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【愛】2

アイドルへの勇敢なる告白大作戦を決めた僕。作戦は以下の通りだ。彼女の母親が経営するスナックへラブレターを持って行き母親をへて彼女にラブレターを渡してもらう、以上だ。一見、穴だらけそうな作戦だが練りに練った作戦なのだ。彼女に直接会いに行くのは無理な話だ、ファンレターとして送ったとしたら他の数あるファンレターに埋もれ読まれることもないかもしれない。彼女に確実にアプローチする方法はこれしかないのだ。


僕は準備を整えると、スザンナママのスナックへ向かった。そのスナックは自宅から車で一時間の距離にあった。誰かが撮影した画像で見たことはあったが実際行くのは初めてだった。外見はどこにでもある田舎のスナックだ。「愛に来て」と言う名前らしい。スナックのネーミングセンスとして普通なのかよく分からない。僕はスナックに入るのは初めてで今から告白?をする緊張もあり、びびっていた。


勇気を振り絞りドアを開けた。カランカランと鈴が鳴った。煙草の香りと独特の中年層の香りがした。客は女性一人と男性二人の団体一組のみでカラオケを楽しんでいる。内装は多分スタンダードなスナックなのだと思う。

「いらっしゃい」

煙草を吸うスザンナママだろう人は無愛想な挨拶をした。綺麗かと言われたらまぁ綺麗な人だった。まぁスナックのママと言ったら皆こんな感じだろう。知らないけど…僕が少しきょどって突っ立っているとママが優しい声で言った。

「見ない顔だね。初めてなんでしょ?まぁ座って」

僕はカウンターのママの正面の席に座った。ママは何も言わず水を一杯出してくれた。僕はその水を一気に飲み干すと深呼吸をした。よし、言うぞ!

「あのー僕は客ではなくてですね。あのーなんというか」

ママは黙って聞いてくれているので続けることにした。僕はカウンターにブランドショップの箱を置いた。中身はスザンナがブログで欲しがっていたブランドのバッグだ。30万もしたが何とかかき集め購入した。その箱の上に白い封筒を乗せた。中身は僕が人生を賭けて紡ぎ出した輝かしい愛の言霊と電話番号。そして証明写真の機械で撮った顔写真。少しでもかっこよく見える様に白黒にしておいた、裏目にでたが。

「あのーこれをスザンナさんにお渡ししてもらえないでしょうか?いきなり変な事を言ってすいません。しかし僕は本気なんです。お願いします。」

僕は一息で全てを言い終えた。ふっと安堵の息を吐いた。

「貴方が入ってきた時から薄々分かってたわよ。よくあの娘のファンの方が来るからね」

だから何も言わずにいてくれたのか。

「この箱ってあの娘が欲しがってたブランド物でしょ?たぶん貴方の他にも、これ送ってくるファンはきっと要ると思うわよ。嫌なこと言ってごめんね」

やらかした…そりゃあそうだ、僕と同じ様にバッグをプレゼントする奴が一人や二人居てるおかしくないぞ。

「ま、まぁ…いいですよ。こんなん気持ちですから」

そう言って僕は誰かとかぶっている可能性大のバッグの箱を軽くポンと叩いた。

「で、渡してもらえるんでしょうか?」

そう、ここが大切だ。かぶっていようが何だろうが渡して貰えなければ意味がない。

「最近は忙しいから、次いつ帰ってくるか分からないわよ。それでもいいなら渡しておくけど」

それは最初から了承済みだ。他の客は、こちらに興味を示すことなくカラオケに勤しんでいる。下手くそな歌だ。演歌ってこうゆうものか?まぁいいや。

「えぇそれで結構です。よろしくお願いします」

僕はそう言ってバッグと封筒を渡すと一礼して店を出た。

返事は二ヶ月先、半年先、いやそれ以上か。とにかく気長に待つしかない。僕の告白は終わった。ちなみに人生で初めての告白だった。

翌日から僕は就職先を捜した。しかし、なかなか希望の会社に入れない。僕としては割りと名前が知られ楽で高給な企業がよかったのだが高卒の僕には到底無理だった。

僕は就職でウジウジやっていたある日、母の勤め先の介護施設から電話があった。母が倒れたのだ。母は毎日の仕事漬け、そして仕事の合間には家事と疲れ切っていた。母は過労で倒れたのだ。僕には母の苦労が分かっていなかった、そばで母の頑張りを見ながら何とも思っていなかったのだ。


僕は母が運ばれた病院に走った。母はどんなに僕が我が儘を言おうが怒ることもなかった。僕がニートをしているのを心配しながら注意することは極力しないでいてくれた。僕はまだ養われる側の感覚だったのかもしれない。父が死んだ時に気付くべきだった、これからは僕が支え、孝行していかなければならないことを。


つづく


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