27・葡萄と迫る過去
ある国のある少女の過去のこと
『遊びに行ってくるわママ!』
幼い少女は屋敷を飛び出した。
母親は少女に手をふって見送り屋敷の扉をしめる。
少女は屋敷の近辺で木を見ていた。
木、というより木に実のっている果実がほしいと思い、どうやって取るか悩んでいた。
『そこのリトルレディー』
男の呼ぶ声がして、少女は振りかえる。
『なあに?』
そこには変わった紫色の帽子をかぶった男がいた。
『ここがヘイアンヌで合っているかな?』
紫帽子の男は、場所を確認した。
『そうよ、お兄さんは…もしかして旅人さん!?』
少女が期待に目を輝かせていたので、紫帽子の男は“そうだよ”と肯定し、微笑んだ。
『ああ、ペイプラーさんの屋敷に行きたいんだ』
旅人は懐から地図を取り出して、見ながら困っている。
『それなら私が連れていってあげるわ!』
ペイプラーという名を聞いて少女は自分の身内の屋敷だろうと考え、案内すると言う。
『久しいな』
旅人は少女の父に挨拶する。
『ああ、よく来たね』
屋敷にこころよく通される。
長椅子に腰掛けた旅人は一息ついて、帽子を外す。
『…お兄さんの髪の毛ここでは見かけない色ね』
少女は旅人の青紫髪を凝視する。
『ヴィタン、お前が羨ましいよ。
家は息子が二人だから…僕も、娘がほしかったなあ』
旅人は少女を見ながらさめざめとした。
『それは聞き捨てならないな!』
という何者かの声がすると突然客間の扉が開く。
三人が驚いて扉を見るとそこには緑色の帽子の男がおり腕を組ながら仁王立ちしていた。
『また変な旅人さん?』
『変な?』
『…変だと?』
少女の言葉に、旅人二人は同時に反応した。
『小さなお嬢さん、このオジサンはともかく、オレはカッコイイだろう?』
緑色の帽子の男は少女に詰め寄りながら果実を手渡した。
少女はそれを嬉々しながら受けとると、緑帽子の男に微笑む。
『ありがとう!!カッコイイ旅人さん!』
少女は葡萄の紫皮をめくり、中の果肉を食べる。
『姑息な真似を…!しかたない…君にこれをあげよう!』
旅人は苦肉の策を練り、熊のぬいぐるみを少女に手渡した。
『お兄さんのほうが格好いいだろう?』
と少女に迫る旅人に、端から見ていたヴィタンがあきれながらため息をつく。
『●十過ぎて何をやっているんだサロイン』
ヴィタンは旅人・サロインを少女から引き離した。
サロインと緑帽子の男が再度火花を散らす中、もう諦めたヴィタンは少女のほうを見る。
『パパ!これ美味しいの。それに可愛いわ!』
少女は右手で葡萄を食べながら左手に熊のぬいぐるみを抱え満足気にした。将来が心配だ、とヴィタンが二度ため息をついた。
――――
『初めまして、君は魔法使いだね?』
黒に近い灰髪の男は、漆黒の髪の女、黒髪の少女を連れて現れた。
『君達…ただの人間には見えないけど何者?』
奴等はおそらく親子のようだが一体何の用で僕の前に現れたんだ。
『赤紫髪の魔法使いくん、君達の一族は依頼された事はキチンとやり遂げるそうだね?』
ニヤリ、不気味に微笑む男に、僕は戦慄した。
『この娘を護ってほしい。報酬は弾むから
よろしく』