46・幼き日
『師匠…今なんて…?』
僕は早朝、師であるサレインから呼び出された。
『イレーサー、すぐにパレッティナへ行くんだ』
僕は明け方まで作業をして、少し眠った程度だったのである。
『え?』
そのため、まだ頭が半分寝ている状態で、あくびをしないように目を擦った。
『明日までに支度をしなければ、取り返しがつかなくなる…いいか、この事はサロインとドロウノには知られるな』
なぜ兄と父に知られてはいけないのか、そんなことを疑問に思ったが、師匠の言うことに無駄はない。
まとめる荷物はほとんどないが、すぐに準備をして深夜に魔力の町を出た。
一週間は師匠の風貌を真似て、資金を稼いだ。
ただの無名の見習いが薬を売ったところで対して儲からないが、名の知れた魔法使いなら話は別だ。
特に師匠の赤紫の髪は目立つので師匠の名しか知らない者から見ても有名な魔法使いサレインだとわかるだろう。
『やあ、君が魔法使いサレインだろう?君とは会ったことがないが、サロインとは知り合いなんだ双子の兄弟だそうだね』
黒髪の女性と少女を連れた男はにこにこと、しているが、どうもいけ好かない。
『君がヴィタンの言っていたペイプラーか?いつも兄から話を聞いている』
その場をしのぐ為、師匠のフリをしてそれとなく返す。
『君、イレーサー君だろう?』
どうやら嵌められたようだ。
『そうだと言ったら?』
見抜かれたからには、下手な演技はやめた。
『先程は嘘をついて悪かったね
私はサレインとも何度か会っているから何かおかしいと思ってカマをかけてみたよ』
そもそもこいつは何者なんだ。
『結局、何の用?』
要領を得ない話で誘導、まるで詐欺師の手口だ。
『この少女、シャーレアを守ってやってくれ』
なぜ、ただの魔法使いだと判ったのに、そんな依頼をしたんだろう。
『依頼を受けてその少女が死ねば僕がすぐに魔力を失ってお陀仏なんだけど』
魔法使いは魔力で生きている。
魔力で寿命、若さを保っているのだ。
それさえ無くならないなら半永久的に年をとらない。
もちろん致命傷を追えば死ぬので神のように不老不死ではない。
『なら契約書は無し、口約束でもいいんだよ
それで魔力の変わりに大金が手に入れば悪い話ではない筈だ』
確かにその通りではあるが、魔法使いとしては魔力のほうが嬉しい。
『皇に頼めばお金を魔力に変換できるよ』
いい返事をしない僕の表情から察したのか、魔力の入手方まで教えてくれた。
『よろしくね!!イレーサー!!』
まだ返事をしていないのに、シャーレアという少女に依頼を承けたことにされた。
さっきまでおとなしくしていたのに、とても元気じゃないか、とても守る必要がなさそうだ。
『この小さなお姫サマを誰から守るって?ドラゴン?』
ドラゴンが暴れていたのはまだデスアーラ国のあった時代で、今は龍がいるなど聞いた事がない。
『それはいいよドラゴン討伐は私の管轄だからね…それで誰から守るかについてだが』
この男、重要な話をサラッと流した。
『本当にドラゴン、いるの?』
いるなら一度くらい見たいものだ。
『それはおいおい話すよ…本題に入ろう
君の父サロイン、ドロウノは共謀してシャーレアを殺そうとしている』
驚くことはない、あり得る話だ。
大方魔力を持った者から恨みをかったのだろう。
『ついでに君も、二人に殺される対象なんだ』