にノックの音がする。私がドアを開けるとセバスチャンが立っていて、準備の状況を確認しに来ていた。
カトレアさんのことを説明すると少し考え込み、侍女服を取り出す。
「こちらをお召しください。その鎧の上から着れるでしょう。ただし申し訳ありませんがガントレットとグリーブは外していただく事になります」
「それでしたらぁ神もお許しいただけると思いますぅ」
なんとかセバスチャンのおかげでキャッティさん達がキャンセルする必要がなくなった。
「ふえぇ助かった。で私達は何をしたらいいのかな? サーラ侍女長」
「まずは……言葉使いですね。侍女なんですから敬語を使ってください。それとテキパキ行動してもらいます。後は……」
「待って待って待ってー! それじゃあまるっきり侍女じゃないの」
「キャッティ、そういう依頼れすよ」
アルクレスタさんの前に全員並んで立つ。キャッティさん達が教えた通りに立っているけど、今にも足でも攣りそうな状態だった。
「はっはっは、さすがはサーラだ。短い時間でここまで冒険者を侍女らしくしてくれるとはね」
「ありがとうございます、アルクレスタ様」
頭を下げる。その私を見て慌ててキャッティさん達も真似をした。後は頼むとアルクレスタさんは仕事に戻っていった。
やがてメイドの女性達がズラッと姿を見せ、自己紹介していき私達も挨拶を済ました。
「ねぇ、メイドの女って侍女とどう違う……違うんですか? 侍女長」
「はい、私達侍女はアルクレスタ様の直接お世話をさせて頂き、館の出入りの自由と部屋を与えられ給金を得て仕えます。それに対してメイドの女性達は、奴隷です……」
「奴隷!?」
「はい」
「アルクレスタさん……様も奴隷を買うんだ、ですね」
「キャッティさん勘違いされては困りますが、メイドであれば寝食を約束されます。そして雇い主である主人によっては慰み者にされることなく平穏に暮らせるんです」
「つまり、下手な人や場所に買われるよりはマシということなんれすね」
あー……クゥさんだけは言葉使いが治らず仕舞いとなったけど、普段敬語だから語尾はご愛嬌になった。
私が頷いて答える。
初日は私が全員を取り仕切って館の掃除や洗濯、料理の手伝いなどを教えていった。
時折アルクレスタさんから呼び出され、お茶などの身の回りのお世話をする。
1日が終わり、メイド達を休ませると一度キャッティさん達に当てられた部屋に集まる。
「つっかれたー。サーラよくこんな事出来るわね」
「でもご飯がとっても美味しかったのれす」
「毒味担当はぁクゥにはうってつけの仕事ですねぇ」
「なかなか新鮮な経験だ」
「これが明日から続くのかと思うとゾッとするわ」
それぞれ色んな言葉が飛び交う。
私も侍女になりたての頃を思い出す。あの頃はなんで私がこんな事をと思ったものだとキャッティさん達を見て思わず笑ってしまう。
「サーラ笑うなんて酷いよ」
「ごめんなさい、ちょっと私が初めて侍女になりたての頃を思い出してしまいました」
「サーラさんもなりたての頃はぁ……」
「もちろん酷い有様でしたよ」
「でも今はあんなに完璧なのにどうして辞めたりしてまで冒険者になんかなったの?」
「それは……」
侍女をやっていた場所は控えて、政治絡みの話に危うく何度も巻き込まれそうになった事を話す。
「それってさ、サラっと言ってるけど、サーラの自慢話にしか聞こえないんだけど……」
「そうですねぇ」
「サーラ、お前はお前の思っている以上に美しいと認識するべきだ」
あはははは……手をパタパタさせながら否定したけど、キャッティさんにアルクレスタさんに求婚された話を持ち出され、場が湧き始め詳しく追求されてしまった。
「あ、クゥ寝ちゃってる」
話にひと段落したところで、キャッティさんが静かになっているクゥさんに気がつく。
疲れ果てたのかクゥさんはベッドに座ったまま寝ていた。
「さぁ明日も早いですから今日はもう早く寝ちゃってください。
それではおやすみなさい」
ドアを閉めて自分の部屋に戻るため、明かりを消された館内を1人歩いていく。
窓から入る月明かり以外の場所は真っ暗なため、暗闇の不安から私は騎士魔法の感知を使って歩いていた。
キャッティさん達の部屋では既に動きはなく、全員眠りについているようでその疲労の具合がうかがえる。
メイド達も初日の疲労からか寝ているようで、動きはなくグッスリのようだ。
その他にも料理などを担当しているコック達が休む部屋も動きはなく、まるで私1人が取り残されているような雰囲気だった。
部屋の前に辿り着くと部屋に誰かがいる事に気がつく。
誰かいる……
即座に修道士特有の呼吸法をして気を張り巡らせ、素知らぬふりをして部屋の鍵を開けると明かりがついていて、中にはアルクレスタさんがいた。
「やぁお疲れ様。セバスチャンから聞いたよ。見事な働きぶりだったそうじゃないか」
……なんで? 疑問しか浮かばず、一瞬部屋を間違えたかと思ったけど、渡された鍵で開けて入ったので間違いはない。
「あのアルクレスタ様、なんでこちらに?」
その私の問いにアルクレスタさんがとんでもない事を言ってきた。
「うん、ここは私の部屋でもあり、寝室でもあるから居て当然だろう?」
「えーと?」
確かに最初にこの部屋に連れてこられた時に違和感はあったと思う。ずっと使われていないであろう部屋なのに妙に生活感が感じられた。時間がなかったため部屋を調べなかったので、クローゼットなどを一切確認していなかった。
「さぁもう遅いから寝よう」
いや待て、そうじゃない、そうじゃないでしょう!
「ま、ままま、待ってください。その私はまさかアルクレスタ様とご一緒の部屋で寝泊まりするんですか?」
「一緒の部屋ではなく、一緒のベッドでだが?」
はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?
こうして私にとっておそらく今までで最大の受難が迫っていた。
本日分の更新です。
ついに一つ屋根の下どころか一つ同じベッドの上になってしまいました。
この最大のピンチにどう対処するのか、それとも次回行き着くところに行ってしまうのか?
次回更新は明日です。




