はじめてぇのチュウ
「偶然かもしれないが、俺たちが連れている。権利は俺たちでいいんだな?」
「おいオルカ、俺たちはむしろ助け……」
オルカさんに睨まれポラベアさんが黙った。
「いや、まぁそういう事になる。それに僕たちは報酬のためにサーラさんを探しに来たわけじゃない。無事ならそれで良いんだ」
うわー、なんか危なっかしい空気。
「なら俺は町に連れて行くと言ったんだ。邪魔をしないで貰う」
「邪魔はしない。だが一緒に行かせて欲しい」
「勝手にするがいい」
なんかもうぐちゃぐちゃ。
今いる場所から本来なら地上まで一泊は必要になるところ、デプス4までいけるパーティが2組になると、部屋にいる魔物も一瞬で討伐されて、その日のうちに地上に戻れてしまった。
とは言え地上に出た時間が時間だったため、宿で一泊してから翌日に報告となった。
宿はオルカさん達と同じ場所で、いつもよりも少しランクが低い。
私は1人部屋に泊まり、ベッドの上で横になりながら考えていた。
もちろん明日会うアルクレスタさんの事で、女性化している今、このままだと本当に場の空気に流されて婚約とかしかねなかった。
うー、今晩のうちに町を離れようかな。もう冒険者証も手に入れたんだしね。
友人のキャスに貰った世界各地の情報の書かれたスクロールを取り出して流し読みながら考え込んでいた。
ポトッーーー
あれ?なんか落ちた。
拾い上げて中を見るとこう書かれていた。
ーーーサハラへ
もし女体化の進行で、女性化が強くなって本当に困ったらコレを使ってね。
コレを使えば精神的な女性化が弱まると思うよ。
ただし、思考のみ男に戻ると思うから、コレを使うと女体化したての、外見だけが変わった時みたいに戻ると思うんだ。きっと既に接触した人達には違和感を与えると思うし、サハラ自身も治るまでの間、体は女で心は男とちぐはぐになる覚悟はしておいてほしい。
もっと早く、王宮にいる間に渡したかったけど、完成したのが旅立つ少し前になってしまってゴメン。
キャスーーー
お……お助けアイテム来たよーーー!
下手したら結婚でもしかねない危なっかしい状況よりはマシ。絶対にマシ。
早速一緒にあった魔法の書かれた巻物を、前に少しだけ習って使えるようになったウィザード魔法の魔法読解を久しぶりに使おうとして手が止まる。
ノオォォォォォォォォ! 魔法の記憶全くしてなかったぁぁぁぁ!
「お風呂入って寝よ……」
睡眠を取って疲労を取ってから記憶すればすぐに使えるようになる。明日朝には戻れるのだからと気を取り戻す事にした。
この宿にも浴場はあって、やはりというか混浴になっている。脱衣所で湯着姿に着替えていると、アリエルさんが入ってきた。
「あ、」
「あ、」
私は迷宮で休憩していた時のことを思い出してしまう。そして何故かアリエルさんも私を見て頬を赤らめている。
「い、一緒に入ろ」
そう言って服を脱ぎだしたアリエルさんを見ていると、身体を隠すように湯着に着替えているのに気がついた。
「な、なに?」
「え? えーと、アリエルさん綺麗なプロポーションだなって思って」
「え、あ、ほんと!? あ、うううん、なんでもない」
なんだろうアリエルさんのこの反応は……
そそくさと湯着に着替えると浴場に入って、2人湯に浸かった。
「どうかしました? 迷宮で休憩し出した頃からその……」
「うーん、どうしようかなぁ。うん、サーラあの時魔物が言ったこと覚えている?」
「あの時?」
「罪状がなんたらって」
ああ、そう言えば言ってたなぁ……ん? まさか私の姿のこと?
