29・怒れる竜
「…雇い主よ、その小娘はクリスタルを持っているんですか?」
青紫髪の男は、ティードラァを疑うように見据える。
「ふ…持っていなければ、即座に始末させる手筈であったが…」
ふいにティードラァの朱の髪が、振り乱された。
「お前の仕事はまだ先のようだな」
ティードラァは残念そうに、青紫髪の男に告げる。
「そこのウォル殿が頑張ってクリスタルを見つけてくれれば、すぐ済むんですけど!」
青紫髪の男は、城の壁を蹴る。
破壊された壁の穴から、ウォルの姿が現れる。
「まだいたのか。
そんな場所で会話を盗み聞きしている暇があるなら、クリスタルの一つでも探しだし、献上してもらいたいものだ」
ティードラァは、首を軽く横に降りながら落胆している。
「ええ、その男は信用なりますまい」
ティードラァの嫌味に、ウォルは何も返さない。
怒るでも焦るでもなく、冷静なままだ。
「君、お兄さんに全然似てないな…」
青紫髪の男は、ボソリ、聴こえるか聴こえないかの声で呟く。
「兄…?」
ウォルはその言葉にピクリと反応する。
「そんな事よりもだ。なにを疑う必要がある。
そこに居る男はどんな事をも確実にやり遂げると聞く。名のある者ではないか」
ティードラァはその名声に信頼を寄せている。
「そうでーす」
にこにこと、己が優れていると自負する。
「…ならばお前に行ってもらいたいところだ」
口の端を軽く上げ、ククりと鼻を鳴らした。
「残念でしたー。依頼は一人一つの事象に限ります」
ドリンクを飲みながら言う。
「いつのまにやら彼もいなくなったみたいだから、僕は帰りまーす」
青紫髪の男は床に飽きビンを投げ捨てて、崩れた壁の穴から出ていった。
――――――
そういえばすっかり目的を忘れていた。
インキーノに協力してもらいたいことがあったんだわ。
でもペンネスのいるところでしていい話でもないし、帰りにでも話をしてみよう。