筋肉道の異世界旅。
そこは何処にでもある二階建てアパートの一室だった。
時刻はそろそろ深夜に入ろうとする時、俺は一人自室にいる。
家族は両親ともにすでに他界し兄弟は上に一人、下に一人で、現在は建築系の会社で肉体労働の仕事をしているしがないガテン系男子です。惚れるなよ?
まあ、とはいっても二十八年間、彼女いたことなんてないんですけどね。あはは。
な、なんでなんだろうね。べ、べつに特別変なところがあるわけではないはずなんだけど。
まっまさか! この肉体がダメなのか! 無理なのか!
確かに自分でも大柄だし威圧感があって汗臭いかもしれない、だけどこの立派な大胸筋なら逞しく包み込んで抱きしめてあげられるというのに!!
・・・・うん、まず俺が女だったらちょっと無理かもしれない。
あああ、そうなのかこの肉体がダメだったのか、だが今の仕事は肉体労働が基本でどうしても筋肉は戻すことはできないし、だからといって慕う後輩がいる以上いきなり辞めることもできないからなあ。
ヤバイいきなり詰んでしまったぜぇ。
っと今は非情な現実は置いといて。
「よし、これで出来上がりっと」
操作していたタブレット端末を一度机に置くと伸びをして凝り固まった肉体をほぐす。
くうう、コレがいいのかい三角筋ちゃん、上腕二頭筋ちゃん、そうかい上腕三頭筋ちゃんも気持いいんだね。よかったよかった。
固まった筋肉ちゃんたちを愛でるのを終えるとタブレットに向き直り、画面を確認する。
さてタブレットを使って何をしていたかというと実はあるオンラインゲームのキャラを作成していたのさ。
まあ、今では肉体的にゲームをしているイメージはないかもしれないがこれでも学生時代は根っからのゲーム狂・オブ・オタクだったからね。
とはいえ、ここ数年はゲーム機にさえ触ってなかったんだけど。
ではなぜ今更ゲームを始めたかといえば。
今日の仕事先で知り合った業者の人とたまたま趣味の話になったのだ。
その時に相手方がどうもゲームが趣味だったようで、過去のオタク時代のこともありゲームの話で盛り上がってしまったのだ。
すると「実は今のゲームはこうなんですよ~」と相手が今手元にあるゲームを進められてしまったわけなのだ。
まさか手軽にネットからダウンロードできるとは思ってもみなかったぜ。
ちなみにその時、俺の趣味は筋トレですって答えると相手はすごく納得しながら苦笑いしてたけど、いったいあれはなんだったんだろうか?
ともかく仕事から帰宅して数時間のことやっとキャラを作り終えたというわけだ。
俺が作ったキャラは一言で言うなら細マッチョで凛々しい青年だ。
べっ別にモテないからってゴリマッチョではなく細マッチョにしたわけじゃないんだからな!!
ただもうちょっっとだけスマートな筋肉の方がいいかなぁと思っただけだし!!
ハッ!! ご、ごめんよ筋肉ちゃんたち、だが大丈夫だ俺はどんな筋肉ちゃんたちでも愛しているのだから!!
ハアハア
ち、ちなみに種族は妖精族というゲームでありがちの魔法や魔術に長けた種族なので背中に小さいながらも羽が生えてます。
さて確認もすんだしいいい加減ゲームを開始しようか。
そうしてワクワクした気持ちを押さえながらタブレット画面の完了ボタンを押した。
「ぐああああああ!!」
瞬間、俺が今まで感じたことのない激痛が全身に走った。
イタイイタイイタイイタイ?!
があああ!!クソ、まるで致死量の電気を流されたみたいだ。
はあ、はあ
ヤバイなあまりの痛みでだんだん痙攣して筋肉ちゃんたちがビクン、ビクンって悲痛な叫びをあげてやがる。
ちくしょう俺はこのまま死んじまうのか?
いや、まだ死ぬわけにはいかねえ。
その後に残された兄弟たちの気持ちはどうなる。
まだ両親が亡くなった傷が癒えてない心にまた傷を付けわけにはいかない!!
その時だった。それを見たのは・・・
偶然だった。たまたま床に転がったタブレットが視界に入ったのだ。
そこでそいつは現れた。
まず気がづいたのはタブレットの画面が真っ黒くなっていることだった。
どうせ痛みで放り投げた時にどこかにぶつかり壊れたのだろうと思っていた。
だが少しすると画面が徐々に盛り上がってきていることに気付いた。
最初は見間違いかと思ったが見続けるうちに見間違いではないとわかった。
盛り上がりはすぐに俺の身長ほどに達すると次は上部から縦にパックリ割れ始める。
すぐにそれが何かがわかった。
口だった。
割れた切れ目から覗く綺麗に並んだ白い歯がそれを物語っている。
そしてコレから起こることも同時にわかった。わかってしまった。
口が開ききった黒い塊は次にゆっくりゆっくりとこちらに這い寄り始めた。
どうにか俺はそいつから少しでも逃げるために身体を動かす。
だがなお無情にも痙攣している身体は一歩も動くことは叶わなない。
そうしている間も近付くソイツはとうとう俺のとなりまで来てしまった。
そして開いている口を更に大きく開いたソイツはそのままの俺を口の中に収めると。
ゆっくり・・・閉じた。
◆
どうやら俺、宇喜多 拓也は死んでしまったようだ。
そうなのだと思う俺はあの時に確実に死んだ。
あの全身を駆け巡った激痛は忘れないし筋肉ちゃんたちの悲鳴も忘れられそうにない。
それでも一番忘れられないのはあの黒い塊のことだ。
あれは一体なんだったのか今でもまったくわからない。
ただ引っかかるのはなんでタブレットから出てきたのかだがそれも今となっては考えるだけしょうがないことだ。
いろんなことも含めて。
それよりも今おかれてい事態の方が重要だ。
どうやら俺は再び生まれてしまったようだ。
転生。
少し前までは後輩から度々聞かされていたが全く信じていなかったその現象。
だがどうやら現実に存在するモノだったらしい。証人は俺です。
ただどうも後輩から聞いていたモノとちょっと状況が違う。
まず、赤ちゃんもしくは自我が芽生えるくらいの子供で転生するモノらしいのだが・・・
今、俺の目の前には自分の腰ほどの石板が埋まっている。
しかも同じような石が等間隔にいくつも埋められており人為的なモノを感じる。
さらに現在は死ぬ前と同じく夜なこともあり薄暗くとても不気味なことこの上ない。
うん、認めたくないがどうやら墓地のど真ん中で転生を果たしたようだ。
あと幸いなことなのかどうかしらないが赤ちゃんや子供ではなく。
「なんで少女やねん?!」
どうも中学生くらいの少女に転生してしまったらしい。