デプス4と墓穴
ここは何処? 私は誰? そんな馬鹿なこと考えている場合じゃない。
ついさっきまで確かにキャッティさん達のいたはずの通路がなくなり、洞窟のような壁の通路になっている。
覗いてみる限り今までの石壁の迷宮が2ブロック先まで見えていたのに対して、1ブロック、6メートル先ほどまでしか見えないほど暗い。
うひゃー、これだけ暗いとさすがに怖いなぁ。とりあえずどうしよう。
どうするか考えていてすっかり油断していたその時だった。
突然扉が勢いよく開け放たれかと思うと、何者かが私に向かって斬りかかってきた。
あまりにも咄嗟の出来事に杖でその攻撃を受け流し、反撃の一撃を入れる寸前でその相手が冒険者であることに気がついた私は慌てて攻撃の手を止めたーーー
だけどそれがいけなかった。
次の瞬間、ドスッとお腹に強烈な重い蹴りを受けてしまいカハッと息が漏れてそのまま吹き飛ばされてしまう。
あ……呼吸が……意識が………
倒れたままの姿勢で片手で持った杖を位置がよくわからない相手の方に向けながら、必死に意識を保とうとしていた。
けど、気を抜いたところに重い蹴りを受けてしまった私は、息が詰まっていて肺に上手く酸素を取り入れられず、そのまま気を失ってしまった。
薄っすら話し声が聞こえてくる。
「ちょっとぉどうすんのよ! ルール違反に加えて一方的に攻撃、これはもう犯罪モノよ!」
「う、すまん」
「あたしに言ってもしょうがないでしょうが、このどアホ! どうしてくれんのよ、あたし奴隷落ちなんて嫌だからね!」
「目が覚めるのを黙って待て」
「オルカ、さっきから妙に落ち着いてるな」
オルカ……さん?……あ!
ガバッと起き上がると心配そうに見つめてくる女性と目が合った。
「あ、目が覚めた。良かったぁ、ねぇ大丈夫? どこか痛むとこはない? やったのあたしじゃないからね、ね?」
「あの程度の蹴りで死ぬような冒険者ならここまでたった1人でなんて来れないだろ。それにサラッと責任逃れすんなよ」
「女の子蹴っ飛ばしてどの口が言うか!」
「俺の剣をあっさり受け流して反撃までしてこようとしたんだぞ? むしろ俺の方が焦ったぐらいだ」
そんなやり取りをまだはっきりしない頭でボーッと見ているとオルカさんが声をかけてきた。
「冒険者になったんだな」
あ、覚えていてくれたんだ。
何故か無性に嬉しかった。
私はコクッと首を振って答える。
「あれ? オルカ、知り合いだったの?」
「以前、冒険者ギルドまで案内した」
「オルカも隅に置けないなぁオイ」
「あんたはそれより先にまず最初にやることがあるでしょうが!」
「そうだった、いきなり斬りつけて済まなかった」
「そこじゃないでしょバカタレがあぁぁ! 」
「あ、そうか、その済まなかった蹴っ飛ばしたりして」
思わずプッと吹き出してしまった。だってこの2人のやり取り、さっきから面白いんだもん。
「もう大丈夫です」
その後が大変だった。
土下座の勢いで謝られてギルドには言わないで欲しいと懇願してきたのが、人間のアリエルさんと言って、なんとソーサラーにして女性神官と言う今まで出会った人の群を抜くような魔法のスペシャリストだった。しかも信仰神が【自然均衡の神スネイヴィルス】だったりする……私、その神の代行者だよ。
そして曲刀のオルカさん、人間の戦士、ではなくその上位クラスに当たるレンジャーだった。世界各地を転々としているらしいけど多くは語らないそうで詳しい事はアリエルさん達もわからないんだとか。口数が少なくて、容姿はとてもカッコよく、魅力的で……って、あれ? ちょっと待て私。
最後に私を加減なく蹴っ飛ばした人が、ポラベアさんと言って、大柄な熊獣人の戦士で両手剣の使い手。だけど今は必死に謝っている姿が、さっきとのギャップがあって可愛く見える。
「そういう事だから、ギルドには言わないで欲しいの。お願い! この通りだから」
「俺からも頼む」
「お前が諸悪の根源だろうがあぁぁぁ!」
「あは、いえ、言いませんよ。この通り問題ないですしね」
「足らないんだよなぁ……」
「え?」
「足らないんだよ、胸が。もうチョイあったら嫁さんにしたいところなんだがなぁ」
「ポラベア、あんたいっぺん死んでおく?」
「なんでだよ、俺は美人だって褒めてるだけだろう。胸が足らないが」
「サーラ、コイツはもう無視していいから」
気がつくと私は自然と胸に手を当てながら話を聞いていた。
そんな私の胸はCカップ、もっと大きい方が男の人って嬉しいのかなぁ……って待て。
「うわ、いえ、いいです別に、はい」
なんか変な返事をしてしまった。でもなんでだろう、女体化してから異様にモテてる気がする。そしてそれはもちろん嫌ではない。嫌ではないけれど、今の私は本当の私じゃない。うーん……モヤモヤする。
それは兎も角置いといて、アリエルさんとポラベアさんにここにいた理由をいろいろ尋ねられる。
サリアさんにも言われていた最重要注意事項の1つで、部屋に入ってから魔物を倒さずに部屋から出た場合、不思議な力でもう一度開けると違う魔物が現れるという。その時魔物と一緒に中に残ってしまうと魔物ごと場所が転移してしまうというのをすっかり忘れていた。
その事を話すと、
「という事は、キミはデプス2からいきなりデプス4まで来てしまったという事なのか?」
「そう、みたいですね」
「ありえんのか? そんな事」
「火を吐く狼ねぇ……あたし達も今までこんな魔物になんか会った事無いわ」
そう言ってアリエルさんは床に転がっている死体をチラッと覗き見る。
オルカさんは話には一切加わらずに、さっきから興味深げに狼のような魔物の死体の手を持ち上げたり、口を開けて牙を調べたりしている。
「キャッティって確か中堅どころの女の子だけのパーティだったわね」
「はい、確かデプス3まで行っていると話は聞いてます」
「デプス3まで来れるパーティの前衛がこんな犬っころのブレス1発でやられるのかよ」
「死んでませんから!」
「分かってるよ。だけど戦闘継続は難しかった、だろ?」
「それはそうですけど……」
「ポラベア、言い過ぎよ」
「待てよアリエル、ここが重要なんだ。
サーラ、キミはそんな化け物2匹をたった1人で倒した。キミこそ一体何者なんだ?」
うわあぁぁぁぁぁぁぁ! 墓穴掘ったー!
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