サーラの受難の始まり
初めての人は初めまして。本編から来てくれた方はありがとうございます。
私はサーラ。ついこの1年ほど前までサハラという男だった。
王妃になった友人レイチェルを守る為に魔法の力で姿を女体化してもらい身辺護衛したのが全てのはじまりで、手違いから姿をおおよそ10年ほど戻れなくなってしまう事に。
次第に魂の女性化が進み、最近は精神面もだいぶ女になってしまい、今に至ると……
「ん〜! 」
さて、これからどうしよう?
王妃の護衛兼侍女として王宮暮らしをしていた間にほとんど女になった私は、侍女を辞め旅立つ事にする。
城の城門を抜け王都に出た私は伸びをしながらこれからの事を考える。行き当たりばったりな性格は男の頃となんら変わりがないみたい。
1年近く侍女服のスカート姿で過ごしてきたせいか、久しぶりに履くズボンは圧迫感があるけれど、旅ともなれば肌の露出は極力抑えるのがこの世界での常識で、それは男女問わず変わらない。長く伸びたこの世界では珍しい黒い髪は邪魔にならないように後ろで纏めて結んで、大切な黒いローブを着込んだ格好をしている。
人気の無い場所まで行くと、首から下げていたマルボロ王承認の身分証はさっさと外して魔法の鞄に放りこんだ。
何はともあれ、まずは冒険者証作りからよね。
あからさまにマルボロ王国関係者ですよと言わんばかりの身分証では、この先政治絡みの面倒事がついて回りそうだし、何より調べれば簡単に私の足取りがマルボロ王国にわかってしまいかねない。おそらくこれは友人でありレイチェルと結婚して国王になったマルスではなく、執政のワイプオールさん辺りが考えたんじゃないかなと思う。
女体化してしまった今はとにかく知人絡みとは無縁でいたかった。
王都の冒険者ギルドでの登録はあまりに身近すぎで、悩んだ私は友人であり宮廷魔術師のキャスに別れ際に貰った分厚い羊皮紙を鞄から取り出す。
もちろんラブレターなどではなく、そこにはキャスの知る限りの今の世界状況などが書かれてあった。
マルボロ王国では冒険者も兵となる事もあって、王国内または招集時には出来るだけ迅速に集まれる場所を活動拠点にしてもらっていることから、マルボロ王国領土内に面するヴァリューム湖やヴィローム大湿原が主な活動場所になっている。
その他にもいろいろ冒険者の多く集まる場所などが書かれてあって、私が冒険者に紛れて生きることを選択するとキャスには分かっていたようだった。
今いるマルボロ王国は大陸の南に位置していて、西の方角に元トラキアル王国と呼ばれた国が、今は各町が独立して集まったメビウス連邦共和国となって、各町の代表から更に代表が選ばれて統治されている。
他にも情報はたくさん書いてあったけれど、一度読んだだけでは覚え切れそうもないので、そこで一旦丸めて鞄にしまいこんだ。
私の居場所と身バレし難そうな場所と言ったら、メビウス連邦共和国の迷宮の町辺りかしら?
元トラキアル王国の都市名はほとんどがその土地由来のものから取られている。霊峰竜角山がある町も霊峰の町と呼ばれている。そして今回行く先に選んだ迷宮の町は、町外れにある湖の中央に古城があってそに地下に迷宮がある事で有名な町。
挑戦する冒険者の数も非常に多く、また登録しにくる者も後を絶たない程多いらしいので私はここを選ぶことにした。
別に地下迷宮に行くつもりは無いんだけれど、少しだけ興味はあるかなぁ?
早速、私の持つクラスの力の一つである修道士の能力である縮地法を使って、ヒュンヒュンとテレポートの様に移動しながら飛ぶような速さで迷宮の町にへと向かっていった。
迷宮の町より少し離れた場所まで辿りつくと徒歩で町に向かう。理由は一応、私の素性の隠蔽のつもりだったりする。
あれ? 町の入り口ってないのかな?
キョロキョロしながら建物が増えていく方へしばらく進んでみると、気がつけば既に町中に入り込んでいた。
周りには私を見てニヤニヤしながら見てくるゴロツキのような連中が多く見られ、町の治安の悪さが伺える。
こんな事なら霊峰の町に登録に行けばよかったかなぁ。
「よぉ、ねーちゃん、俺っちらと良いことして遊ばないか?」
さっそく私を取り囲み、リーダーっぽい男が声をかけてくる。出来れば事を荒立てたくないのだけれど、この状況ではそうも言ってられない。
「お断りします」
「そんな連れねぇ事言うなよ、なぁ?」
じわじわと囲いが狭まっていき、逃げ場をなくされていく。
修道士の他に私には本来騎士だけが使えるはずの騎士魔法が使えるため、騎士魔法の感知を使ってレーダーの様に周囲にいる者を確認すると、私を囲っている人数だけで5人、他に仲間がいるかはわからないけれど、とりあえずこの騒動に無関心な人達も入れると20名近くいるのがわかる。
「おら、来いって言ってんだ。大人しくついてくりゃ悪いようにはしねぇからよ」
腕を捕まれて無理矢理引っ張って連れて行こうとしてくる。
仕方がない、そう思った私は修道士特有の呼吸法を行おうとした時だった。
「困っているのか?」
冒険者風の男の人が私を見つめながら声を掛けてくる。
なんか良くありそうな展開が起こり、渡りに船とばかりに首をコクコク縦に振って返した。
「あん? なんだオメェは」
「アニキ、アイツアレですよ。地下迷宮で有名な曲刀のオルカ」
「な、マジか! チッ、お前運がよかったな」
乱暴に腕を離されて解放されるとゴロツキ達は一目散に逃げる様に去っていった。
曲刀のオルカと呼ばれた男は私が解放されたのを確認するとそのまま立ち去ろうとする。
「あ、あの……」
オルカさんが立ち止まって首だけ振り返ってくる。
「冒険者ギルドの場所を教えていただけませんか?」
「礼ならいい」
あ、こういう時は先にお礼を言うものだった。
オルカさんは向きを変えて私を一度みつめるとクククと笑い出す。
「冒険者ギルドを教えろ、か。ふっ、こいつは早とちりした」
「ごめんなさい、そうでしたね、助けて頂いてありがとうございます」
「いや、礼はいい。冒険者ギルドに連れて行って欲しいのならついて来い」
「本当ですか! ありがとうございます!」
表情を変えず振り返って歩き出したオルカさんの後を追ってついていく。ゆったりとしたガウンのような服を着ていて、180㎝ほどの長身で背格好はほっそりして見えるが筋肉質で、由来でもある曲刀を腰からぶら下げている。
横に並び顔をそっと覗き込むと、どこか飄々していて冷たい感じというよりは個性的でユニークな雰囲気を醸し出しいる。
こう言うのをクールっていうのかな?
