シュガーラブ
初めての女体化のキスが女の子同士だった。しかも告白付き。
まだほんのわずかと言うのか、それとも根本として残り続けてくれている男の部分なのか分からないけれど、嬉しい気持ちもあったのは確かだった。
「こ、恋人ですか?」
「そう、それなら元に戻った時にもダメージ少ないだろうし、あたしが近づく悪い虫から守るから巻物も使わないでいいのよ?」
私の返答を嬉しそうに待っているアリエルさんが、私の手を握ってくる。
元に戻った時にダメージって、男女なら確かに皆無の筈よね。後、守るというのだって甘い呟きに惑わされそうになった時に引き止めてくれるって事だろうし、巻物使わないからちぐはぐな感じにならないで済むんだよね。でもちょっと待って。
「凄く嬉しいのだけど、それってアリエルさんの負担になるんじゃ……」
「ぜーんぜん大丈夫よ。むしろ憧れの存在に近づけるどころか恋人になれるなんて最高じゃない」
うーん、それって私ではなくて憧れの存在だからなんじゃ、あ、でも、私の姿を見てって浴場で言ってたっけ。
「今は同性になっちゃうけど、私なんかでよかったら……不束者ですがよろしくお願いします」
迷った末に私はアリエルさんと恋人になる事を選んでしまう。
「やったぁ!」
言うなり抱きしめてきて、またキスされる。違和感はあるけれどそれは女同士だからで、きっと元に戻れば気にならないはず? ひっ! ううぅぅぅうぁ!?
「ちょっあっ!アリエルさん、んんぅ、な、何をしてるんで、すか!」
「イチャイチャよ、イ、チャ、イ、チャ。恋人同士なら普通するでしょう?」
「ちょっ、待って待って! もうちょっと、そういう事は親密になるまでは、ね?」
「ダーメ。待ってあげない」
結局アリエルさんは私の部屋で一緒のベッドで夜を明かす事に……
改めて、アリエルさんは年齢20歳、自信家なところのある美人で、ふっくらとした金髪に赤い紐で大きなリボンのように結んだポニーテールが特徴的な赤いドレスローブの格好をしている。
柔らかな感触を口中に感じて目を開けると、濃厚なアリエルさんのキスで目を覚ます。
「おはよう、サーラ」
「お、おはよう、ございます、アリエルさん」
「ん〜、可愛いなぁ」
「一応、私の方が年上なんだよ」
「どうでもいいわよそんな事、さ、残念だけど準備して行くわよ」
あー、そうだった。報告に行かないといけないんだったっけ。うあ、凄い脱力感。
着替えを済ませて、宿を出るとオルカさんとポラベアさんがすでに待っていて、私とアリエルさんの姿を見ると冒険者ギルドへと向かった。
あれ、朝食は?
冒険者ギルドの前に辿り着くと人だかりができていて、私の姿を見るなり走り寄ってくるキャッティさん達の姿があった。
「サーラ!」
「サーラさん!」
その中で1人、アーテミスさんだけは無言で近づくと私を抱きしめ、
「心配した、心配したんだ! 今まで一体どこに消え失せていた。どれほど不安に思ったか! 生きていたと知ってどれだけ嬉しかったか!」
「大袈裟ですよ、アーテミスさん」
「君となら私は死ねるよ」
「はいはいはい、アーテミス、そういうセリフはサーラが正式にパーティの仲間になったら好きなだけ言っていいから」
「そうか、分かった」
そんな!? 私の意思は?
「でも本当に生きててくれてよかったのれす」
「そうねぇ、あの扉が閉まった時、私達は助かったけど生きた心地がしなかったものねぇ」
あははと笑いながらごまかしていると、これまた絶妙なタイミングでオルカさんが進みだしたため、キャッティさん達に手をパタパタ振ってオルカさんの後を追っていった。
冒険者ギルドの中に入るなりギルドマスターの部屋へと通された。どうやらサリアさんの姿は見えず、ここでの一悶着はおこらないで済んだ。
ギルドマスターの部屋はテーブルとイスがあってあちこちに書類のような巻物が大量にあって忙しさが伺える。
あー、やっぱりあの時サリアさんと一緒にいた人がそうだったんだ。
イスに座っていたギルドマスターはあの時サリアさんの謝罪の際に姿を見せた人だった。
「早速で済まないが、報告は後回しだ。領主様が待っているから、君達は領主様の屋敷に向かってもらう」
うわ、来て早々そっちかぁ。大丈夫!私にはアリエルさんが……
ええぇぇぇぇえ!
アリエルさんがなんか私のこと睨んで怒ってるぅぅ!?
ギルドの裏手に準備してあった馬車に乗せられ、領主のアルクレスタさんの屋敷に連れて行かれる。ドナドナ〜
「サーラ!」
アルクレスタさんが駆け寄ってきて抱きしめられる。
うあ、早速キターー! そしてアリエルさんが睨んでるぅぅ!
「無事でよかった」
「あのぉ、私達もいるんですがぁ」
「ん、ああ、悪かった」
「俺ら腹減ってんだよなぁ」
ソウイウコトカ
領主の屋敷に入るとダイニングルームに通される。オルカさんとポラベアさん、アリエルさんとは私は離され、どういう事かアルクレスタさんのすぐ隣だった。
なんかあからさまな席順に決められてるよぉ。
席に着くと料理は既に用意してあって、何かお祝いごとかとも思えるような豪華さだった。
「うひょお、さっすが領主様! 旨そうだぜ」
ポラベアさんは言うなり料理を素手で掴んでむしゃぶりつき出す。
オルカさんとアリエルさんはナイフだけを器用に使って黙って食事をし出したので、私もナイフとフォークを使い、切り分けながら一口サイズにカットしながら食べる。
それを見ながらアルクレスタさんがそっと声をかけてくる。
「ははは、やはり君は彼らとは住む世界が違う。君は冒険者になんかなるべきではない」
「そんな!」
私の声で3人が食事の手を止めて私達を見る。
「サーラ、突然どうし……」
「う、うごぇ……うげえぇぇぇ」
「これは……毒か!?」
ハッとアルクレスタさんを見ると首を振って否定する。アルクレスタさんはなんともないところから、毒は食事に含まれていたようだった。
「アルクレスタさん!」
「違う! これは私ではない! それより早く解毒を! 誰かいないか! セバスチャン!」
しかし誰も来る気配は無く、そしてオルカさん、ポラベアさん、アリエルさん達は毒に苦しんでいる。
「アリエルさん! 解毒をしてください!」
「い、いあああいいええ」
どうやらご丁寧な事に痺れの効果まである毒のようだった。
このままじゃ……そうだ、私にできること。感知を使って近くにいる人を!
いた!
感知でこちらに向かってくる者の方を向くと、そこには私の期待を裏切り、明らかに不審な黒装束に身を包んだ人物がいた。
「私の命を狙った刺客の仕業だったか」
無言のまま小剣とダガーを構えてアルクレスタさん目掛けて走り寄ってきた。
政治絡みに私は巻き込まれてしまうと言う新たな受難にあってしまった。
こっそりと本日2度目の更新です。
今書いている途中の話辺りから、登場人物達が一人歩きし出しててんやわんやになってきてます。
なんか分岐でも作ってサハラとサーラで分けちゃおうかとか最近思ってみたり、みなかったり。
今回は特別な更新なので、毎回は期待しないでください。
次回更新は当初の予定通り明日行います。