44・己は汝に劣るのか
『どうして出来ないんだ』
優秀な父、サレインは言った。
『さあ?』
なんで魔法が上手く出来ないか、そんなの俺にわかるわけない。
『お前より二つも年下のメルティーナやイレーサーくんは出来たじゃないか』
落胆なのか、呆れているのか父がため息をつく。
『いっそドロウノくんに習うといい』
あいつに魔法を習うなんて、絶対に願い下げだ。
俺は何をやってもドロウノより優れている。
学問や運動もあいつより得意だ、ついでに運もいい。
女の子からの受けもいい。
なのに魔法だけはあいつに勝てない。
どうせ上手くならないなら魔法使いなんてやめてやろう。
そう思って家から飛び出し、パレッティナへと逃げ隠れた。
『…にしてもパレッティナってどんな国なんだろう』
気になった俺は唯一できる変身の魔法で、町の人に聞いてみた。
色々知ってそうなヨボヨボ年配者にきいたところ、亡国グリーンティアが大昔にフィエールという亡国に滅ぼされて、以来名を変えて新しく出来たのがこの国だという話だった。
ここを目の敵にした国はどんな恨みがあるんだろ。
何千年以上もいさかいは続いていると、老人は震えながら言っていた。
他には三国に渡る古い伝説があるらしく、たしかに印象だけならすごい歴史がある気もするが、隣国のほうはとても歴史が古い。
妹もそこに移住して気楽な生活をしているようだ。
俺も国で自由気ままに暮らしたい。
『薬~薬はいらんかねー』
同じ魔法使いで父サレインは魔法、父の双子の兄で、俺の伯父で師匠のサロインは薬学だ。
明らかに生まれてくる家を間違えたとしか言いようがない。
『ここにはどんな薬がある?』
明らかに場違いな身なりの良い白髪の少年は言った。
『金持ちの坊っちゃんがこんな所で彷徨くなよなー』
金が無くてもそこら辺でフラフラしても平気な俺だからよかったものの。
他の奴はそうじゃない、金を持っている奴からぼったくる奴は大勢いる筈だ。
『すまない』
身なりのいい少年は落ち込んだ。
『…俺に謝られても困るんだけど』
まったく、何で年寄りばかりの街に来たんだか。
『そんで、どんな薬を探してるの?』
最初はこいつに薬を売ってやる気は全然なかった。
腹が減ったから食費でも稼ごうか、そう思っただけ。
『人を愛さない薬を…』
僕は逃げる男を追い詰めた。
弱い魔法使いは契約により魔力を持つ依頼者から魔力を得る。
依頼のほとんどが邪魔な人間の始末だ。
ほとんど魔力を持たない僕もいつか人を、それが嫌で僕は依頼を受けずに裏方にまわっていた。
依頼で僅かな魔力を貰っても、依頼を受けて、達成できなかった場合の代償が大きい。
ハイリスクでノーリターンといったものは、依頼者にとっては蚊に刺された程度の魔力の消費、僕にはメリットが少ない。
兄は生来魔力を沢山持っていて、最強の魔女と言われた伯母のマデェールを越えるとも言われていた。
それほどの力を持ちながら、依頼をする必要はないのだが、父は化学である薬品作りに長けているのに、魔力を用いた魔法にこだわっている。
だから僕に依頼を寄越すのだが、僕は受けなかった。
密かに兄が依頼の処理をしていると、知ったときには後悔しかなかった。