「あ……」
「あの後にね、実はこっそり内緒で真実を見ることができる魔法の真実視使ってみたの」
あ、男だってばれたぁぁぁぁ! うわどうしよう。
必死に冷静を保ちながらも頭の中ではパニック状態になりだす。
「そ、そそそ、そうなんですね?」
「あたしね、ここに来る前は霊峰の町にいたのよ。そこで呼びかけに応じて有能なあたしも解放軍に加わったわ」
じ、自分で有能とか言っちゃうんですね。
「今でも忘れないわ、私の信仰神の代行者を初めて見たのを。黒目黒髪の人で、雄々しく立派で神々しくまさに代行者って感じで、あたし痺れちゃった」
それ、きっと別人。私はそんな雰囲気一切持ち合わせてなかったと思うよ。
「そ、そうなんですか」
「理由は分からないけど、……サハラさん、だよね?」
チーン。
もうさすがに言い訳も難しいと判断した私は、友人である王妃レイチェルを守るために女体化した理由を話し、戻れなくなってしまった事と、精神面も魂に引っ張られて女性化していっている事全てを話す事にした。
もちろん伏せるべきところは伏せて。
「……というわけなんです」
「そうなんだ。ちょっと待ってね。上級魔法解呪」
私の体が一瞬少しだけ魔法的な光に包まれるけど、すぐに収まってしまう。
「うわ、本当だ。あたしの魔力でも解けないなんて、もはやそれって呪いに近いわね。念のため……解呪」
先ほどとは違い、なにも起こらなかった。
「やっぱり呪いじゃないのね」
「い、一応、魔法の神の代行者でも無理だったので……あ!」
「どうかしたの?」
私はアリエルさんにキャスの巻物の話をしてみる。
「精神面だけ男に戻るねぇ……」
推測だと念を押されて、アリエルさんが起こりうるであろう可能性を話し出す。
「たぶん別人になったように思われて不審に思われるかもしれないわね」
「じゃあ使わないほうがいい?」
「それはそれで、元に戻った時の精神的なダメージも大きくなりそうなのよねぇ……ねぇ、い、一応確認するけど、女体化してからそういう事ってもうしちゃった?」
「そういう事?」
「だからー、男女の関係の事よ!」
アリエルさんが大きな声で叫ぶように言ってしまったため、他に浴場にいた客が一斉にこちらを向き出す。特に男性が。その視線を感じて見回すとサッと顔を逸らすが、耳を澄ましているように浴場に静けさが漂う。
「えーと、アリエルさんここだと他の人たちが……」
「あ! ゴメン。じゃあ部屋で話そう」
そこで周りを見渡して、スーッと大きく息を吸うと、
「あんたら余計な事に耳突っ込んでると、お湯に電気流してやるんだからね!!」
ウヒィ、ひえーなどと言った声が上がった。
着替え終わって部屋に戻ると早速アリエルさんが誤ってきた。
「さっきはゴメンねぇ、つい思わず興奮しちゃった」
「いえ、私も答える前で良かったというのか、油断していたというのか」
「うんうん、それで関係は?」
「ありません」
「キスも?」
「ありません」
「やったぁ!」
アリエルさんが私を抱きしめてくる。何がやったぁなのか聞こうとしたところで、口を塞がれてしまう。
あ、私キスされてるーーー
長いようで短いような時間のくちづけ。頭の中はパニックで、だけどどこか抵抗できないでいる。
「ぷふぁ、1番貰っちゃった」
「アリエルさん何を……」
ジッと私を見つめた後、アリエルさんがとんでも無い事を言い出した。
「サハラさん、うううん。サーラでもいいや。
あたしと恋人になろ?」
え? ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
私の受難は続く。
本日分の更新です。
迷いに迷った今回の話、当初は精神面の男性化とどちらにするか迷いましたが、ガールズラブ要素が含まれていますを入れている以上こちらの流れが良いかと決めました。
いきなり性格が変わるのもおかしいと思ったなどの理由もあります。
「作者さん、好き嫌いがかなり別れていきそうな気もするよ?」
じゃあ、男とのイチャイチャが良かったですか?
「うーん、今の私なら受け入れられそうだけど、男に戻った時にどうなるか……」
そうでしょう、そうでしょう。
「それにしてもアリエルさんとは……どこぞの人魚が思い浮かんじゃうんじゃないですか?」
咄嗟に出た名前ですので、一切姿形は違いますよ。一応次回に書かれますけどね。
と言うわけで? 次回更新は明日の予定です。ちょーっとだけ進行速度低下で焦りが……
日常話って難しいなぁ、というより恋愛話が難しい。しかも全く無知な百合話……この手の話が好きな人、変だったら教えてください。