事情により侍女
進行状況が良いのとブックマーク40件記念でもう1話追加させていただきます。
2人とも新しいドレスローブのほうに着替えて、朝食を取った私とアリエルはオルカさん達が寝泊まりしている宿屋に向かう。
宿屋の前に既にオルカさんとポラベアさんがいて、私達を見つけるとポラベアさんが手を上げてくる。
「どうやら連絡が来たみたいね」
アリエルは私と2人きりの時とは違い、少しクールな雰囲気に戻っていた。
「領主のところへ行く。その後はすぐに迷宮に向かうぞ」
チラッとオルカさんが私の事を見る。
「分かったわ」
「アリエルいいのか?」
「当たり前よ。私達は仲間なんだから」
フッとオルカさんが笑うとさっさと領主の館へ足を運び始めた。
『大丈夫、あたしは大丈夫だから』
『うん』
『むしろサーラの方が心配よ。アルクレスタに気をつけなさいね』
『う〜、頑張る』
領主であるアルクレスタさんの館に行くと、入り口で既に待っていた。
「やぁサーラ、数日だというのに長い間会っていなかった気分だよ」
いきなり手を掴んで手に口をつけてくる。
「それは後にしてくれ」
「そうだったな。セバスチャン!」
セバスチャンがアルクレスタさんの背後から前へ出ると報酬である金貨が詰まっているであろう袋をオルカさんに手渡した。
「要件は済んだ。後は好きにやってくれ。行くぞ」
ポラベアさんとアリエルが頷き従うようについて行く。
「安心しろ、俺たちは3人で今までどんな困難も乗り越えてきた」
不意にオルカさんが立ち止まり振り返ると私に向かって言った。
ポラベアさんとアリエルがビックリした顔をしていたけど、意味がわからない私は頷いて答えた。
『オルカが他人を気遣う言葉を掛けるのは珍しいことなのよ』
そうなんだ。そう言われてみればそんな気もするかも?
オルカさん達の姿が完全に見えなくなると、アルクレスタさんが私を見つめている。
「そのドレスローブ、とても君に似合っているよ。」
「え? あぁ、ありがとうございます、ひゃぁ!」
アルクレスタさんが抱きしめてきた。
「このあいだの返事、聞かせてもらいたいところだが……その前に一つ、是非君にも頼みたい事がある」
わざわざ抱きしめて耳元で言う必要はないと思うんだけどな。というか頼みたい事ってなんだろう? あと君にもっていう事は他にもいるんだよね。
「えーと、なんでしょうか?」
「私の侍女兼護衛をしてもらいたい。他にも冒険者ギルドに頼んであるのだけど、君は経験者だからね。もちろん報酬は出そう」
抱きしめるのをやめると、館に招き入れながら説明してくる。
何でも館の警備の兵は取り揃えたようだけれど、このあいだの刺客の一見から、マルボロ王国を真似て身近にいて守れる侍女兼護衛を置きたいんだとか。
そして経験者で、この間の刺客の撃退を見て私にお願いしたいと。
「既に冒険者ギルドから引き受けてくれた者達がもう間もなく来ると思うが、どうかね?」
うーん、どうしよう。私には迷宮に潜っているアリエルの事もあって、いつでも場合によっては助けに行きたい。でも、だからと言ってアルクレスタさんが狙われているのを知りながら放っておくのも出来ないよね。
「分かりました。ただ条件をよろしいでしょうか?」
私が出した条件は全て受け入れてくれたので引き受けることにした。
20名は座れる応接間のようなところで待っていると、入り口の方から数名の声が聞こえこちらに近づいてくる。
「どうやら来たようだね」
応接間の扉が開かれると、キャッティさん達の姿が見えた。
「あ、キャッティさん」
「あ、サーラ」
「サーラさんなのれす」
「まぁ」
「運命だな」
早速席に着くとアルクレスタさんが説明をし始める。
仕事内容は冒険者ギルドで聞かされていたため省かれ、引き受けたからには厳しく行わせてもらうと。
