6・紛れていたのは?
庭の手入れをしているとなにやら
近くをウロウロしている者がいた。
あの黒いローブにはどこかで見覚えがある――――。
「おいそこで何をしている」
ローブを剥ぎ取り城の外壁へ追いやる。
黒いローブは尋常ではないほど怪しい格好だった。
あれは暗殺者ではないかと、一瞬そう判断してしまったが
こんなに簡単にねじ伏せられるアサシンなどいるだろうか
よく考えてみれば昼間にそんな目立つ格好で暗殺などしないだろう。
やはり違うのだろうか、それともただの間抜けか―――
念のため身元を吐かせられるように、少女の右腕を持ち上げて壁に押しつけながら圧迫した。
背の小さな娘は目の前で怯えている。
==―――――
抵抗しようと思えば、片手くらいは使える。
しかし、皇子を叩くわけにいかない。
もしかして皇子の機嫌を損ねたの?
このままじゃ殺されちゃうのかも、いったいどうしたらいいの―――――。
「うう…」
壁に押し付けられた手首の痛みで涙が滲む。
まったく気にもしない皇子は、私の髪をほどいて太陽にかざしながら観察する。
「貴様…先程の小娘か?」
ついさっきお互い顔を見ていたはずで
皇子をドアで突き飛ばしたのも私くらいなのに…
もしかしたら私の他にもドアで突き飛ばした人がいるのかも!!
「愚問だったな漆黒の髪の娘、今日城に来た黒髪の女はお前くらいだ」
そのまま皇子に顔を近付けられ、じっくり顔を見られる。
「ついてこい」
ぐいっと手をひっぱって城内に戻った。
今日は…3回目?
==―――
その頃インティーナは使用人と共に皇子を待っていた。
「新人~どうだ美人だろ?」
派手な男は青年の背をバシバシと叩く。
「へえ…インティーナさんって言うんですかー」
若干ひきつった笑みを浮かべ、インティーナを見る。
すると青年は何かに気がついたように不信感を抱き始め
インティーナも同様にそれを悟る。
「…わたくし急用がありますの」
皇子に会うつもりはないというインティーナに男たちがざわつく。
「謙遜しなくても…」
引き留める男の話を聞かず脱兎の如く部屋を飛び出した。
「あれ、新人は?」「さあ?」
==――
皇子が部屋に目的の少女を連れてくるのを待っていると
なにやら見覚えのない男が視界の端を横切った。
「おまえ何を嗅ぎまわっている?」
私は青年を呼び止める。
「やあこんにちは」
青年は屈託のない笑顔でこちらに一礼する。
「ふ…キサマ、暢気に挨拶などしている暇があるのか?」
私は危機感の欠片もない男にあきれた。
だが面倒とはいえ無視も出来ない。
身元を洗だそうかとも思ったのだが――――
「初めまして、だろ?アチラ側の元お偉いさん」
この青年は私の正体を知っている。
ということはただの人間ではない何かだろう。
「なにかあるのか…さっさと用件を言ったらどうだ」
奴が外敵なら場合によっては始末するしかない。
「急に雰囲気変わったなあ…俺はただの魔法使いさ!」
魔法使い、人の身から力を手にした悪魔に近い存在。
「ちょっと気になる子がいたから城に来たっていうか」
我々のような寿命と技能を持つ者が、まさかこんな所にいるとは。
「あ、べつにアチラさんとドンパチする気はないさ、アンタがなんでこっちにいるかとか、聞くつもりないし」
どうやらただ遊びに来ただけのようだ。
いつ城内に紛れたのか、いくつか検討は付くが、確かめる術は現状、ここにはない。
「そろそろ誰かくるみたいだ…また遊びにくるよ」
――また来るのか、もう来ないで貰えると助かるんだが。