見えざる脅威と逃走
ちょっと抜けてそうに見えたポラベアさんが鋭い指摘をしてきた。
アリエルさんも気になっていたのか、私を見つめている。
どうしよう、どうしよう、ど〜しよう……
「一度、町に戻る」
私が返答に困っていると、突然オルカさんが口を開いた。
また助けられた? それとも偶然?
「どうしたオルカ?」
「嫌な予感がする」
「じゃあ戻りましょう」
オルカさんの一言で素直に2人が従う。今さっきまでのふざけた態度とは一変し、真面目な顔つきに変わった。
「サーラも急いで。オルカの予感は的中するから」
「え、あ、はい」
オルカさんを先頭にオルカさん達が入ってきた扉を開けて通路に出る。
「オルカ! 戻るとなると部屋を3つ通らないといけないわよ」
「わかっている」
私には全くわからないけれど、とにかく良くない状況みたいで走って進んでいく。
扉が見えてくるとオルカさんは微塵も躊躇する事なく扉を開けて中に入り込んだ。
中には1体の浮遊する黒い人影があり、目にあたる部分に2つのちらつく光点がある。
「レイスよ!」
「ポラベア、一気に叩くぞ」
「おうよ!」
足を止める事などせずに2人は抜刀して斬りかかる。
オルカさんの持つ、曲刀で通りすがりにレイスを斬りつけ、その後にポラベアさんの両手剣が振り下ろされる。
「ちいっ浅かった。アリエル!」
「【自然均衡の神スネイヴィルス】の名の下に、不浄なるものを聖なる炎で焼き尽くす柱を呼び出さん、業火!」
アリエルさんの神聖魔法、業火によりレイスに火柱が上がって影のような体が四散するように焼き尽くされた。
す、凄い。これがデプス4まで来れるパーティなんだ。
「サーラ、立ち止まってないで行くわよ」
「あ、はい!」
気がつけば、既にオルカさんとポラベアさんは既に扉を開けて通路を走って先を急いでいた。
この3人は仲間を完全に信頼しきってるんだ。じゃなきゃ倒せたかわからないまま置いていくような事なんかしないもの。
そう思いながら私もアリエルさんの後を続いていく。
次の扉が見えるところまで来ると、私達が追いついたのを見るなりオルカさんとポラベアさんが扉を開けて部屋に飛び込んでいった。
私とアリエルさんもその後に続いた。
部屋の中に入り込むとそこには、天井に届きそうな5メートルほどはある巨大な石や土で、目にあたる部分には輝く宝石の人型をしたアースエレメンタルがいた。
「しぶとい奴が出てきやがったぜ。オルカ、一旦出て相手を変えるか?」
「いや、やる」
「アースエレメンタル相手なら、あたしの魔法はあまり当てにしないでよ」
何もしないわけにはいかないよね?
「私も戦います!」
3人が私をチラッと見たけど、特に何も言われない……と思ったら、
「頼む」
オルカさんに頼むと言われた。
わわわ、「頼む」って言われたよ。よーし、予測、感知、それと……
すうぅぅ、はあぁぁぁっと3人には深呼吸したようにしか見えない修道士特有の呼吸法をするとオルカさんの横に杖を構えて並んだ。
アースエレメンタルはそこまで強くはなく、動きは鈍く攻撃は巨体から繰り出されるブン殴りだけ。ただ非常に固くてしぶとく、またオルカさんの曲刀では有効打にならないため、ポラベアさんの両手剣による破壊的な一撃だけが頼りとなる。
……うん?
私はアースエレメンタルの攻撃の的を増やす役割をしていて回避に専念していると、オルカさんがチラチラと入ってきた扉の方を気にして焦っているように見える。
私には第六感のような力まではさすがにないからわからない。けれど感知の届く範囲には扉の向こうから近づくものはいない。
でも、急いだ方が良いのかな。
杖に気を送って神鉄アダマンティン化させ、攻撃に転じる。
アースエレメンタルのブン殴りを杖で逸らした私はそのまま振りかぶることなく、その腕に杖を叩きつけた。
ボゴォっと音が聞こえ、続いてドガァンとアースエレメンタルの手首から先が地面に落ちた。
ここで終わらず私はそのまま走ってアースエレメンタルの懐に入り込むと、跳躍で頭の高さまで飛ぶ。
「いっっけえぇぇぇぇえぇぇぇぇ!」
思い切り首のあたりと思われる場所目掛けて杖を最大の長さに持って薙ぎ払い、スタッと着地してバックステップして下がった。
直後、アースエレメンタルの首がグラッと揺れたかと思うと地面に落ちてきて、そこで動きが止まった。
「何それ……」
「お、おい、何だよ今の」
「……急ぐぞ」
アリエルさんとポラベアさんが何か言いたげだったけれど、オルカさんの指示を出すと、そこで言葉を飲んで移動を再開する。
後で何か言われたら本当は騎士魔法が使えるとでも言っておけば大丈夫なはず。それにキャッティさん達にはもう見せちゃってるんだから。
反対の扉を開けて抜けた直後、私の感知に反応が現れた。それはユックリと移動しながら、でも着実にこちらに向かってきていた。
「オルカ、おいってば! さっきから何をそんなに焦ってんだよ!」
「わからない。だが、俺の中の警報が逃げろと言っている」
「ポラベア、今はオルカを信じて従いましょう。サーラもしっかりついてきて」
「はい!」
そして最後の3つ目の扉の前まで辿り着いた。
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