50・ある皇子の独唱
今から十九年前、パレッティナに二人の皇子が生まれた。
兄は大人しく温厚で、弟は落ち着きがなく気性が荒い。
第一皇子が病弱なため、次期皇子となるのは二人の内どちらかだ。
ある者は政治での扱い易さ、ある者は人柄で、城に使える人々はそのほとんどが兄を支持していた。
そんな大人の謀とは遠ざかり、双子は仲が良く、常に一緒にいた。
『お前たちは双子なんだよペンネーズ、カラーズ』
いつもは伏せっている長兄のスヴィーズが、生まれたばかりの末の弟、スノーズの頭を撫でながら言った。
『双子?』
カラーズはツンツンと頬をつつきながら長兄を見る。
『ぼくとおまえは、一緒の日に生まれたんだ』
ペンネーズは言った。
『へー双子かあ』
『ずっと仲良しでいよう約束だ』
『うん!』
それは双子の皇子が六歳になった晩のことだった。
兄弟の絆を誓うも、二人は離れてしまうことになった。
『トマーズ様!!なんとかならないのですか!?』
后は眠る二人の子を見つめ、涙を溢れさせた。
『わかってくれパスティーカ…これはどうしようもない事なんだ…双子がこのまま共に王家に居てはもう一人が呪われてしまう』
パレッティナの王家に、双子が生まれると、六才までに王家を去らなければその双子のどちらかに呪いがふりかかるとされている。
つまり六の年を迎えた皇子のうちどちらかが第二皇子、残った者は王家を出なければならない。
皇として二人の内どちらかを選ばなければならないことを、父親として悔いた。
そして次の日の朝、先に生まれた片割れが、貴族の家に養子として出された。
『父上!母上!どうして兄上がいないのですか!?』
まだ幼い少年である彼には、双子の兄と引き離された。
王家を去る時、兄は泣なかったのだ。
双子の弟が長兄や末弟と引き離されるくらいなら、自分が王家を去ると宣言した。
『元気でいてね、ペンネーズ』
それから、カラーズが正式な第二皇子として表に出る。
カラーズにいた双子の片割れのことは、13年の間にほとんどが忘れている。
それでいい、ペンネーズは笑っていた。
「久々のパレッティナ…
何も変わらないな」