至るところで、恋~偽善者たちのパレード~
賑やかに、きらびやかに
夜の闇を叩いて割るよに
パレードが進む
ニタニタいびつな笑顔をふりまき
手を振り、握り、風船手渡し
この世の楽しさ、生きてる喜び
全てを集め、放出しながら
赤子の小さな頭を撫でて
『怖くない、怖くないよ』
赤子の母親優しく見つめて
『可愛い可愛い赤ちゃんですね』
ドンチャラドンチャラ
パレードが進む
誰も見てない夜の刹那に
ピエロが真顔で
奥歯を噛んだ。
「シェリー!そこの状況を伝えてくれ!」
私は携帯を耳に叫んだ。
「わからない、わからないのよ!だって目隠しされてんだもの。さっき言ったでしょ!おたんこなす!」
そうだった。さっき「目隠しされてる」って言ってた。すっかり忘れてたよ。
「ハッハッハ、どうする?バックマン」
白塗りの顔、口が曲がっている。両目には星がペイントされているこの男、名前は『ジョークー』極悪非道の悪人だ。
私の名前は『バックマン』この腐りきった街『ゴッソリシティ』の守護者。
全身黒のタイツに身を包み、ゴム製の黒のマスクの額に『B』の文字が刻まれている。
街のみんなは私の事をこう呼ぶ。
『ヘンタ・イー』
カッコいー、みたいなもんだろう。
「おい!バックマン。俺を助けてくれ。俺を助けてくれたら、金をたんまりやるぞ」もう一方の携帯電話から、汚ならしい声が聞こえてきた。
「うるせぇ!このファック野郎!」私はその携帯を耳にあて、吐き捨てたあと、画面に唾を吐いた。
「おいバックマン。それ俺の携帯だぞ」とジョークー。
「あぁ、すいませんでした」
私はいま、愛する人を助けるか、この街の一番偉い人を助けるか、どちらかを迫られている。
選んだ方の人間しか助けられない。そういう状況。
「さぁどうする?どちらを助ける?バックマン。どちらか一人の居場所しか教えないぞ。ヒッヒッヒ」
「シェリーでお願いします」私は言った。
「ヒッヒッヒ、さぁ!どちらを選ぶんだ?バックマン」
「いや、だからシェリーで・・」
「ヒッヒッヒ、決められないか?バックマン」
先程からこんな調子だ。私はずっと「シェリー」って言ってんだけど、ジョークーは聞こえないふりをしてんのか?それとも、腐れ馬鹿野郎なのか?
「さぁ、選ばれなかったほうは確実に死ぬ。二人とも爆弾を仕掛けた場所にいるんだ」
私はジョークーに飛び掛かった。もちろん、バックしながら。
言うのを忘れたが、バックマンは『バック』しか出来ない。だから飛び掛かったが、かわされた。
狭く暗い路地の中、私は尻餅をついた。
「なぁバックマン」ジョークーがいびつな表情でわたしを見る。
油でべたべたのジョークーの長髪から、臭い匂いが漂ってきそうで、髪を洗ってあげたくなっている自分がいる。
「なんだ、ジョークー!」
「バックマンお前、なんでバックしか出来ないんだ?」
「生まれつきだ!」私は叫んだ。
もちろん、嘘でした。
本当は、『バックマン』だから『バック』しかできないのが当たり前かと思って。
ただそれだけでした。
「生まれつきか。そいつはすみませんでした。なぁバックマン。ひとつナゾナゾをしようじゃないか。もしもナゾナゾがとけたら、二人とも解放してやるよ」
「ジョークー!」私は叫び、拳を地面に叩きつけた。
こんな悪党に翻弄されるなんて、ちきしょう!
