49・失ったⅣ
「身内にまで正体を隠し、欺くとは中々の悪だ。なあ」
ティードラァはようやく己を取り戻したのか、これまでの微弱で覇気のない姿とは一変していた。
「、深淵の魔道一族たるもの、当然の結果だ!」
薄紫髪の男は、興味がないとコートの埃をはらい落としながら言った。
「お前の父が失敗した以上、お前に動いてもらうしかないな」
冷淡な目で、陰った城を見上げるティードラァ。
「オレこそ、このつまらない物語を終らせる存在…」
薄紫の髪を、帽子に入れ城を後にした。
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「そんなことが…」
どうしてイレーサーがドロウノを疑ったのか、わけを話されてようやく知った。
イレーサーとインキーノの話でドラウノが魔力を失い幼い少年の姿と元の姿があることは依頼で魔法使いと戦った怪我のせいであることがわかった。
「ドロウノの忠告なんて無視していいよ」
インキーノは私の手を引き、孤城へ走る。
「わざわざ走らずとも、魔法使いが二人も揃っていながら空を飛ぶ術もないのですか?」
クリアがついてはいけない核心をついた。
イレーサーまでインキーノと同じスピードで走りだしてしまう。
「ついた…」
体力を消耗したイレーサー、インキーノがよろめきながら城をみている。
城内の警備は手薄で、おそらくティードラァに使えている筈のウォルさえ出てこない。
「ティードラァ!!覚悟」
インキーノは大きな扉を蹴破る。
さっきまで元気がなかったのにもう回復したようだ。
「この回復ドリンクすごいね」
パパがバスケットから取り出したドリンクを飲み、空き瓶を髪の長い男のいる場所に投げた。
「あんたは回復薬いらないくらい元気だろ」
インキーノは薬の入ったバスケットを取り返す。
「さて、そろそろいいか貴様等」
傍観していた男が口を開いた。
ウォルと同じ水色の髪をした男。
おそらく彼がティードラァだろう。
「ティードラァ、いい加減に竜を放つのは止めろ…そして弟の肉体を解放しろ」
パパがすさまじい剣幕でにたりと口角を上げるティードラァを睨み付けた。
「いいだろう。その娘の持つ
あと一つのクリスタルと引き換えだ」
あと一つとはどういうことだろう?
その疑問は一瞬で解決した。
ティードラァの手にはカラフルなクリスタルの埋められた板があり、一ヶ所に穴があいている。
つまり、クリスタルが見つからなかったのは探しにいかなかったから、だけではなくティードラァが既に回収していたから。
必然だったとも言える。
「最悪な状況だね」
と言いつつあまり気にしていない様子のイレーサー。
「よく落ち着いていられるよね!敵が後一つで最強の力を手にして世界を滅ぼそうとしてるのに!!」
インキーノは慌てふためいている。
「待って、どうしてそうなるの?」
現時点では世界を滅ぼそうとしているなんてティードラァは言っていない。
「この情況でよくそんな甘い判断ができるね」
イレーサーにぴしゃりと一蹴される。
確かにそうだけれど、決めつけるのはよくないというか、彼を怒らせたら交渉決裂してしまうかもしれない。
「ヴェルタァク…貴様なら余の考えを理解できよう」
どうしてそこでパパに話をふるのか、わからなかった。
「理解出来ても、弟に取りつく理由までをも解るつもりはない」
ヴェルタァクが剣を構えた。
それに続いて皆が警戒をする。
そういえばクリアがいない。
どうしたのだろう。飛び道具を使う彼がいないとなると不利だ。
ティードラァは本当に戦う気がないのか、余裕の笑みを浮かべて玉座に座っている。
「来い!!お前達」
ティードラァの号令に、ドロウノ、ウォルの二人が現れた。
「兄さん…!」
操られているのか、ドロウノの様子は変だった。
「家族を洗脳か、卑怯な手を使う…!」
「“余”は、洗脳などしておらん」
ティードラァの口振りではなにか含みがあるように聞こえた。
けれど、それを気にしている場合ではない。
「ともかく…余をこの時代から追い出したいと云うならば、クリスタルを寄越せ」
「わかったわ!!だからドロウノとその取りついている人を解放して!」
ティードラァにクリスタルを投げつけると、彼はあっさり要求に応じた。
「父上!!」
ウォルが玉座に倒れた人に駆け寄る。
親子だったらしい。
なぜ従っているのかようやく知れた。
ティードラァはクリスタルに何を願ったのか、よくわからない。
けれど世界が滅びる気配はない。
拍子抜けするくらいの短い幕引きだからなんだか終わった実感がない。
でも今はきっと大丈夫のはず。
「はあ…一か罰か、の大博打だったね」
あきれているが怒ってはいないのでまあ、いいかと流した。
「うわあああ助けて神様!!滅びる前に!」
インキーノはまた慌てている。
「お帰りなさい皆さん」
クリアがなにくわぬ顔で現れた。
「クリア!今までどこに行っていたの!?」
さすがに彼がいないのは不安だった。
「すみません嫌な気配がしたもので…」
「帰りましょ」
「やったーなんかいいものみつけた!」
インキーノが宝箱の中からみつけた綺麗な石をくれた。
綺麗なものなので喜んで受けとることにする。
「君の願いを叶える話はどうなったのやら…」
「く…クリスタルはまた集めればいいわ!!」
真っ直ぐは帰らず皆でカラーズのいる城へ。
「では皇子、私はこれで失礼します」
カラーズと話していたペンネスは彼に軽く頭を下げ、去り際に私を見て微笑んだ。
「お前がいなくなったと聞いて…」
「心配をかけてごめんなさいカラーズ」
しばらくここに来ることがなくて久々に会った。
「まあ、皆さんお茶でも飲んで話でもしてはいかがですか」
クリアの計らいでお茶会をして、色々な話をした。