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7・お茶

連れてこられたのは暗くて誰もいない、場所だった。


「なぜ中庭にいた?」

“わざわざこんな場所に移動して聞きたかったのがそれなの”

とは思ったけど口にしたら命が危ない。

「帰ろうとしたら迷いました」

疑いの眼差しで見られる。

皇子の視線が私に刺さり

心を射抜くつもりが逆の意味で射抜かれそうだ。


「お前…本当に俺に嫁ぐ気があって来たのか?」


早くも皇子に見抜かれて、私はぎくっとする。

たしかに彼が目当てじゃない。

でも否定しても信じて貰えそうにないから何も答えられない。

冷たい目でこちらを、向いているのに目を会わせない。


皇子の心を射止めようとしたのは、金が目的ではないにしろ、それと等しく卑しい目的だから

彼がそうするのもとうぜんだ。


「ほしいのは金か身分か?いや、両方か」

皇子は強くいい放つ。

「確かに皇子、あなたを好きだとかでお城に来たわけじゃない、でもお金にはこまってないですし身分もいらないです!!」

これはせめてもの反論。

生活には困っていないことは本当だった。


「そのように本音を言うとは疑うのもバカらしくなった…」

皇子はなぜか気をよくしたようで、案内してくれるという。


道を歩く間、目を開けるな、と言われたけど見られたら不味いものでもあるのかしら。

「もう開けていいぞ」


皇子に連れてこられたのは地下牢じゃなくて、花と、ハーブが飾られた部屋だった。


もっとも一番主張が激しいのはハーブ、それは飾るものなのか、少しだけ気になったけど

いいアクセントだと思えば中々きれいかもしれない。


「皇子、その方が例の、ですか?」

とつぜん現れた人はチラりと私を見る。

「こ奴はクリア、私の従者だ」

クリアとよばれた男性は、深い青の髪をしている。

私が言うのもおかしいけれど、珍しい色だわ―――。


「そんなに見つめて、どうかなさいましたか?」

ついジロジロ見てしまったけどいまのは初対面の相手にしていいことじゃない。


「青くて綺麗だったから」

ついそれを口にしてしまう、その瞬間クリアが険しい顔をした。

この国の男性は皆が白髪、もし特例か何かで、髪の色が違うことを気にしていたらどうしよう


「ははは…おかしなことを言う」

するとなぜか皇子が笑いす。

「こやつは俺と同じように白髪ではないか」


こんなに青いのに、白いなんて、どういうことなの?

「お嬢さん隣国の花クッキーでもいかがです?」

かわいい形のクッキーには勝てない。

なにかうまく誤魔化されたような気もするのだけど


「ハーブティーでも飲むか?」

皇子は両手にハーブを持っている。

私はここで親しまれるお茶があんまり好きじゃないから困る。

けど断ったら今度こそチャンスがなくなる。


「皇子、お子さまにハーブは好かれないでしょう」

クリアは蜂蜜をお湯で溶いたものを淹れて出してくれた。

彼はハーブティーを飲むのかと思ったら私と同じ蜂蜜のお茶のようなものを飲んでいる。

なにはともあれ助かった。


「蜂蜜湯に少しハーブを…」

皇子はクリアと私を交互に見る。

「いりません」

きっぱり拒否するクリア。

私は笑って曖昧に誤魔化しておく。

「二人きりか、居るのが奴だけなら名で呼べ、それと、普通に話しても構わない」

名前で呼べと言われても―――


「そんな…皇子を呼び捨てなんて」

失礼とか敬語がどうとかはともかく、皇子、彼の名前は知らない。


「皇子の命令は絶対ですよ」

あれは命令だったのかしら

「命令など…ならハーブティーを飲め」

皇子はハーブの入ったポットを指差している。

「まあ例外はありますが」

クリアは無表情のまま、ポットから目をそらす。

皇子がハーブ好きで、クリアがハーブ嫌いだってどうでもいいことだけはわかった。


「試しに呼んでみろ」

と皇子に急かされる。

素直に貴方の名前は知らない、なんて言ったら皇子はきっと傷付く

「ああ、きっと名を知らないんでしょう」

誤魔化す間もあらず、クリアにバレてしまった。


「ほう…この国に住んでいながら自国の皇子の名を知らないと…いや他国から来たのか、なら髪の色が違うのも頷ける」

残念ながらこの国に生まれてからずっと住んでいたりする。

「実は…皇子の顔も今日初めて見たの!なんて…」


ついつい口がすべり余計なことまで言ってしまう

「ああ…他国から来たならそうだろうな」

あきらかにこの国に住んでいることにきがついた様子、だけど気を使ってくれている。

「俺はカラーズだ」

もう余計なことは言わないようにしよう。


「そういえば皇子、私の友人を知りませんか?」

知り合ったばかりだから友人と呼ぶのは違和感があるけど

一応インティーナは友人、ということになっているからしかたない。

「ああ、あの白いローブの奴か、俺は見ていない」

カラーズがクリアに尋ねるが答えは同じだった。


「その友人がどうかしたか?」

あの二人に呼ばれていたからカラーズが呼んだとばかり思っていた。


「カラーズはインティーナのことが好きなの?」

初めからこう聞けばよかったんだわ。

「は?」

声に出さなくてもなにをいっているんだ?と言われている気がする。


「インティーナを選んだからみんなが帰ったんじゃないの?」

さっきまでそう思っていたけど違うのかしら。


「だいたいその友人など顔も知らん…気に入った女がいないから帰らせただけだ」

インティーナは選ばれていなくてカラーズは誰も選ばなかった。

「だいたい、もしその女を選んだとしてなぜ貴様がここにいるシャーレア」

確かに私がここにいるのはおかしい

というか賞品を諦めた私は、帰り道を探していただけ

迷った先に偶然皇子がいて、お茶に誘われて今にいたる。


でもなんとかカラーズに接触したから最初の目的に近付いている

このまま順調にいけば、副賞を手に入れるときも近いはず。

けれどお茶に誘われたからといってカラーズが私を好きとは限らない

髪を珍しそうに眺めていたしやっぱり違う意味の興味よね


「一度、家に帰りたいか?」とカラーズが言う。

一度もなにも当然帰るにきまっている。

「皇子は貴女を帰したくないようですね」

どうして、カラーズは――――


「お友だちがいないのね!?」

友人がイレーサーだけの人の私にいえたことじゃないけれど

「なにい…ムガッ」

カラーズが何か言いたそうにしているのをクリアが遮りながら話す。

「そうです、なのでまた城に遊びに来てあげてくれませんか?」

今日は楽しかったからクリアの言葉に快くうなずく

「そうだわ…今度は私のもう一人のお友達をつれてきてもいい?」

私は同じ年くらいの同性の友達がいないから

似たような立場の彼も同性のほうが話しやすいはず

クリアは友達のようだけどいちおう従者って言っていたし


「友人は何人くるんだ?」「男女で用意する食べ物を変えたほうがいいかもしれません」

たくさん連れてくるとでも思ったのかしら


「心配しなくても男の子が一人よ…ああでも貴族だから好みにうるさいかも」

ついさきほどまで無表情だったクリアが微笑む。

「男の子だそうですよ大変ですね皇子」

なにが大変なんだろう


「世迷い言を…」

==

ようやく話を終えて、カラーズは出口まで案内してくれて

去り際“くれぐれも近いうちに来い”と念をおすように言われた。

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