31・水と虹
今日は皇である父に勝手に組まれた面会の日だ。
「カラーズ殿下、本日もご機嫌麗しゅう。わたくしの娘は殿下にふさわしく教養があり―――」
貴族の男は、対面するなりろくな挨拶もせず、娘の事を話し始める。
やれ娘は美しい、皇子・殿下に相応しい。だとか
つい先日、別の男にも似たような事を言われたばかりで、もう飽き飽きしているのだ。
美しい女などこの国では珍しくないし、女の好みが俺とこの男ではやはり差があるだろう。
つまるところ、身内が賛美するほど実物が伴わない場合が多々ある。
だからいくら優れていると聞いてもあまり興味は持てない。
「本日はこれで失礼して頂きたい次が控えているからな」
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今日は苦手な事をしたからか、疲れた。
「おい、クリア!いないのか!?」
クリアは幼少の頃から宮殿にいる。
気のせいか十数年、見た目に変化がないが、そんなことは関係なかった。
兄弟達や父もあまり気にしていないようで、だから害はないと理解していた。
そして皇子に対して無礼ともとれる態度は普段からだ。
暗殺者の始末や茶の用意くらいは真面目にしている。
宮殿内は信頼に置ける者がほとんど存在しないので、不本意ながら奴に頼ってしまう。
媚びへつらうどころか従者らしくない。
しかし素の自分で話せる相手である。
奴は俺が唯一と言っていい程信頼に置ける従者だ。
仕方がなく自ら奴を探すべく、通路を歩く。
「ええ…私は…」
2・3歩ほど歩いたところで、クリアの声が聴こえた。
意外と早く奴を発見できたらしい。
俺は
いつもは言わなくても出てくる茶の用意がない事が、少し腹が立った。
だから目の前の壁に耳を近づけて聞き耳を立て、内密な話を盗み聞いてもやろうと思う。
「しかし先…いつまでも…お守り…なん…」
誰と話しているんだろうか、相手の声がしない。
「ですから…ええ、奴ならば私の…など、当の昔に…」
何やら真面目な話をしているようだ。
どうすべきか、何も聞いていないフリをするか、それとも今から扉を開けて『なにをコソコソ話していた?』と堂々と盗み聞きを開き直るか。
しかしこれで奴がキレて寝首をかかれてもアレだ。
俺はその場をすっと立ち去った。
「ああ、どうやら聞かれていたようですが、差ほど問題はありません」
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【その頃、シャーレア、インキーノ、ペンネスの三人は、謎の男・ウォル(敵)と対峙していた】
「…ペンネス、今のナレーションは何?」
シャーレアは後ろに後ずさる。
「無駄に目立とうとしなくてもいいのにね」
インキーノはあきれながら言った。
「すまない、少しでも秘密を誤魔化したくなってつい」
ペンネスは顔をそらした。
「え自分から秘密があることを認めるの!?」
インキーノはいかにも興味津々な素振りを見せる。
「ええっと…ペンネスは意外と大胆な面があるわね」
ペンネスは出会った頃とは印象がガラリと変化したと、シャーレアはしみじみ思う。
「あ、敵ほったらかして雑談してる場合じゃなかった」
インキーノはウォルをチラリと見る。
「逃げよう!」
ペンネスはシャーレアの右肩、インキーノは左手首を掴む。
「ウォル!私達が話終わるのを待ってくれてありがとう!」
シャーレアは密かにウォルへの対策に持っていたクリスタルを右手で軽く撒く。
「敵に礼を言うとは…奇特な小娘だ」
ウォルは三人を深追いせず律儀にクリスタルを拾ってその場から消えた。