【鬱】1
二人は結ばれるのか?話 主人公『レイ』フリーター。知能低。『葛城』精神病患者。実家は名家。知能高。
フリーターの朝は意外に早い。
今日は7時には起きていた。
昼飯をカップ麺で済まし家を出た。外は快晴だが、風が強く肌がヒリヒリする。自宅から徒歩20分の個人経営の喫茶店にアイツが待っている。向かい風のせいで集合時間に間に合いそうにない。
その喫茶店は俺が生まれる前からある。内装は何処にでもありそうでない、まぁなんというか時代遅れな感じだ。客席は少ないが満席になることはない。特徴といえば【喫茶ボサノバ】と言う名前とラブホテルのすぐ横と言うことぐらいだ。
俺は店内に入ると窓際の一番奥の席に居るアイツが手を振っていた。俺は小走りで席に向かった。
「ごめん、風が強くて」
「いいよいいよ、早く座って」
早く話がしたくて堪らないらしい。俺はココアを注文した。喫茶店のココアはホイップクリームがつくのが嬉しい。
「で、今日は何?」
「また話聞いてもらいたくて…」
必ず週に一回はコイツの話を聞く。何故か今週は珍しく2回目だ。話とは、どうせ愚痴だろう。正直、話を聞くのは面倒臭い。だが断ることはできない。なぜなら彼女は精神病を患っているからだ。
断れば彼女が何をしだすか分からない。特に俺が原因で自殺なんかされたら堪らない。
「最近、睡眠薬が効かなくなってきててね市販のなんかじゃ全く眠れないの」
うんうんと相槌を打って軽く流す。この話は前回聞いた。彼女は、よく同じことを話す。
「でね、他の薬と合わせると毎晩7錠も飲まないといけないの」
彼女は面白い話をするかのような顔で話すが、全く聞きごたえがない。さっきの表情から一変、いきなり不幸を滲み出すような顔をして彼女は言った。
「私ね、最近寝る前に神様にお願いするの」
ココアを一口啜りながら聞いた。
「ふーん、何を?」
今までの傾向から言うと、天国へうんちゃらかんちゃら…とか、私のような人を救って…とかだろう。
「なんだとおもう?」
質問を質問で返すのは反則だろう。さぁ分からないと答えると、少しは考えてよと膨れっ面をして、戻ってくるまでに考えてと言い残してトイレに行ってしまった。
彼女が抱える病はいくつかある。うつ病、自律神経失調症など、俺に覚えておく義務はないので後は知らない。彼女は悲劇のヒロインを気取っているのだ。他に自分の話を聞いてくれる人がいないから俺を相手にヒロインを演じる。
まぁ彼女がそれで気が済むなら俺は我慢する。
彼女には大学受験の時に世話になった。高校三年の冬、俺は頭がいい方ではなかったがキャンパスライフを憧れて大学進学を決めた。くだらない理由で決めた進学だから、あまり勉強ははかどらなかった。そこで彼女が登場だ。彼女は秀才だった。志望は俺の大学の遥か上のランクの某有名私立大学。彼女は受験勉強の傍ら俺の教師役もしてくれた。そんなこんなで俺も彼女も志望校に合格した。
しかし、俺は勉強について行けず先月に大学を辞めた。彼女の方も病気の悪化で大学には行けていないらしい。彼女が発病した原因は家庭にあるらしいが大学でも何かあったと聞く。まぁ他人の俺には関係のない話だ。
彼女が戻って来た。何故かニコニコだ。
「どう考えた?」
全く考えてなかった、とは言えない。
「うーん、やっぱり思い付かないよ」
「ばか!じゃあ帰り際で教えてあげるよ、ねぇねぇ聞いて病院でね…」
別に知りたくねぇけどね。彼女はとどまることなく俺に話し続ける。俺は適当に相槌。あぁーココア冷たくなってるよ。あのラブホテルでかいなぁ、この席からじゃ最上階までギリ見えないじゃん。てか何を血迷ったか最近、ヒョウ柄のパンツ買ったけど恥ずかしくて履けねぇよなぁ…なんて考えて彼女の話は右から左。途中に、なぜ私だけが…私の気持ちを分かる人はいない…とか言ってるのが聞こえた。
「帰ろうっか」
彼女は話を終えたらしい。
外は暗くなっていた。会計は俺が全て払った、ただのカッコつけだ。彼女は笑顔で、ありがとうと言った。彼女の笑顔だけなら俺の好みだ。
つづく