「お願いします!」私は叫んだ。
「なんでそれを早くやってくれないんですか!ちきしょう!」
「はい、じゃあナゾナゾします」ジョークーはブルーのスーツの襟をただした。
「とりはとりでも、とべないとりはなに?」
ちきしょう!私は再び拳を地面に叩きつけた。
「簡単じゃないか!答えはチリトリだ!」
「ヒッヒッヒ!」闇を切り裂くような笑い声とともに、私に背を向け走り去るジョークー。
私は立ち上がり、後ろ向きで彼を追いかけていく。
「貴様!約束を破る気だな!待ちやがれ!」
走るジョークー。夜の賑やかな通りにでる。
行き交う車のボンネットを踏みつけ、跳び、踏みつけ、跳び。
私もバックでジャンプし、ジョークーの踏みつけたボンネットを踏みつけ、跳び、踏みつけ、跳び。
途中足を踏み外し、道路に転がり落ち、車にひかれました。
本当に痛かったです。
それでも立ち上がり、もう反則だけれど、バックはやめて前向きで走っていきました。
最初からそうしてればよかったです。
やがてジョークーは廃墟になった映画館に入っていった。
私もすぐあとを追う。
映画館の中に入っていくと、誰も座らなくなって久しいたくさんの椅子が、数多の儚く美しい人生を映し出し、今は眠りについたスクリーンを見つめていた。
それらの真ん中に立ち、背を向けているジョークー。
「おい!」私はその背中に叫ぶ。
「答えただろ!当たりだな!約束どおり二人とも助けろ!」
ヒッヒッヒ。下品な笑い声。
「残念だったな!バックマン!答えは『相撲とり』だよ!バカなやろうだ!ヒッヒッヒ!」
そう言って振りかえり、一言。
「チリトリは、飛べるだろ」
私は混乱した。そのあまりの真顔、説得力の強さに。「あ、そうか・・チリトリは、飛べるか・・」
と呟いてしまっていた。
「ヒッヒッヒ!お前の負けだ!だから俺はどっちもを助ける事はしない」
「なに!?貴様!どこまでも非道なやつだ!」
「いいやバックマン。一人だけ、どちらか一人だけを助けられるという約束は継続中だ。さぁ、どちらだ!?どちらを助ける?」
「シェリーだ!!」
「そうかこのまちでいちばん偉い人を助けるか!だと思ったよ。だからここに連れてきたんだ。あいつはこの劇場にいる!さぁ早く助けろ!」
「ふざけるな!」私は叫んだ。
「そんなやつはどうなったっていい!てめぇ耳くそつまってんのか?シェリーって言ってるだろうが!」
ジョークーは全く私の言葉が聞こえていないかのように完全に無視の様子。そして携帯を上着のポケットから取りだし、耳に当てた。
「もしもし、シェリーさん?残念でした。バックマンは君じゃなくて、このまちでいちばん偉い人を助ける事を選んだよ」ジョークーが携帯をスピーカーに切り替えた。
携帯からシェリーの声。
「バックマン、あんた頭イカれてんの?本当にファ○クな野郎ね!腐れ爺を助けて何が楽しいわけ?あんた本当はホモなの?まじあり得ないわ。あなたの事を好きだと言ってた私の口を、自分自身でもいでやりたいくらい。あぁあんたを恨んで私は死んでいくわ。このウンコマン。ポコチ○野郎!」
「ジョークー!」私は叫んだ。そして目からは暖かい涙が溢れている。
「はやくその女を殺してくれ」
「ヒッヒッヒ!お望みどおりに」そう言って、ズボンの尻のポケットからなにやら小さなリモコンを取りだした。
「ジョークー」私は泣きながら続けた。
「できればこのまちで一番偉い人も殺してくれ」
「オーマイガー!」という声が劇場に響き渡った。
聞こえていたみたいだ。なんか知らないけど、声の聞こえる場所にいるんだね。
「待て!」その時、劇場に響き渡る程の大きな声が聞こえた。
その声の方向を振り返る。二階席に一人の若者。
私は思わず叫んだ。
「ロビーン・ソン」頭髪はポマードで撫で付け、3D眼鏡のレンズの部分をくり貫いたものを掛け、緑のブリーフを履いただけのみすぼらしい裸体を露にした若者の姿。
彼はまさしく私の相棒のロビーン。
彼の事を街の人間はこう呼ぶ。
『ゲスヤ・ロー』
多分、『ゲスト野郎』つまり、大事なお客様みたいな意味だ。
「行くぞジョークー!」ロビーンはそう叫ぶと、天井からぶら下がったロープを掴みサーカスのように正面に突っ込んでいった。
そして古びたスクリーンを突き破り、消えていった。
本当、何しに来たんだろう。
ジョークーの表情まで凍りついてしまっていて、なんか恐怖が倍増したよ。
「お、、押すなジョークー」私は息苦しくなりながらもそう言った。
「そ、そうだなハハハ、ダメだバックマン!もう、押してしまったよ」
「なんだって!?」私は驚いて目を丸くした。
「いや」とジョークー「ロビーンがあんまりに驚かすからつい、、参ったなぁ」
「そ、そうか」私は戸惑いながら続けた。「本当に申し訳ない」
謝るとジョークーは頭をボリボリ、そしてロビーンの消えていった方を見た。
「あんな若者が増えてきたなぁ」
「そうだなぁ」私は郷愁の目で宙を見つめる。
ズドーンという爆発音。塵が雪のように舞う。
「今を生きる。大事な言葉を履き違えている」
続く爆発音。落下物が私とジョークーの間を何度も遮っていく。
ジョークーが『ハハハ』と笑い、天を仰いだ。
私は叫ぶ。
「今を生きるってのは」
最早逃げるのは不可能だ。私は愛した人との夢見た未来を浮かべ、痛みの伴う笑顔で言った。
「儚い愛の事じゃない」
賑やかに、きらびやかに
夜の闇を叩いて割るよに
パレードが進む
いつまでも忘れない夜などないよ
今日より素敵な夜が来るさ
でもその夜に
その夜に
再び私が側にいるよう
願いを込めて
笑うんだ