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9・three

馬車に乗る途中、不思議な人に会った。


『行き先は近くだから一緒に乗っていいかい?』

三角帽子とマント、彼はそんな格好で暑くないのか気になりつつ

私がこころよく了承する。

彼はありがとうといいながら馬車に乗った。

屋敷に着くまで色々聞かれたけれど、彼との話はそれなりに楽しくてあっというまに目的の場所に着いていた。


城から屋敷へ戻った頃には、辺りがすっかり暗くなっていた。

もう父も仕事から帰っているはず、きっと心配している筈だわ。


「…ただいまパパ」

おそるおそる戸を開くと、電気もついていないエントランスに人影が見える。

そう、父が仁王立ちで出迎えていたのだ。


「おかえり」

父は目を細め、笑顔で出迎えて――――――

くれる筈もなく、かわりに無言の圧力をかけてもらった。



話し合う前にイスに座ってテーブルで父と向かい合う。

「それで?」

今日はどこに行っていたか、ワインを片手に優雅な仕草でこちらを見る。

「お城よ」

まず行き先がどこなのかをいう。

「城?どうして城に行ったのかな?」

全てわかっていてあえて聞いているんだろう。

「皇子様のハートをゲットするためだわ!」と包み隠さず話す。


「巷で騒がれていたあれに参加したっていうのかい…?」

普段冷静で完璧な父がめずらしく驚いている。

目的は違うといっても私だってそろそろ結婚してもおかしくない年なのに、そんなにびっくりしなくてもいいじゃないかと思う。


だがしかし、まだまだ色気より食い気、といったほうが早くて

結婚どころか恋人も連れてきたことはないのだけれど。


「私だってそろそろ結婚出きる年よ!!」

頬を膨らませ、むくれる私。

父はその頬を両手で包んで空気を抜く。

「パパはまだおまえを嫁にやるつもりはないんだよシャーレア」

笑っているのに父は悲しそうだ。


「今日お城に行ったのは私がお嫁に行ってパパが寂しくないようにだったの」

皇子を落として、エレメンタルクリスタルを貰って母を生き返らせる願いが叶えば――――――


「どういうことだい?」

訝しげに尋ねられるけれど、もう眠くなったといって自室に逃げた。



次の日、父は早朝から仕事で家を出ていったので約束の通りイレーサーの屋敷に行く。

彼には最近会ったばかりなのにもう何日も会っていない感覚がする。


―――それよりお城にいったことがイレーサーにバレたら嫌味をいわれるかもしれないわ。

うまく誤魔化せる台詞を考えなくちゃ。

あっという間にイレーサーの屋敷に着いていた。


近くだからあたりまえよね。

彼の屋敷、こんなに近くにあったかしら。

少し違和感がしたけれど特に気にすることじゃない、いつものように客室まで通される。


扉を開けたらきっと冷ややかな目で出迎えるイレーサーがいると思ったら

「やあシャーレア今日も可愛いね」

彼が絶対言わない、というか彼の頭の中にかわいいという単語があったことにおどろく。


「イレーサー…」

いやいや問題はそこじゃなくて、かわいいなんて彼と出会ってから初めて言われた。


きっと彼は――――




「なにか危ないお薬でも作って飲んだのね?」

イレーサーの仕事は薬剤師と聞いたことがある。

新しい薬を調合して自分で飲んだに違いないわ。


「飲んでないけど…」

イレーサーはお茶を煎れてくると、挙動不審で客間を出た。

==――――――

「ただいま」

落胆している兄が隣の部屋から僕が控えている地下室へ来た。

兄は昨日、家に訪ねてから、ずっとここに居座っている。

本来ならすぐ帰って貰いたかったのに、今日シャーレアが来ることをと知ったからだ。


大方僕の姿に変身してシャーレアに何かよからぬことを言ったのだろう。

「想い人は鈍感だな」

想い人は否定したいがここは兄が勘違いしている通り、シャーレアは僕の想い人、として切り抜けよう。

「いや弟よ、お前の想い人は鈍感というより…」

シャーレアは“恋心の概念そのものが欠落している”と兄は言う。

たしかに彼女は恋愛に関する気持ちがない。

目的のために皇子の気持ちを弄ぶようなことを平気でしようとしていた。


