33・前触れは
「屋敷の修復はどれくらいかかるの?」
屋敷を襲撃されてから三日は経過した。
「…今日現場に着いたらしい」
この国は建築設備が整っていないので、別の国から修理屋を手配して、この大陸に呼んだという。
いつまた襲撃されるとも限らないから関係ないけれど、入り口が多すぎてさすがに危ない。
そういう訳で割られた窓ガラスなどが修復されるまで、ペンネスは家に住むことになる。
しかしそこにいたるまでが非常に面倒だった。
「カラーズが勘違いして大変だったわ」
思い出しただけで、げんなりする。
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『聞きましたよペンネルテス・ドットマク興、屋敷を何者かに破壊されたとか』
このクリアという者に限らずどうでも良いと考えていることを話題にするのはなぜだろう。
城では扱いにくい、と煙たがられることは多々あったが、何事も動じないようなこの者にまで、よくは思われていないのか。
『ああ…恐らくは以前城に入り込んだ賊と同一の者だろう』
だからといって何も言わないわけにはいかない。
それがせめてもの処世術だ。
『先代ドットマク卿がご心配なさっていましたよ』
クリアはため息をつく。
『そうか…では、私は無事であると伝えておいてほしい』
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「どうかした?」
シャーレアはこちらを覗き込む。
私は首を降り“気にしないでくれ”と言った。
部屋まで借りて、彼女に余計な事を考えさせてはいけないと思うからだ。
「君のお父上についは、カラーズ皇子から話だけは聞いていた」
カラーズが言うには、“シャーレアとの逢瀬を阻むデビル”だというが、そんな風には見えない。
私が住む事を快く承諾してくれたのもあるが、娘である彼女を過保護だが、大切に思っていることがわかった。
「悪魔なんてひどいわ…私は子悪魔なの!?」
シャーレアは父を悪魔と評され、落胆したと思いきやすぐに立ち直り別の方面にショックを受けている。
「きっと、カラーズ皇子は君に会えなくて拗ねているだけだろう」
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「ドットマク卿がシャーレアの家に?」
カラーズは信じられないと言いたげに目を見開いている。
「居候というよりまるで婿入りのようです。婿といえば、婿いでいった第一皇子様を彷彿とさせますね」
婿と書いて婿という読み方は無いですが。とクリアは笑う。
――
「この絵本は…」
ふと、本棚に目をやるペンネス。
視線の先には一冊の絵本があった。
「これ?“皇子様はとつがれました”だけれど…?」
すぐ手の届く場所にある為、棚から抜き出してペンネスに手渡した。
「これの元となる第一皇子がいるのは知っているか?」
「ええ私もパパから話だけは聞いていたわ
他国のお姫様を好きになってパレッティナから出ていってしまったのよね?
まるで物語のようだわ」
事実は小説よりも奇というとおり、一年前に他国に行ったかなり有名な皇子。
だから本には似たような題材が山ほど出ている。
「一つ気になっているのだけど…」
「?」
この皇子の話には違和感があった。
「絵本では王女様に一目惚れしたってことになっているじゃない?」
「ああ」
他国の王女様との出会いなんてどうやって?という疑問がある。
「王女様が嫁いで来て一目惚れ。ならまだわかるの、皇子様がまだ一度も会っていない王女様に一目惚れっておかしいと思わない?」
一目も会っていないのに一目惚れ。
意味がまったくわからない。というシャーレア。
「けどそれは絵本だからいいの、問題は現実の皇子様。
どうして他国の王女様を好きになっちゃって、お婿に行ってしまったの!?」
「まあ、落ち着くんだ…こう考えてはどうだろう他国へ婿に行ってから王女様を好きになった。と」
ペンネスのお陰でシャーレアは合点がいった。
「なるほど…それが正しい気がして来たわ。取り乱してごめんなさい!私ったら物語を基準に話していたわね」
先ほど我を忘れ、熱弁していたシャーレアは急に恥ずかしくなった。
「恋愛物語について談義、仲がいいんだね二人ともどう思う?イレーサー君」
ペイプラーはイレーサーに話をふる。
「他所でやってほしい」
即座にイレーサーは返事をした。
「ちょっとパパ!イレーサー!他所でって言われても…」
外でカップルがイチャイチャして人様に迷惑をかけるならともかくここは家である。
シャーレアはペンネスをチラリと見つめる。
「リビングで恋愛の話は駄目か…部屋で二人きりならいいのだろうか?」
ペンネスはヒソヒソとシャーレアに話した。
「どうかしら?二人がいない時ならリビングでもいいと思うわ」
シャーレアも声を潜めながら悶々と考えている。
「天然…」
「確信犯じゃなく?」