邪悪なる存在
オルカさんがドアに手をかけ開け放つと同時に部屋へと飛び込む。
その後にポラベアさんが続いて、アリエルさん、私の順に入った。
そこにいたのは、あの赤い目をした痩せたひょろ長い狼に似た魔物が、5体姿勢を低くし唸り声を上げながら待ち構えていた。
オルカさんとポラベアさんの行動は早かった。何の合図もなくブレスを吐かせまいと即座に武器を構えて走り出し、アリエルさんもブレスを吐く前に魔法矢を放ち、その対象をそれぞれに分散させる。
3匹ほどが炎を吐き出そうとしていたが、魔法矢が命中して防いだ。
「ブレスは連続で吐けません!」
私がそう叫ぶと同時に、オルカさんとポラベアさんは当初向かっていた標的からブレスをまだ使っていない2匹へと向かいだした。
凄い、全体をちゃんと見ている。
だけどポラベアさんが向かった狼のような魔物にあと一歩間届かず、ブレスを浴びかねなかった。
「危ない!」
掌をアッパーを打つように振り上げて念動力で狼のような魔物の口を閉じさせた。
ギャウッ!
口から本来吐き出すはずだった炎が口内で暴発して頭が吹き飛んだ。
「済まん、助かった!」
「まだいます」
「おう!」
私が念動力で倒したのと同じころ、オルカさんも1匹仕留めていた。
残り3匹。オルカさんとポラベアさんが残ったそれぞれに向かい出す。
余った1匹に私はあくまで騎士をアピールするように走り出す。
聖剣
持っている杖が白光を纏いだす。
これを使うのは久しぶりだなぁ。っとこのままじゃ間に合いそうにないから、ちょっとだけ高速移動をしてぇ……
普段通りに杖で殴りつけた。
あ、るえぇぇぇぇぇ!?
顔こそ歪んだけれど、狼の魔物に大したダメージは与えられなかった。
そうだった、修道士の力使ってなかった!
その一瞬の遅れに狼のような魔物が飛びかかってくるのが予測で分かり、慌てて地面を転がって避ける。
そこへ更に襲いかかろうとしたところを魔法の蜘蛛の糸が絡み付いて魔物の動きが止まった。
「アリエルさん!」
「ボサッとしないで!」
立ち上がって今度こそ気を杖に入れた一撃で狼のような魔物を叩き潰して息の根を止めた。
私が倒したのが最後で、全ての狼のような魔物が倒れた。
「急ぐぞ」
「もうここを出ればすぐにデプス3だろう?」
「いいから急げ!」
ポラベアさんは分からないといった感じで首を振りながらも従って扉を抜ける。
私とアリエルさんが扉を出て閉めようとしたときだ。
ドガァンと反対の入ってきた方の扉が叩き壊され、オルカさんがずっと危惧していた存在の姿が見えた。
180㎝ぐらいの人の姿に背中からは黒く染まった翼が生えている。手には不思議なロープを持っていて、そして無慈悲な瞳で追いついたぞとでも言いたげにこちらを見つめていた。
「早く扉を閉めろ!」
オルカさんがそう叫ぶのと同じく、追跡者の手からロープが伸びてアリエルさんの片足に絡みつくと部屋へと引っ張られる。
「やだ! ちょ、ちょっと、何よこれ!」
「アリエルさん!」
私がアリエルさんを引きずりこませまいと体を掴んで踏ん張り、ポラベアさんがロープを切断しようと剣を振るうけれどビクともしなかった。
「わわっ、うわあぁぁぁぁぁぁ」
「いやあぁぁぁぁぁぁ」
ロープに絡まれていたアリエルさんと体を掴んでいた私2人は部屋へと軽々と引きずり戻されてしまい、私はそこで引き剥がされてしまう。それを見たオルカさんとポラベアさんも追って部屋へ入り込んだ。
片足をロープで絡みとられているアリエルさんはそのままずるずる引きずられて、何もないのにまるで何処かに引っかかっているかのように、追跡者の頭の高さまで逆さに吊るし上げられてしまう。
「ひっ!」
「アリエル!」
「アリエルさん!」
私とポラベアさんが声を上げている隙にオルカさんは素早く行動に移し、追跡した者に斬りかかっていた。
ロープを握っていて片腕が塞がっている状態のその相手は、オルカさんが斬りかかるとどこから取り出したのか残った片手に剣を取り出していて、その一撃を軽く捌いて肩の辺りを刺し貫いた。
カランっと曲刀が地面に落ち、苦痛に顔を歪めるオルカさんをじっと見つめたかと思うと、事もあろうか刺さったままの剣をグリグリとわざと痛み苦しむ姿を楽しむかのように、目を細めながら動かしている。
「っの野郎!」
助けに入るようにポラベアさんが斬りかかった。
だが、
その時両手を放しオルカさんは崩れ落ちるように地面に倒れたが、アリエルさんを吊っているロープは動くことなくそのまま空中で固定されている。
そしていつの間にか、その相手の手には炎を纏った矢をつがえた弓を構えていてーーー
ポラベアさん目掛けて放った。
矢は違うことなくポラベアさんの片目に突き刺さった。が、おそらく相当な激痛であろうを堪えながらもポラベアさんはそのまま止まることなく斬りつけた。
しかし聞こえてきたのはポラベアさんの更なる苦痛による声で、転がるように地面に倒れ、矢が突き刺さった片目ではなく、反対の目も抑えている。
黒い翼を持つ人の様な魔物なんだろうか? を見ると指を一本突き出していて、そこには血がついている。
ーーー指で目を突き刺した。
このままじゃみんな殺される。
「サーラ、あたし達はいいから、貴女だけでも逃げて!」
ロープで片足だけで吊るされたままアリエルさんが叫ぶ。
「逃げろ! そしてこの事をギルドに報告するんだ!」
ポラベアさんも両目を潰されながらも立ち上がり、まるで熊の様に手を広げて自らを盾にする覚悟の様だった。
「急げ!」
肩を押さえながら立ち上がったオルカさんが言う。
私だけが3人を見捨てて逃げるわけにはいかない。だって、こんなにも素敵な人達を私の我儘なんかのために失いたくないから。だからーーー
「大丈夫です。今、助けますから……」
更新です。
本日は後ほどもう1話更新予定です。あくまで予定にさせてください。
ついに姿を見せたタイラント、じゃなくて追跡者。
外伝だけ読んでいる方の為に説明をさせていただくと、この世界には悪魔という存在はいません。でした。
本編で語られた事で誕生しましたが、神々以外での認知はほぼありませんので、見た事も無い魔物とされています。
「最初の狼みたいなのはヘルハウンドですよね?作者さん」
そうですね。
「今回出てきた追跡者は悪魔でいいのかな?」
その通りデーモンですね。すぐに殺さずいびるのが好きで、天使のようなふりをしています。
「んー、天使のようなって天使がいないじゃ無いですか?」
いますよ。代行者は天使ですから。
「はい!? そうだったんだ……」
神の代行者ですよ? 神の使いの事でしょう。
「図られたー」
というわけで、翼は無いですが代行者=天使みたいなものです。故にその神が持つ力も行使できるわけなのです。
「なるほど〜」
すんなり受け入れてくれましたね。
「もう色々諦めかけてますからね。世界は救われても私は救われそうに無いって」
はっはっは、なら心置きなく今後もいじらせてもらうとしよう。
「絶対に作者がラスボスですね、これ。
あ、そうだ。感想ありがとうございます!」