まず侍女長には私が選ばれ、護衛用に武器の所持は認められるが、見えないように隠し持てるもののみと言われる。
「あのぉ何故サーラが侍女長に選ばれたのか教えていただけますか?」
「あぁ、彼女は経験者らしいのでね」
条件の一つである、私の履歴の秘密はしっかり守ってくれたようだ。
一通り説明が済むとセバスチャンに連れられて侍女の部屋へと案内される。
「こちらが侍女の部屋です。衣服など用意させていただいてありますので、そちらに着替えて下さい。何かご用がありましたら、こちらでお待ちしております」
キャッティさん達がキャイキャイとはしゃぎながら部屋へと入って行き、私も続こうとするとセバスチャンに止められる。
「侍女長の部屋は別に用意されていますので、こちらへどうぞ」
まぁない事ないわけだし、仕方がないのかなぁ。
キャッティさん達に理由を言ってセバスチャンのあとに続いた。のだけど場所が離れている。
「一体どこまで行くんですか?」
「こちらでございます」
わぁお、どこからどう見ても侍女に与えられる部屋には見えない広さ、豪華な飾りのある部屋だった。
「あのぉ? ここはどう見ても賓客……いえ、住人が住まう部屋ですよね?」
「さすがでございますね。確かご条件には特別扱いについては言われて無かった、と記憶しておりますが……」
や・ら・れ・たー!
「これはダメです。マズイです。キャッティさん達との差がありすぎますよ」
「何をおっしゃいますか。じきにアルクレスタ様の奥方となられるのですから当然と存じますが?」
「ちょ、ちょっと待ってください。まだ私は返事をしていませんから!」
ホッホッホと笑ってごまかされ、他に部屋はないと言われてしまい、しぶしぶこの部屋で寝泊まりする事になってしまった。
うう……なんでこうなるの。
用意してあった侍女服に着替え姿見で確認する。マルボロ王国の時と違い、スカートはロングで黒を基調としたシックな衣装だった。
キャッティさん達の部屋に行くと、決して狭くはない部屋でしっかり1人づつベッドも用意されてある。
「あ、サーラさん、助けてくださいなのれす!」
泣きそうな顔でクゥさんが飛びついてくる。
どうしたのか聞くと、4人がそれぞれ問題が発生していた。
まずキャッティさん、腕周りの袖が絞ってあるためリストブレードが丸見えで、まるで侍女服を着た殺人者のようだった。
「キャッティさんはこれをつけましょうね」
袖を汚さないようにする腕抜きをつけて膨らみを持たせる事で解決する。
リストブレードを使えば破れてしまうと思うけれど、その時はそんな事言ってられない状況になっているから問題ないはず。
続いてクゥさんは、体が小さいためダガーですらショートソードの様に見えてしまう。そのためショートソードの方は諦めてもらい、ダガーをスカートの中に隠すように太ももに巻いてつけてもらう事で納得してもらう。
「このダガー使うには自分でスカート捲ってパンツ丸出しになるのれすが……」
「し、仕方が無いですよ」
続いてアーテミスさん、ロングソードはすでに諦めてもらい、代わりにクゥさん同様ダガーを携帯してもらう。
「仕方があるまい、私は私にできる事をやってやろう」
アーテミスさんは器用にスカートの端をさっと上げて、ダガーを抜き取り構えに移る。見えそうで見えない絶妙な武器の取り出しの動作がとても様になっている。
そして最後、カトレアさんが問題だった。
「嫌ですぅ。この鎧は信仰の証なので外せませんよぉ」
ここに来て最大の難関が待ち受けていた。
本日2話目の更新です。
侍女服ですが、メイド喫茶で見る様な服ではありません。見た目的にはドレスに近い感じです。
気になる方は検索してみると良いかもしれません。
次回更新は明日です。
ブックマークが増えてきて嬉しいです。




