火を吐く狼と待ち受ける受難
ん……なんかあったかい。なんだろうこの包み込まれる様な安心感……
「目覚めたかい?」
ん⁉︎ んんんんん〜!
一気に覚醒していきガバッと上半身を起こすと、アーテミスさんが寄り添うようにいる。
「ななな、何してるんですか!」
「サーラの寝顔があまりに可愛かったものでな」
「と、とりあえず離れてください」
「キスしてくれたら離れてあげよう」
は? キス? え? 一瞬パニックになる。
「こらーっ! アーテミス、何バカな事してんのよ!」
目が覚めたキャッティさんが慌てて止めに入ってくれる。
あ、迷宮では寝坊とかしないんだ。
「邪魔が入ったな。続きは後で2人きりの時に」
「私、そういう趣味は無いですよ」
アーテミスさんって同性愛者なのかな? 本当は男だって知ったらどうなっちゃうんだろう。でも、男の人が言ったら臭そうなセリフだけど、アーテミスさんだと似合ってて下手な男の人よりカッコいいかもな……
「あんまりしつこいと嫌われるのれすよ」
「致し方ないな」
「んもう、アーテミスったら可愛い子見るとすぐからかうんだから」
「あはははは……」
デプス2となる6階層に降りた。
キャッティさん達のパーティはデプス3までは行けるだけの力があるということで、デプス2にあたる6階層から7階層はまだまだ余裕があるという。
「一応気を抜かないでね。この迷宮はデプスに関係なくレアと言われる階層無視した強さの魔物も出てくることもあるから」
それを聞いてミノタウルスを思い出す。デプス1で出てきたことから考えると、確かにデプス無視している様に思う。
そうこうしていると扉の前まで辿り着いた。
中には感知で2つ反応がある。
「行くわよ」
キャッティさんを先頭にクゥさん、私の順に部屋に踊り込んだ。
中には赤い目を爛々と輝かせ痩せたひょろ長い狼に似た生物が2匹待ち構えていた。
「何あれは!」
「初めて見る魔物れす!」
2匹は唸り声をあげながら攻撃姿勢を取ったかと思ったら口から炎を吐き出してきた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ」
「熱いれすうぅぅぅ!」
キャッティさんとクゥさんが炎のブレスの直撃をまともに受けて肌が焼ける匂いがする。
それを見たカトレアさんとアーテミスさんの行動は早かった。
「【守護の神ディア】よ、仲間の傷を癒したまえ、重症治療」
「……の神よ、傷を癒す力を我が手に。重症治療」
神聖魔法を唱えたカトレアさんとアーテミスさんが、キャッティさんとクゥさんに走り寄っていく。
治療魔法は接触する必要があるため、炎に包まれた2人に触れなくてはならない。そのためフリーである私が囮になるしかなかった。
「サーラ! 回復を掛けたらすぐに一旦退却する」
「逃走準備をしてくださいぃ」
ダメ、それだと間に合わない。
気がつけば修道士の呼吸法をして杖にも気を通していた。
「先に2人を連れて逃げてください! あいつらは私が引きつけます!」
「それではサーラが!」
「迷っている時間はありません。それに私は前衛を任された戦士ですから」
「……分かった。私らが扉を出たらすぐに来てくれ」
私は頷いて答えると、キャッティさん達が逃げやすい様に位置を取って2匹の狼と対峙する。
そっと後ろを見ると回復を掛け終えて、キャッティさんとクゥさん2人を必死に引っ張って扉に向かっていた。
よかった、これで一安心ね。
狼の様な魔物は連続しては炎のブレスを吐けないようで、私に噛みつくために飛びかかってきた。だけど修道士には見切りの能力があるおかげで、軽々と2匹の攻撃を滑るように避ける。
キャッティさん達が扉まで無事に辿り着いて抜け出ると、1匹がキャッティさん達に追って走り出し、もう1匹が私の行く手を阻んでくるという見事な連携を見せてきた。
狼より遥かに知恵がある。カトレアさんとアーテミスさんが治療魔法を掛けたとはいえ、未だ起きあがらない。その2人を庇ってか、カトレアさんとアーテミスさんは武器を抜いて戦おうとしているが、狭い通路で戦うのはあまりにも不利で、また炎のブレスを吐かれでもしたら全滅しかねなかった。
2人と目が会う。
ニッコリ微笑んだ私は扉に掌を向けて、騎士魔法の念動力を使って閉じた。
閉まる直前に2人が私を呼ぶ悲痛の声が耳に残る。
この時、私はこの迷宮の重大な秘密の事をすっかり忘れていた。
突然閉じた扉に激突した狼のような魔物は、すぐに起き上がると標的を逃された怒りか扉に叩きつけられた痛みかわからないけれど、唸り声をあげて私の方に向きを変えてきた。
私の行く手を阻んでいた狼のような魔物が炎のブレスを吐きかけてきたけれど、誰にも見られてさえいなければ全力で戦うことができる。縮地法を使ってヒュンとブレスを吐いている魔物の横に移動して無防備な頭を杖で殴り飛ばす。
グシャっという気色悪い音をさせて粉砕して死んだのを確認すると、残る1匹と対峙する。
呆気なく倒された仲間を見た狼のような魔物は唸り声をあげて近寄らせまいと威嚇してくる。
そんな威嚇なんか私には効かない。
正面から杖を構えて近寄ると魔物も噛みつきに掛かってきた。首のあたりに杖を当てて噛みつきを逸らして、杖をスライドさせて持ち直し背中目掛けて叩きつける。
ワキャンっと悲鳴をあげて倒れ、必死に起き上がろうとするけど、背骨をたたき折られて立ち上がれなくなっている。
そこへ頭部に杖を叩き込んで息の根を止めた。
こいつらはキャッティさんが見たことないって言ってたよね。そうなるとレア魔物ってことかな? ついさっきまでの階層とは段違いの強さだとは思うけれどなんで? うううん、今はそんなことよりもキャッティさん達と合流しなくちゃ。
2匹の狼のような魔物を倒して、キャッティさん達のところに戻ろうとしたところで、私はある事にやっと気がついた。
あれ、扉の外にキャッティさん達の反応がない? 私を置いて逃げたなんてことをするような人達ではないから、助けを呼びに行ったのかな?
入ってきた扉を開けて覗くと、驚きの光景が目の前に広がっていた。
今まで歩いてきた迷宮の薄汚い石壁とは打って変わり、もっと古い、太古の昔にでも作られた洞窟のような薄暗い通路が見える。
さっきまでいた場所と違う……
部屋に戻り、反対の扉に手を掛けて開けて覗いてみると、やはりこちらも洞窟のような薄暗い通路が伸びていて、明らかに違う場所だと分かる。
えーと? これはもしかしてもしかしなくても、私迷子だあぁぁぁぁぁぁぁ!
私の受難はこうして続く。
10年が長いです。このままだと話が続かなそうなのに加えて、サーラが男と結婚しかねなくなってきてます。
もうちょっと進めたところで、多少あからさまになりますが軌道修正行うと思います。
その際あれっと感じるかもしれませんがご了承ください。
次回更新は明日を予定しています。
また、評価くださった方ありがとうございます。