30・安寧
いまにも、お城が変な人に脅かされているのに、私はのんきにお茶をしていた。
(ごめんねカラーズ!、ペンネスが切って来たパイナッツーがとても美味しくて、すっかり忘れていて)
私は心の中で謝りながらポリポリお菓子を食べていた。
「シャーレア。クッキーこぼしてるよー」
私がドレスの上に散らした欠片をインキーノが紙にはらった。
「面倒見がいいんだな。意外だ」
ペンネスは感心したのか目を見開いている。
「まー俺、妹がいるからシャーレアみたいな子がほうっておけないみたいなんだよ」
インキーノの言った衝撃的な言葉に、私とペンネスは同時に反応した。
「えええっ!?妹がいるの?」
「あまりに驚いてセイロンティーをこぼしてしまった」
ペンネスはそんなに驚いているようには見えないけれど、行動に出ていたわ。
(貴族ジョークかしら)
「…失礼だなあ。ちなみに‘メルティーナ’って名前なんだけど」
インキーノはなんとなく兄弟姉妹がいるようには見えないからやっぱり意外だったわ。
「俺にはシャーレアやペンネスのほうが甘やかされてそうな一人っ子に見えるけどなあ」
たしかに私は甘やかされている一人っ子ではあるから否定はできない。
「私にはいたよ兄と弟が二人」
ペンネスはいつも冷静だけれど、更に声のトーンが暗くなった。
きっと彼の兄弟は、亡くなっているんだろう。
「なっなんか…ごめん」
インキーノはいたたまれなくなった様子で、ミルクティーを飲んだ。
「インキーノ、それ美味しいの?」
この国には小さな頃から住んでいるけれど、やっぱり口に合わない――――
(あれ?私は生まれた時からここで育っていたのよ?なのにどうしてかしら)
「何か変な音がした」
心の中で城の皆さんに謝罪をしていた直後、邸の玄関からガラスを割ったような音が聞こえた。
「盗賊か何かだろうか?」
泥棒か何か、かと思い、三人で見に行った。
けれども周囲に破片はなく、窓が割られたわけではない。
「出てきたなクリスタルの小娘」
水色の髪が特徴的な青年・ウォルに、遭遇するなり小娘呼ばわりをされてしまった。
「誰こいつ?雑魚のオーラがプンプンするよ」
インキーノは目を皿のようにして、ウォルを見た。
「ああ、まるで寸劇では威勢よく喧嘩を売って、コテンパンにのされるような役だ」
ペンネスはインキーノの言葉に相槌をうつほど冷静だ。
「またクリスタルを狙いに来たの!!?」
(こんなところにまで来るなんて、私が邸に来たせいで、ペンネスに迷惑がかかったわ)
「今日は、お前に用はない」
以前から私の持つクリスタルを狙う、ウォルが今は用がない。ということは別の用事でここに来たということになる。
「なんだ、お前シャーレアのストーカーァ?」
インキーノはまるでごみを見るような目でウォルを見ていた。
「それはよくないな」
変わらない表情でペンネスはインキーノに続いてウォルに言った。
「ペンネルテス=ドットマク、我が主・ティードラァ様は貴様の正体を既に知っている」
ペンネスの正体、それはどういうことだろう。
ただの貴族というのは失礼だけれど、彼に秘密なんてあるのかしら。
「ねえ、秘密ってなに?なんか悪行でもやったの?」
インキーノは白状しろと言わんばかりにペンネスに詰め寄る。
「何のことやら、見当もつかない」
見据えながらため息をつくペンネスに、ウォルが忌々しげな顔をする。
「一人ずつ奪うつもりだったが、もういい…貴様等全員から奪うまでだ…」
ウォルは右腕を左手で押さえる。
「借金取りを怒らせて、分割払いだったのが一括払いになっちゃったってこと?」
インキーノはペンネスをチラリと見る。
まるでペンネスがウォルにお金を借りているなんて、人聞きの悪い。
「インキーノ、ペンネスは‘裕福な’貴族、借金なんてありえないわ」
身近に例外は居れど、基本的には貴族は裕福なのだから。
「いや、インキーノが言いたい事はそう云う意味ではないだろう」
やっぱりペンネスに特に変わったところはない。
平民の私をいつでも迎えてくれたり、インキーノと親しいところを除けば
ちゃんと振る舞いは貴族らしい。
ペンネスの秘密って何かしら。