アリエルの不安
「……という事だ」
今、私達は冒険者ギルドのギルドマスターの部屋で報告を済ませている。とは言っても説明はオルカさんがしていて、何も言わなくても私の力の事は一切言わないでくれた。
「炎を吐く狼に、黒い翼を持った人のように喋る魔物……にわかには信じがたい話だが、キャッティ達から聞いた事も合わせて考えると本当のようだな。
となると、しばらくの間地下迷宮は封鎖するのが賢明な判断か?」
「冒険者が行く行かないは自己責任だ。情報だけ流しておけば問題ない」
ううむとギルドマスターは考え込み始めるけど結局答えは出ず、私達は一度帰らされる事になった。
「ねぇ、どこかで食事しましょうよ。朝食、結局あまり食べられなかったわ」
「ああ、そうだな」
「俺も結構吐いちまったから腹減ってるな」
クスクス笑うとアリエルさんが私はどうか聞かれたので一緒させてもらう事にした。
〔古城に浮かぶ月亭〕に辿り着くまでの間、私達が町を歩いているだけで声が掛けられる。
大半は黄色い声をあげるオルカさん目当ての女性の声で、私にも男の冒険者達が群がって仲間に入らないかなどの声を掛けてくる。けど、そこはアリエルさんがシッカリとドスを効かせた脅しで排除してくれた。
「アリエルさんありがとう」
「んふふ〜、いいのいいの」
「なんだぁお前達、出来てんのかぁ?」
「内緒よ、ねー?」
「あ、は、はいぃ」
うう、私は一体どこに向かっているんだろう。
〔古城に浮かぶ月亭〕に入ると時間も遅かったため、客は大半が来たばかりの行商人がほとんどを占めていて、冒険者は私達だけのようだった。
料理を注文して食事をしているとオルカさんが口を開いた。
「報酬を貰ったら迷宮に行く」
「お前さん懲りないねぇ。まぁサーラがいりゃ大丈夫か」
「いや、彼女は一緒に連れて行かない」
「はぁ? なんでよ! まさかオルカ、彼女の強さに嫉妬でもしたって言うの!?」
「違うな」
「じゃあ何なんだ?」
「足手まといなんだ」
「はぁ? 言うに事欠いて足手まとい?」
「俺たちがな」
ハッとアリエルさんとポラベアさんがそれを聞いて黙り込んだ。
「そんな事ないです! 足手まといだなんて思ったこともないです!」
我慢できなくなり口を挟んだ。それをオルカさんが視線だけ私に向けてくる。
「俺は冒険者だ。安全な冒険に興味はない」
そう言うと立ち上がる。慌てたのはポラベアさんで、アリエルさんは迷っているようだった。
「待て! 分かった、わーかったよ。俺たちはパーティだ。チームだ。今までだってこれからだって3人でやって行こう。なぁアリエル……アリエル!」
「はぁ……オルカ、これで貸借り無しよ」
フッと笑うと1人で酒場を出て行ってしまった。
「何なのよ、あいつ!」
「だけどよぉ、俺は何となくだけど分かるぜ。オルカは先を行きたいんだ」
「 ……そっか、そうだよね」
うーん、なんかよくわかんない。けど、私には止められそうにないのだけは分かったかな。
報酬が出るまでの間は特に活動はなさそうで、アルクレスタさんから連絡が来るまでは解散になった。
私はアリエルさんに手を握られて引っ張られるように町を散策する。
「ねぇ、サーラはあそこの防具屋知ってる?」
「私はまだこの町来たてだから」
じゃあ行こうと誘われるままお店に入ると、色とりどりのローブが置いてある。
なーんか見覚えのある刺繍がしてあったり。
「あたしのこのドレスローブもここで買ったの。キャビン魔道王国からの直売店で、今まで見た事のないデザインのローブをたくさん扱ってるのよ」
うん、私知ってるよ〜。
着せ替え人形のように2人、色々なドレスローブとかをあれ良いこれ可愛いと着用して楽しんで、気に入った物を購入した。
次はこっちこっちと色々なお店に入ったり、色々な場所を移動しながら、迷宮の町のあちこちを紹介して行ってくれる。
「ちょっと疲れちゃったね。ここのお店で少し休もう」
「うん……」
