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8・インクとペン

普通の人は寝静まるだろう夜遅く、屋敷の近くから馬車の音が聞こえてくる。

隣の隣の屋敷、どうやらシャーレアが城から戻ったようだ。


屋敷の近くに御者が現れたので、郵便受けに手紙か何かを入れたんだろう

取りにいってみると、案の定彼女が明日会いにくるという手紙があった。


おそらく今日シャーレアが城に行ったことを僕は知っている。

だが彼女はそれを知らないはず

“ちゃんと一昨日言われた頭の病院に行ったわ!”

と嘘をついてくるに違いない。


それにしても語弊はあるが皇子を骨抜きにして捨ててやると宣言した僕の幼馴染みは、皇子を落とせなかったらしい――――――

==―――

ふと、薬草を煮詰めていると、屋敷の裏口のドアを叩かれた。


なぜ正門があるのに裏口から来るんだろうか、怪しいことこの上無い

だれだこんな夜中に尋ねる非常識な輩は、くだらない要件なら釜で茹でてやる。

そう思いながらドアを開くとその輩に唖然とした。


「久しぶりだなー弟よ」

数年ぶりに再開した兄は相変わらず砕けた話し方で僕に接する。

年の離れた兄のはずが見た目は僕より若く、隣にいると逆にこちらが兄だと思われる。

まあ黙っていればそれなりに威厳が――――いや、欠片もないな。

忘れたフリでもしてやろうと思ったが無駄に時間を取るのも難だ。


「…兄さん?」

ここは普通にするか―――。

「たった一言なのに、なんで間があった?」

“きずつくなー”と言いながら兄は勝手にソファに座ろうとする。

しかしそこはいつもシャーレアだけが座る場所なので別の席に座ってもらった。


「はいはい彼女の特等席ね」

兄がニタニタと気色の悪い顔をしている。

身内ながら迷惑な趣味の人だ。


「なんだ折角会いに来てやったのに嫌そうな顔して」

変な形の帽子をブーメランのように投げつけてくる。

僕はすかさずはたいて兄の手元に返した。

一瞬変な臭いがしたので薬草のスプレーで除菌しておく。


「なんだよ…オレが臭いって言いたいのか?」

袖の匂いを嗅ぎながら、くさくないとブツブツ言い出す兄。


「いや、なんかその帽子臭う…パンジーとシクラメンを混ぜた後にラベンダーを加えたような」

薬草は仕事だからしかたないと割りきっているが、花やミント系の植物はあまり好きではない。


「ちょっとなあここに来る途中でヘマしちゃって…まあかわいい女の子と親しくなったけど」

あの兄がかわいい女性と親しく?

「へえ」

実に興味ないしどうでもいい。

「こりゃもうすぐ義姉さんが出来るぞ!まだピッチピチの十代の」

十代なら僕より年下、義妹さんの間違いだろう。

しかし女性とはいつも友達止まりだと常々言っていた兄にまともな女性が寄り付くだろうか?


「それよりイレーサー、例の依頼はどうだ?」

兄が聞きたいのは依頼のことではなくそのターゲットのことだろう

僕は数年前、とある人物の監視と警護を頼まれた。


そして偶然にも兄が暗殺を依頼された人物と同じだった。


兄は国を回って情報を集めているようだが、ここにそのターゲットがいると薄々気がついているのだろうか。


「とくに変わりはないよ早く任務が終わるといいけど」

動揺を悟られないように話を変えよう。

「それで、義妹候補ってどんな子?」

果たして依頼の件を忘れてくれるのか


「そうそう、偶々近くに住んでる娘だったからさ、なんと、今日一緒に馬車に乗って来たんだぜ?」

要するに相乗りしている間、会話を弾ませただけか、聞いて損した。


「ここよりでっかい屋敷に住んでて」

――――この近辺に大きな屋敷なんてあっただろうか?

「年は14才で」

…嫌な予感がしてきた。

「黒髪の可愛い子でさ」

嗚呼、激しく頭痛がする。

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