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40・迷いと水色

「パパは私のお父様じゃないの?」

血の繋がりはない育ての親だなんてそんなこと、今まで一度も聞いたことがない。


記憶の中にいる父親はいつもこの人で、母の隣で話していたのもこの人であった。


その記憶は間違いだったのだろうか。


「そうだよ、私はシャーレアと血の繋がりはない」

ずっと共に暮らして来た家族で、本当の父親であることを疑わずにいたのに、わけがわからなくなって、しまった。


私はリビングを飛び出して、自室に向かった。






「ヴェルタァク…アンタあの子に言ってなかったの!?」

シャーレアが去った後、唖然とするエステールはすぐに問いただす。

「久しぶりに自分の名前を呼ばれた…」

ヴェルタァク=ペイプラー、それは彼の名である。

シャーレアやイレーサーは彼の名前を知ってはいない。

知っているのは亡きシャーレアの母を除けばエステールだけだろう。

「いつか魔法は溶けて…自ずと知ることだと思っていたからな」

呟かれたヴェルタァクの言葉はエステールには聞こえない。

「何か言った?」



「魔法?」

ペンネスには扉越しでも微かにヴェルタァクの声は聴こえていた。

ペンネスは先程まで何も聞き取れなかった向こうの声が聴こえる筈もないとあまり気に止めなかった。


「なに?修羅場?」

イレーサーは部屋に閉じ籠るシャーレアの心配をしているのか、ドアをチラリチラリと何度も見る。


「それにしても、叔母上はシャーレアに一体何を言ったんだ?」

ペンネスはイレーサーに尋ねる。

扉の向こうの会話は何も聞こえず、三人には状況が把握できなかったからだ。


なぜシャーレアが急にリビングから飛び出して、自室に閉じ籠ったのかをイレーサーは目を閉じて考える。




自室に閉じ籠ったシャーレアは、これからどうするかを考えた。


家族ではないと考えたこともなかった彼が本当の父親ではないと知り、それでも家族でいられるだろうか、やはり無理だ。


家族でないのに無償で守られていた。

本当の家族よりも子に甘いのではないか、と思う程とても過保護であった。


理由はわからないが過去、特に父の記憶は曖昧で、どういった経緯があって彼が父になったのかはシャーレアには判断がつかなかった。


以前フィードに言われた事を思い出して、当人でさえ気がつかなかった事を見抜かれていたのだと言葉には出来ない思いが込み上げる。


シャーレアには、このまま彼の家にいていいのか、という疑問や今までに味わったことのない感情がふつふつとわいてくる。


彼が嫌いになったわけではないのにここにはいたくないのだ。


(叔母様に出来たなら私にも…)

部屋を見渡しても綱に出来そうなロープはなく、仕方なくシャーレアは二階の窓から飛び降りる。

雑草がクッションになって衝撃は免れる。


ただ落下の時にドレスのポケットに入れていた二冊の本の角が軽く足にあたり、少しだけ皮膚が痛んだ。


普通ならダメージを吸収するはずもない植物が微かに自分を助けようと動いた。

「これが私にある力?」

シャーレアは一人、暗い夜道をかける。


いままで夜に町を歩いたことはない。

馬車に乗らずに好きなように走り、髪を隠すローブもなにもない。


「今、私は自由なのね!」

初めて自由に町を歩き、解放感に浮かれている。

すぐに正気に戻り、ハッと辺りを見渡した。


人はいないのに、何故か視線を感じる。


「…シャーレアだな」

ローブの男が一メートル付近に立っている。

この声はウォルだろうか、早くここから逃げなくてはいけない。


「…逃がすか!!」

予想通り、いつものように追いかけられる。

だが、なにか違和感を覚える。

いつものウォルなら“クリスタルを寄越せ”と叫びながら来る。

なのにまだクリスタルを要求してはこないように見える。

問答無用で奪いに来た、ということなのかしら。


「今日はお前を殺しに来た」


とにかく逃げようとしていると、いきなり誰かに腕を引かれ路地の裏側に連れ込まれた。


「…おい、クリスタルは何処だ」

何がおこったのか、まるで分からない。

逃げていたはずの方向に、追いかけていた本人が瞬間移動したのだろうか。


遠くにはウォルだろうと考えていたローブの男がいる。


「ウォル…貴方って双子なの?」

一応は救助してくれたウォルに

「…馬鹿か?」

たしかに暗くて顔は見えない。

ローブの男を声だけでウォルだと決めつけたのは間違っていた。


「でも貴方がウォルだって証拠もないわ…」

明るい所で姿を見られればいいのに。


「これでどうだ」

そういいながら街灯のある場所でフードを下ろす。

間違いなく彼はウォルである。


「ねえ…ウォル、どうして助けてくれたの?」

“最近は姿を見なかったからもう付きまとうのは諦めた”のではないかと思っていたけれど言うのはやめた。


「クリスタルの在処は生きているお前からしか聞き出せないだろう」

ウォルはいつもクリスタルを探して奪おうとしている。

彼にも何か叶えたい願いがあるのだろうか。


「でもペンネスのお屋敷を壊しに来た時の貴方は…」

殺気、というか破壊衝動でおかしかった。


「そんな屋敷など知らないな」

とぼけているのだろうか、本気で覚えがないのか。


「…そんなにクリスタルがほしいのはなぜ?叶えたい願いでもあるの?」


「俺に願いはない…クリスタルを収集するだけだ。それが主からの命だからな」


「命?その命令した人は一体…」

「…俺の他にもいる主の命を受けている者が」

それ以降の質問は遮られた。


「もしかして…」

今、私の命を狙っていた男はウォルと同じような事をしているのだろうか、ならどうしてだろう。

ウォルの言っていた事が正しければ、私を殺す事でクリスタルは手に入れられなくなるのではないかと考える。


「奴は俺のように忠誠を誓ったわけではない。ただ金で雇われただけの者だ」

ウォルは何の姿も見えない方向を睨み付ける。


「俺の予想が正しければ奴は昼間には現れない」

「どうして?」

恐らくは初対面なのだから別に顔を見られて困るわけでもないだろうに。と楽観的な事を姿を眩ませたローブの男に思う。


「…今さらだが何故こんな時間に一人で出歩いている」

ウォルに言われて気がついた。


今までに命を狙われなかったのは家にいたからだ。

あの男が急に現れたのは私が一人で外出していたからなのだと、思い知る。


「言いたくないならいい今日は朝までお前を見張っておく」

「聞かないの?クリスタルは何処だ~とか」

ウォルはクリスタルしか頭にないと思っていた。

一応は助けてくれるらしい。


「俺は夜目が効かないんだクリスタルの輝きさえ見えない程だろう」

「…きっと明るい場所なら貴方のかっこいい表情を見られたわ」

何が気に触ったのか、ウォルは無言になる。


そのまま夜が明けるまでウォルは近くにいてくれた。

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