喫茶店のようなお茶とデザートをメインに取り扱っているお店に入って色々な話をする。
んー、なんだろう、楽しいと思うのにさっきから妙に嫌な予感がするのは……
それにアリエルさん、なんか無理してる気がするのよね。
「サーラ、どうかした?」
「うん、ちょっと……」
「やっぱり気がついちゃったかなぁ」
アリエルさんはもしかしたら次の迷宮で死ぬかもしれないとか思っているんじゃ……
「正直ね、もしまたアレと出くわしたら、勝てる自信無いのよね。
やだ、ちょっとそんな顔しないでよ、だからって死ぬ気なんかないわよ。大丈夫。対策は……考えてるから」
絶対に嘘だ。
「でも……」
「サーラはさ、あたしの事好き?」
「ん……好き、かも?」
「んー?」
「……好き」
「よろしい、なら絶対戻ってくる。約束するから」
「うん」
とてつもなく不安がよぎる。たぶんそれはアリエルさんも同じなんだと思う。
お互い暗い雰囲気になってしまい、気まずく黙り込んだまま時間だけが流れた。
「あ、サーラぁ! っと、うわぁアリエルさん?」
そこへキャッティさん達が店に入ってきて、私達に気がついて隣の席に座った。
「なんか重苦しい空気なのれすね」
「何かあったの? 私達でよかったら話を聞くよ?」
私とアリエルさんが顔を見合わせて、頷きあった後相談する事にした。
「そんな事があったんだ。ゴメンねサーラ」
「それは良いんです。私がルールを忘れていて扉を閉めちゃったんですから」
「今はそれよりもアリエルさんの方れすよ」
手助けなんて絶対にオルカさんは認めないとアリエルさんは言う。
それを踏まえた上で話し合った結果、デプス4で偶然を装って助けるのはどうだろうとなった。
ただ、さすがにデプス3までしか行けないキャッティさん達ではデプス4は厳しく、偶然を装うのはそれこそ無理で、解決の糸口は見つからなかった。
そして話は例の翼を持った魔物の話に変わっていき、その攻撃手段や残忍さなどを説明する。
「でもぉ、オルカさんもポラベアさんも凄く強いんですから、2度目なら大丈夫なんではないですかぁ?」
「残念だけど次元が違う相手なのよ」
「しかし、その相手を倒したのだろう? ならサーラがいない程度、なんとかなるのではないか?」
アリエルさんが言葉を詰まらせる。それはきっと私の事を秘密にしようとしたからだと思う。
「お! サーラ、さん! とキャッティ、アリエルもいたのか」
そこへテトラさんがお店に入ってきて声をかけてきた。
「テトラ様、いい加減そのオマケみたいな言い方やめてくださいよぉ〜」
「すまんすまん、サーラ、さん目立つからついな」
「そうれす! テトラさんに相談してみるのがいいのれす!」
ぷるぷると怒りに震えるキャッティさんを他所に、クゥさんがテトラさんを指差して声を上げた。
「俺!?」
「それはナイスアイデアですねぇ、クゥ」
「うむ、適任だろうな」
早速私とアリエルさんをそっちのけでクゥさんが説明をし始めた。
「そういう事ならセインに話をつけてくる。まぁサーラ、さんが加わってくれるっていうなら必ずOKすると思うんだけどな」
「サーラはモテモテなのれす」
「あはは……イッ!」
足を蹴られた。アリエルさんを恐る恐る見ると顔は笑顔のまま私を見つめている。
アリエルさん、独占欲強いよ。でも、ちょっぴりそれが嬉しいかも。
「そんじゃあ早速聞いてくる。えーっと、どこに伝えに行けば良い?」
「今晩間に合うなら〔湖上古城亭〕にいるわ」
私が場所に困っているとアリエルさんが場所を決めた。
テトラさんが尻尾をパタパタ振りながら、私に手を振って戻っていくと、2箇所から殺気にも似た気配を感じる。
あ、あははははは……
色々な男女関係の受難に私は巻き込まれていっていた。
本日分更新です。
1年どころか1ヶ月すら立っていないこの話、どこですっ飛ばしたらいいんでしょうか……
あれから何年が経ったが使いたい。
次回更新は明日を予定しています。