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37・贈り物

『これで君も一人前の魔法使いだ』

『ありがとうございます師匠』

『なんだ、もう師匠、と呼ぶ必要はないだろう』

『ええ…では叔父上』

『やはり年寄りくさい。叔父上は却下だ』


夢を見ていたのか、おぼろ気ではあるが、もう数年は会っていない方の姿をみた。

父の弟で、僕の尊敬する魔術の師ある。

今はどうしているだろうか、父も行方は知らないと言っていた。

第一にその父すらここ数年会ってはいない。


元々僕のいた魔法使いの一族は依頼で忙しく、家族の団らんはほぼない。

一族で括りながら群れにはならない、矛盾した価値観なのが魔法使いの気質でもある。


「おーい」

家の扉を叩く音がする。

「なに?」

人が睡眠をとっているのに邪魔をするな。

そう言ってやりたいが、ここで波風を立ててはいけない。

目の前の男からは金の匂いがするんだ。


ヴェルタァク=ペイプラーはまるで肉親を鬼に殺されたかのように竜を嫌っている。

かつては竜達を根絶やしにするのが夢だと物騒な事を言っていた。


「そろそろシャーレアが帰って来るようだ」

ペイプラーは嬉しそうに語る。

こいつは大した用があるわけでもない。

娘の帰宅、それを言いに来ただけなのだと確信した。

外をよく見るともう辺りは暗くなっている。

彼女、こんな遅い時間まで墓参りしていたのか?


「サプライズでもするの?」

せめて眠りを妨害した理由はそうあってくれ。


「違うよ。おやすみ。ではまた」

少しでも淡い期待をした自分は最悪だ。


眠気もあいつのせいで飛んだ。

久しぶりにシャーレアに会いに行こう―――――――――――


「イレーサー!」

馬車から降りた私は、隣の屋敷の玄関前で暗闇に微かに生える真っ白な髪の幼馴染みの姿を見つける。


「そんな大声で呼ばなくても聞こえてる」

寝起きなのかラフなシャツと黒のズボン姿の彼はいつもの刺々しい雰囲気とは違って無防備で手を当てながら大あくびをした。


「イレーサーのあくびを見るのも久々ね」

「人のあくびなんか見ても面白いものじゃないよ?」

またイレーサーに呆れられてしまった。


「あ…これがなんなのかわかる?」

私は陶器の小物入れを鞄から取り出し、イレーサーに見せた。

墓で拾ったというか、自分に贈られたものだが。


「コイ…クリスタルかなんかを入れるのに丁度よさそうだね」

「金貨入れなんて悪趣味だわ」

「コイン?なにそれ、クリスタルって言ったよね?」

珍しく動揺している。

あいかわらず金が好きなようだ。


「…ああ、そうだシャーレア」

イレーサーはなにかを思い出した様子で私をみている。


「もうすぐ君の叔母さんからドレスを送られる時期じゃないかな?」

「そうねエステール叔母様には毎年頂いている頃だわ」


遠方に住む叔母は叔父と夫婦で小さな仕立屋を営んでいる。


送られるのは毎年豪華で時代を先取りしたデザインの物と、通年の私専用のデザインの二つだ。


「いくら洋服屋だからって無料でくれるなんて良い人だね。それも毎年豪華なドレスだ」

「…そうね」

「幼馴染みのよしみで僕にもシャツを一枚くらい…」

イレーサーはダルダルのYシャツを見てため息をついた。


「無理そうだわ…叔母さんなんだかイレーサーの事嫌っていたもの…」

「あの人の場合近い身内以外は嫌いなんじゃないの?…特に身内にすりよって善人ヅラしている奴とか」

イレーサーはため息混じりに小さく呟いた。



「おかえりシャーレア」


帰宅すると父に出迎えられる。

また帰りが遅いから叱られてしまうかと思い、身構えた。


「ああ、さっきイレーサーと話しているのを窓から見たよ」

どうやら怒ってはいないようだ。


「ああ、そうだエステールさんからいつものが届いているよ」

イレーサーの言っていた通りだった。


“親愛なる姪、シャーレアへ”

“男のアイツにはドレスの有無はわからないでしょ?”

“マイダーリンの作った新作といつものデザインです”


「エステール叔母さんはなんて?」

ペイプラーはフライパンで食材を炒めながら、手紙を読み終えたシャーレアに内容をたずねる。


「パパは男だからドレスのことはわからないでしょうって」

「ははっ相変わらずだね」

ペイプラーは言葉だけなら笑っているが、不機嫌で、それは鈍いシャーレアにも感じ取れるほどだった。


「明後日頃遊びに来るそうだわ」

「ははっエイプリルフールには早いんじゃないだろうかね?」

ペイプラーはあまりの衝撃に話し方まで変わっている。




色々と言いたいことはある。しかし‘どうして仲が悪いの?’なんて聞きづらい。

“仲良くして”とも言えない。


「パパ…今日の夕飯は?」

これ以上空気を悪くしないように話題を変える。


「ああ、今日はヴィーフンだよ」

「ヴィーフン?」

聞いたことのない名だとシャーレアは首を傾げる。


カツン、ふとした瞬間カーテンの閉められたガラス窓から小さな物音がシャーレアの耳に聴こえる。


「今物音がしなかった?」

「いや?」

ペイプラーに問うも、何も聴いていないと言われてしまう。


「それで、話の続きだが…米粉で出来た麺に薄めの味付けをしたシンプルなチャイカ系料理だよ」

「へぇ…」

どんな味がするのかとわくわくしていると、玄関の扉が叩かれた。


「誰だまったく…料理が冷めるだろう」

パパはせっかく機嫌がなおったのにまた不機嫌になる。

「僕だよ」


一体訪ねて来たのは誰だろうと、リビングのドアの隙間から見るとイレーサーだった。


「なんだイレーサーか、食事をタカりに来たのかい?」

「うん」

会話は聞き取れないけれど多分食事を貰いに来たのだろう。


「こんばんはイレーサー」

「シャーレア、食事の邪魔してごめん。丁度お腹が空いたからパンだけでも恵んでもらおうと思って」

明らかに夕飯の匂いにつられてやってきた。

先程のガラスの音はイレーサーの仕業だろう。


「つめたいパン、じゃなくて温かいヴィーフン食べたいんでしょう?」

パパと私は目を皿にしてイレーサーを見る。


「それにしても、ああよかった…」

「何が?」

パパが安堵の表情で胸を撫で下ろす。


「てっきりあの人が来たのかと…」

「来たら不都合でもあるのかしら?」

パパの背後に険しい表情で立っている女性、それはエステール叔母様とキルテズ叔父様。


そのままパパはフラりと意識を失って白目を向いたまま倒れてしまった。

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