【禿】
ハゲコメディー。 主人公『花岡信哉』がっつりハゲ。
ここ五年間に猛烈なスピードで進行、俺を蝕んだ。もう末期だ。
しかし、なんと明日。明日なのだ。同窓会が。同窓会とは、今までの自分の発表会なのである。
ある者は、俺かっこよくなったでしょと発表。ある者は、昇進してさぁ羽振りいいわけよと発表。
そして、発表に合わせ女性陣がついてくるわけだ。憧れマドンナさえ十数年後の発表次第で自分の物になるのだ。
そして、俺の発表内容だが俺はモトクロスの大会で7位とハゲました。モトクロス7位でも決めてに欠ける上に、それを掻き消すハゲ。周りから見たら、俺の発表はハゲましたよ、のみしか伝わらないだろう。これでは女性は望めない。俺ももう36歳。出会いなんてあるわけない。職場の女性は50オーバー、ツヤのない真っ赤な口紅の方達ばかりだ。
そろそろ結婚したい…
ハゲをなんとかしなくては。
よし、ヅラでいこうではないか。去年購入したヅラ。七万円。
被り鏡の前へ移動した。ポーズを決める。カンパーイのポーズ。壁にもたれ澄ました顔。
駄目だ。さすがに七三のカツラじゃ何をしても様にならない。しかもカツラが少し浮いている。全力でカツラ選び間違えた!くそー!去年の俺死ね!去年、これでハゲ気にしなくて済むって安心した俺死ね!
どうすっかなぁ…いっそのこと剃るか?でもなぁもし剃って一生はえてこなかったらなぁ。それに今の髪の量ならまだ一見したらハゲには見えないし、まぁ結局ハゲてるってバレるんだけど。
若い頃はみんな「ハゲたらソッコー剃る!」とか言ってたけど実際そんな簡単に割り切れねぇーんだよな。未来なんて先のことな学生時代のフサフサの俺死ね!
もーどうするのよ僕。帽子被っちゃう?でも年齢が年齢だし同窓会はスーツしょ?スーツに帽子ってどうよ?キャップは絶対ねぇーよな。ハットは…微妙だなぁ、まぁ無しだな。ハンチング、ニット帽、ベレー帽、麦藁帽。全部なしだよなぁ…若い頃はワイシャツに下ジャージ(もちろんシャツをジャージイン)でも羞恥心なんてなかったのに。あの頃の俺のファッションセンスはねぇーなぁ。毛がフサフサなうちに、もう少しオシャレしてれば彼女くらい出来てたのに!当時の俺死ね!ファッションよりRPGの防具な俺死ね!
あぁーいいアンサー浮かばねぇなぁ。流行りのあれするか!毛付きフィルムを頭に貼付けるやつ。あれなら一発だろう!早速、ネットで検索。意外に高いなぁー。っておい!最寄りの店舗が遠い!俺は車ねぇーんだよ、帰り終電に間に合わねぇよ。いつでも免許なんて取れるわい!なんて思って進路決定後に楽した俺は死ね!
明鏡止水。考えるな!感じろ!
一休さん、俺に知恵をお授けくださーい。
よし、剃る。決めた!剃ります。僕スキンヘッドになる。
うーん、やっぱ嫌!スキンヘッドって響き最悪!なんかキモい!
おっと、気付けば時刻は夜中ではないか。しょうがない。
最終手段、奥義、必殺、一撃。後半違うな。まぁいいや。
俺、同窓会いかん!!これでいいや。寝よ。
うるせぇなぁ。なんだ、携帯鳴ってる。誰だよ、山口か。
「はい、もしもし。何だよ?」
「お前なんでこなかったの?」
「具合悪かったんだよ!」
「そうか、しょうがねぇなぁ」
「で、同窓会どうだった?」
山口から色々な話を聞いた。担任だった鬼ボクロの寺田が亡くなったとかマドンナの陽子ちゃんは二児の母だとかモヤシっ子だった米田が建築会社の社長だとか…
割りとハゲてる奴も多かったらしい。
俺は馬鹿だ。カッコばっか気にしてた。ハゲたって、みんな旧友、竹馬の友なのだ。恥ずかしがることなんてなかった。
「そう言えばタイムカプセル開けたぞ!」
「あぁーたしか未来の自分に宛てた手紙だったな」
「そうそう、お前の手紙は俺が預かってるから今読んでやるよ」
「おおっ、読んでくれ。なんか恥ずかしいなぁ、ははっ」
「よーし、読むぞ」
未来の僕へ。未来の僕はハゲているはずです。遺伝だからです。ハゲても気にしないで下さい。遺伝だから。でも、子供は作らないで下さい。遺伝で子供がハゲるからです。かわいそうです。
もし、子供が出来てしまったら教えてあげて下さい。君はハゲるよ遺伝だからね、と。
遺伝、遺伝、遺伝…
遺伝死ね!