しかしそれには理由があり、それが兄に知られるとまずいことになる。

「彼女はまだ子供だからね…それに、ちょっと頭が抜けていて猛進突破なところがいいんじゃないか」

ここはなんとか誤魔化さなくてはならないと思い口から出任せを言ってしまった。


嘘とは言えど、なんだか気恥ずかしい。

「そうは言ってもなあ少しくらい頬を赤らめるとか『んもう!イレーサーったら何かわるいものでも食べたのね!?』とかだな…似たようなことは言っていたが」

この兄、なにをふざけたことをぬかしているんだ。


「兄に出きることはもう何もないお手上げだ後は自分でなんとかしろ」

捲し立てるように述べて窓から去っていく兄に、もう二度と来るなという思いを抱きながら

シャーレアのいる部屋に行く。


「早いのねイレーサー!」

扉を開けるとソファに座って待つシャーレアが、こちらを振り返る。

「待たせてごめん」

向かい側のソファに座ると彼女がこちらを凝視している。

どうしたのだろう、僕はなにかおかしいのだろうか―――

「お茶は?」

シャーレアに問われ、兄は立ち去るときに“お茶を煎れてくる”と言ったのだと瞬時に理解出来た。

シャーレアがお茶を好まないと知っている僕が、彼女に飲み物を出すときはお茶ではなく別の何かだ。


「丁度茶葉が切れていたんだよ」

他に理由を作ろうとすれば二、三通りはあったし

苦しい言い訳だが、これが一番わかりやすいだろう。


「じゃあ一緒に買いにいきましょ?たまには外に出たほうがいいわ!」

僕が家から一歩も出ないのは、外に出るのは面倒だからという理由の他にある

屋敷に見えるよう、ボロ家にかけた魔法が解け、ダミーの使用人も消えるからだ―――


「何度も言っているだろ主は屋敷から出られないって」

出たら死ぬわけではないが、屋敷を出ている間、ボロ家になっていたら帰宅したときに彼女が騒ぎだしてしまう


「なら私が帰りに行ってもいいわ!昼間は暑いけど夕方くらいになら…」

彼女が一人で出歩くのも困る。

「行かなくても注文してあるからいいよ」

大体使用人がいることになっているのだから態々行かなくてもいいのに、まあ、茶葉は沢山あるからいいが、茶葉というより薬草は沢山ストックしてある。

いざとなればそれを煎じてもいいだろう。


「それより、何が飲みたいか聞いてなかった」

いつも通りアルコールを抜いたブドウの果汁だろうか、それとも――――

「じゃあ蜂蜜をお湯で溶かしたものがいいわ!」

蜂蜜を湯で解く、なんだそれは今まで出したことがない飲み物だ。


「どこで覚えたの、それ」

少なくとも彼女の父が作ったわけではなさそうである。

城でもそんなショボいのが出されるとは考え難い。「お城に行ったらクリアが…」

彼女はハッとして口を抑えた。


まさかこんな簡単に自分からバラすとは、シャーレアがしどろもどろ否定しようとしているがもう遅い。

「僕が教えたのは病院なのにお城なんだ方向音痴にしては面白い間違いだね」

城に行ったからどうというわけではないが、楽しそうに話すのは頂けない。

「ごめんねイレーサー」

シャーレアがしゅんと、している。

「なんで謝るの」

彼女が謝罪をする必要はない、ただ僕が腹を立てただけなのだ。

==――――

イレーサーに謝るくらいなら初めからいかなければよかったこと

だからこうなるのもしかたない。

「で、どうだった?」

彼は薄ら笑いで、皇子は落とせなかった

という悲報待っているのだろう。

でも彼にとっては残念なお知らせになるわ。


「残念ねイレーサー、私皇子とお茶もしたのよ!」

クリアもいたから二人きりではないけれど嘘は言っていない。

イレーサーは無言でテーブルの本を落下させた。

顔に出さず態度で機嫌が悪いことを表現している。

===――――

「お茶くらいでいい気にならないでよシャーレア」

何のために屋敷にいなくても効果が持続するアイテムを使ったと思っているんだろう。

いや、彼女は僕も城にいたことを知らないが、あのまま彼女が皇子に嫌われてくれればよかったのに、シャーレアの友人を騙る邪魔な女がいた。


一体あの白いローブの奴は何者なんだ。

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