5・追い出された
「気に入らない、あの女共はあの娘を除いて、全員送り返せ」
除外された娘が誰なのかは側近のクリアだけが知っている。
それを知らない周囲の男達は皇子の言葉に驚愕する。
まだ候補が誰なのかまったくわからない男達は、先程皇子の前で目だった二人のどちらかだと考える。
そんな中一人の男が手を挙げて「じゃあ僕たちが送り返した娘を貰ってもいいですか?」とたずねる。
「ああ、送り返せと言った手前、関係ないのだ好きにしろ」
======
着替えをすませてインティーナに見せると彼女はバッチリだと誉めてくれた。
「さっそく皇子様にお披露目に行こうか!」
またインティーナに手を引かれながら部屋を出る。
そこに一人の男に声をかけられた。
「すまないお嬢さん方」
足を止める誰かと思えばさきほど豪華な衣服を来ていた人である
服から派手さが減っていたので、誰かわからなかった。
もしかしたらあの事を気にしているのかもしれない
「さっきはすいませんでした!!」
この人は私のせいで恥をかいたんだから一応あやまっておく
「それはもういい自分でもあれはないとわかっていたからな…親があんな感じの服を奨めるだけで私の趣味ではないのだ」
派手さが減った男はブツブツなにかをいいはじめた。
「それで…何か用でもございますの?」
このままでは時間がもったいない、そう思っていたら丁度いいタイミングで
インティーナが優雅に振る舞いながら用件を聞き出してくれた。
「ああ、そのことなんだが皇子が城から嫁候補の女を追い出せと言っていたのでな…」
とため息混じりに言うが
ため息をつきたいのは私も同じだった。
勝負して負けるならまだいいけど勝負するまえから負けるなんてそれこそ悔しい
「どういうことですの?」
インティーナは彼にまた愚痴り出されては困ると思ったのか、すかさず話を続ける。
「どういうことか、こちらが聞きたいくらいだ…まあ君達のどちらかは例外だろうが」
私達のどちらかは――――――例外?
いまとても有力な情報を手に入れた気がするんだけど――――
「選ばれるのはインティーナよね」
私は皇子に選ばれる筈がない、さっきなぜなら皇子を怒りらせたからだ。
「…なに馬鹿なこと言ってるの」
悲しげなシャーレアにインティーナが焦る。
「あのインティーナ、よかったら副賞だけでも貰えたら…いやなんでもないの」
思わず本音が漏れてしまった。
顔が上げられないたぶん、いや絶対二人は呆れているだろう。
「白いローブの方、こちらへどうぞ」
二人の男がインティーナを皇子の部屋に案内すると言う。
「…あちらが選ばれたのか、皇子を射止められず残念だったな」
恥をかかせたのに心配してくれるなんて格好によらず優しい人だ。
「じゃあ私はこれで」
もうここには用がない、家に帰ってクリスタルをてにいれる方法を探そう。
「待て」
ちょっと豪華な服の男が立ち去ろうとした私を呼び止める。
「私はペンネス、近くの屋敷にいる…気が向いたら来てもいいぞ」
それだけを言い放ち私より先に移動してしまった。
どこから出ればいいのかわからないので、私はローブを着て城の出口を探すことにする―――――
――――
「わたくしが選ばれたのですか?」
自分が選ばれたのか半信半疑のインティーナは物静かそうな男にたずねる。
「いえ、皇子から断言はされてませんが恐らく貴女だと思ったので」
皇子が直々に選らんだわけではないとこたえた。
「あっちの小娘より無難だからさ」
もう一人が割り込む
「オレ達は君のほうがかわいいと思ったから?みたいな」
ちゃらちゃらとした男は物静かな男に話を振る。
物静かな男は迷惑そうに頷く
機嫌をとるようなこの男達にインティーナは不快感を抱いた。
――――――
「どちらへいかれるのです?」
皇子の側近、従者クリアは疑いの眼差しでカラーズを視る。
これまでつかえた皇子や王子は、みな馬鹿の一つ覚えのように城を抜け出している。
それを散々見てきたクリアは、この皇子もそうなのかと呆れそうになる。
「ちょっとそこの庭までだ、城を抜けるつもりはない…暑いからな」
―――――――
送り出した皇子が城を抜け出さないか、窓から庭を見ているが、抜け出す素振りはみられない、杞憂だったようだ。
出会ったばかりの頃からそれは見てとれる。
彼は同盟国であるティーコレット国から輸入しているハーブを煎じて飲むのが好きで
それだけならまだしも自分で付け合わせに
フラワー国から輸入した種で植物を栽培するほどに変な拘りがある方だ。
私がハーブを苦手と知るやいなや茶葉にハーブを混ぜて送って寄越すのは嫌がらせだろう。
こうなってくると逆に面白味がないが。
女を追い出したあたり家を断絶させる気なのは確かだろう。
栽培のとき以外外に出たがらない方だ皇子に伴侶なんて無理矢理じゃなきゃ無理じゃないのか?
これは逆に城を抜け出してくれと願うところだろうか、窓を覗くのをやめて皇子が抜け出すのを待ってみよう
もしかしたら面白いことがおきるかもしれない
====
30分くらい迷ってようやく城から出られた――――
と思ったらそこは出口ではなく中庭だった。
「おいそこで何をしている」
まずい、誰かにみつかってしまった。
【いえ、皇子に帰れと言われて帰ろうとしているだけなんだから堂々としていればいいんだわ】
何か言おうと思っていたら、いつの間にかローブがなくなっていた。
男の手元には私のローブがある。
逃げなくちゃ、そう思った頃にはもう遅い、後ろは固い壁だった。