25・真実は塗られる
『スブタァか…』
三つ編みの少年は更に盛られた料理を見る。
『うっ…パイナッツー食べたくない』
白髪の少年は皿から黄色の果物を避けた。
『困った…食べてやりたいのは山々だが、パイナッツーは胃にくるから』
どうしたものか、と三つ編みの少年は考えた。
『兄上!わたしが食べます!』
と言いながら長髪の少年は嬉々としながら果物を食べる。
『ペンネーズ…不甲斐ない兄ですまない』
三つ編みの少年は、ほろりと目に涙を浮かべる。
『皆さん、パイナッツーごときで何をなさっているんですか』
なにやらしょうもない事をしていると思いながら
青髪の男は三人の会話を傍観していた。
『あっクリア!いたのか』
『ええ、初めからいました』
カラーズの言葉に軽く傷つきながら答える。
『カラーズがパイナッツーを食べたくないと言うので…』
そういいながら三つ編みの少年もちゃっかり果物を避けている。
『はあ』
それを目にしたクリアは追求することなく、次の話を待った。
『ペンネーズ兄上が食べてくれるそうだ!』
とカラーズが言う。
『もう食べたよ』
間髪いれずペンネーズが綺麗な皿を出す。
『はあ、それはなんとも…皇子なのに一般家庭のような団らんをなさるんですね』
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「さあ、寄越せ…ああ、これは返しておこう」
ウォル、という男は何かを私に投げつけた。
「クリスタル…別に返さなくてもよかったのに、律儀ね」
敵なのに、そこだけは評価できる。
「感心している場合ではありませんよ?」
座っているだけのクリアに言われたくないわ。
「なら…そのクリスタルは僕がもらうよ」
この声は、イレーサーだ。
「はい」
クリスタルをイレーサーの手にのせた。
「貴様…」
ウォルはイレーサーを睨みつける。
実はクリスタルがほしかったのかしら。
「“おまえはなにものだ”そう聞きたそうだね。
でもわざわざ聞かなくても君ならわかるんじゃない?」
いつも冷静で大人しい筈のイレーサーが珍しく好戦的な態度で挑発して、ウォルをわざと怒らせるような真似をしている。
「どうしたんでしょうね」
クリアも気がついたようだ。
「今日は臨時収入が入ったから機嫌が良いんだ…」
何か杖のような物を出すと、イレーサーは杖を持ちながら投げつけるようにすると何かが杖から飛び出る。
それははリボンのような物で空中を舞うとウォルの眼前をギリギリまで掠めていた。
やがてウォルがリボンの動きに慣れ、ひらひら舞うそれを掴み手繰り寄せる。
「かかったね」
リボンは一瞬にして砕け、残骸がウォルの体にまとわりつく。
「…次は必ず手に入れる」
そう告げたウォルは瞬時に姿を消した。
「一体なんだったんだろうね」
イレーサーは本当に何もしらないのか、ウォルが消えた場所を見て呟いた。
「そんなことよりイレーサーがさっき使ったあれは何!?」
私は彼に問い詰めた。
「ただのマジックのアイテムだよ」
イレーサーは焦ることなく冷静に答える。
「なーんだ。なんて言わないわ貴方…」
「なに?」
イレーサーは少し下がる。
「サーカスに出て臨時収入を貰ったのね?」
間違いない彼は、サーカスをやっていたんだわ。
「ここまで来てそれはないよ…」
結構自信があったけれどどうやら予想は外れたらしい。
「まさか貴方がお仲間とは…」
イレーサーとのやりとりを見て、クリアが呟いた言葉の意味がわからなかった。
「カラーズ」
肝心なことを忘れていた。
「クリスタルを出せと言われていたけれど…」
私がカラーズに貰ったペンダントはエレメンタル・クリスタル、つまり王家の物の筈。
「…まったく状況が飲み込めない」
カラーズは呆然としている。
突然変な男がやってきて知り合いが変な技を使ったのだから無理もない。
「さっきのアイツは何かを奪うようなことを言っていなかった?」
イレーサーは懐にクリスタルを仕舞いながらいう。
「結論から言うと、奴等にクリスタルが渡る前に全て集めればよいのでは?」
クリアの言った事に皆がハッとしている。
私も彼が珍しくいいことを提案したからとても驚いた。
「そんな事より、宝石もっと無い?」
そんなことではないだろう。
いつもなら逆に私が話を変えようとしてイレーサーにたしなめられている場面だろう。
普段はどれだけ困ってもそんなこと言わないはずなのに、今日のイレーサーは少し変だった。