会話を交わすことなく歩いて行くと、次第に街並みに人通りも増えていき、商人や冒険者風の人達も増えていき、辺りも活気が見られるようになる。
「ここだ」
「え?」
「冒険者ギルドに行きたかったんじゃないのか?」
気がつけば冒険者ギルドの看板の前まで来ていた。
決して見惚れていたわけじゃない、私がそんな事ありえない、うん。
「その、助けていただいた上に道案内までしていただいてありがとうございました」
「一つ聞いてもいいか?」
「はい、何でしょう」
「冒険者になるつもりなのか?」
この質問に思わず躊躇してしまう。まさかただ身分証の為に冒険者証が欲しかっただけなんてとても言えない。
「えーとですね……」
「おおおおお! おい皆! オルカが女連れてるぞぉぉ!」
「なんだと! オルカが女連れだって!」
「相手はどんな子だよ」
「黒髪のベッピンさんだぜ」
一斉に周りがざわつき出し、あっという間に冒険者風の人達に囲まれてしまう。
「えーと?」
もしかして凄い有名な人だったのかな?
困った展開になってしまい、そっとオルカさんを見るとこんな状況に置いても飄々としたまま私を見ている。
「そこで絡まれていたのを助けただけだ。冒険者ギルドに用があるらしいから道案内した」
「本当にそれだけか? お前さんも隅に置けないなぁ」
「それだけだ」
そう言うとオルカさんは背を向けてその場から離れようとする。
「あの、オルカさん、その、ありがとうございました」
立ち去ろうとするオルカさんに声をかけると、振り返りもせず手を挙げてそのまま何処かへ行ってしまった。
取り囲んでいた冒険者達はオルカさんがいなくなると今度は私を標的に変え、オルカさんとの事はもちろんその他色々聞かれる羽目になってしまうことに……
やっと解放されて冒険者ギルドに入って受け付けを探すと、受け付けをしている女性が何故か私の事を睨みつけている。だからと言って冒険者登録を諦める訳にもいかず、受付へと足を運ぶ。
「今日は一体なんの用ですか? 忙しいので手短にお願いします」
なんか、すごく怒っている。それに忙しいって私以外受け付けの周りには誰もいないのに。
「あの、冒険者登録をしたいのですが」
「必要事項をさっさと記入してください」
そう言って羊皮紙を渡してきた。
あははは……急ご。
種族、人間。名前、サーラ。年齢、27歳っと、クラスは前衛の修道士……はこの世界には存在しないから、ドルイド、これもまだ精霊と契約していないからドルイド魔法が使えない……じゃあとりあえず騎士も不味いから戦士にしておこう。後は……こ、こここ、恋人⁉︎ ない、ないないない、こんな項目、以前男だった時に登録した時は見なかったし無かったはず。
受付嬢を見るとサッと顔を背けられてしまう。
ぐぬぬ、聞く耳持たないと言わんばかりの態度、まぁいないんだから無しっと。
「終わりました。お願いします」
「はいはい」
私の書いた登録書をじっくり見つめる。
「27⁉︎ ……書き間違えではありませんね」
「はい」
「もしも登録書に記載した事に間違いがありましたら犯罪者登録をし、直ちに各ギルドに報告し処罰対象とさせて頂きます」
「えええぇぇぇえ!」
「あら、何か問題でもあるんですか? それとも既に記載に偽りがあるんでしょうか?」
あるあるある、ありますとも、戦士じゃないです。どうしよう、じゃなくて。うーん。
「大丈夫です」
「分かりました。それではこれで登録させて頂きます。しばらくお待ちください」
よかった。何とかなった、のかな?
しばらく椅子に座って待っているけど本当にしばらく待たされる。
あれ?なぜか冒険者ギルドに警備兵の様な人達が入ってきて私を囲ってきているような?
「サーラだな? 詐欺罪の容疑だ。一緒に来てもらおう」
「はい?」
気がつけば迷宮の町の領主の館に連れて行かれてしまった。
なんでえぇぇぇぇえ!
ついに我慢の限界から外伝にしてしまいました。
やはり10年間は一つの章程度でまとまるようなものではなく、また執筆が進み過ぎてしまいました。
まだまだ素人作品の為下手な文章だったりすると思いますが、お気に召していただけたら幸いです。
また本編同様、後書きなどには各登場人物達が現れるかと思います。
「サーラです。初めて読む方は初めまして。本編から来てくれた方はありがとうございます。
絶対に男性に恋をしない様に頑張ります!」