24・始まり
イレーサーもパパもいないから今日はお城にでも行こうかしら。
久しぶりにクリアの作る蜂蜜湯が飲みたいし、カラーズにも会っていなかったから楽しみだわ。
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馬車に乗ってしばらくするとお城に到着した。
「カラーズ、クリア久しぶりね!」
久しぶり、というくらい日を置いたわけでもないけれど、それくらいの気分だった。
「シャーレア、一体何日待たせるつもりだった?」
カラーズは不愉快だと言わんばかりにテーブルに頬杖をついたままだ。
(そんなにまたせたかしら)
そもそも待っていたなんて話は耳にした覚えがない。
茫然としながら立っていると、クリアの小さな笑い声が聞こえる。
「会いたかったなら素直にそう仰ればいいものを…」
不貞腐れるカラーズを見て必死に笑うのを堪えるクリア。
「まあいい。茶の用意だ」
カラーズは頬杖をつくのを止めて、ちゃんと座り直した。
「以前クリアがお前の父親に、俺の言伝てを伝えさせた筈だが」
そう言われても、まったく記憶にない。
「聞いた覚えがないわ」
カラーズは呆れたようにクリアを睨む。
「何ですか皇子、その目はまるで私が仕事の出来ない駄目従者と言っているようなものではありませんか」
クリアは普段、カラーズに失礼な事を言っているから
忘れていたけれど、一応従者だったわ。
「なぜお前は余計なこと、どうでもいい事は出来るくせに一番肝心な事が出来ないんだ」
カラーズは頭痛がしたのか、額に手を添えた。
「どうでもいい事はしない、肝心な時に役立つのが私ですよ」
クリアは口角を上げ不敵で、らしくない笑い方をしている。
「何か企んでいそうねクリア」
私が苦笑いすると、クリアはいつもの表情に戻る。
「まさか、私はいつでも正直ですよ」
と言って蜂蜜湯を飲み干した。
「甘いものをとりすぎて太ってもしらんぞ」
カラーズは私をチラりて見てからクリアに言う。
「それは女性に言うべき台詞では?まあ推奨はしません」
クリアまで私を見ている。
「男とて肥えるぞその点…」
「コホン!」
彼がハーブなら太らないと言い出すところで、クリアは咳払いをし、話を遮る。
「二人共、何か来ますよ」
クリアが何かを察知したらしい。
なんだか禍々しい気配がする。
私もじわじわとそれを感じ始めた。
「豚のように私腹を肥やし、私利私欲の為に宮殿に君臨する者よ…この世に王はただ一人、ティードラァ様だけで良い…」
禍々しい気配を纏い、現れたのは以前石を狙って来た謎の男。
「言っておくが…まだ俺は皇に君臨していないのだが」
たしかに彼はいずれ皇になるらしいけれど、まだ皇子である。
しかしあの男はきっとまともな話の通用する相手じゃない。
「今それを言っても無駄じゃないかしらカラーズ」
どちらも動かない降着状態が続く
どちらが先に動くか、考えているとクリアがすっと立ち上がった。
恐れることなく黒い布で顔を覆った男に近づく。
「貴方、ただの人間ではありませんね」
こんな時でもマイペースなのねクリア。
というかそんなわかりきった事を聞く必要があるのかしら。
「貴様のような異形者に言われたくはない…」
確かにクリアは人間離れしているけれど、そんな言い方は酷い。
悪人だからって、いや悪人だからこそ許せない。
「本来ならば人が尊ぶべき存在の私に、失礼な事を言いますね貴方」
やはりクリアはそんな簡単にへこたれない。
「パレッティナの皇子、我が王・ティードラァ様より下った命だ…石を差し出せ、さもなくば国を消し飛ばす」
何を馬鹿な事を言っているのかしら。
まさかこの国を消し飛ばす勢力がいるというの?
「貴方、何者ですか」
クリアがたずねると、男は布に手をかけた。
「竜王ティードラァ様が配下、ウォル」
名乗って黒いローブを外した。
水色の髪が日に照され、キラキラと輝いて、不覚にも美しいと思ってしまった。
【ボツシーン】
クリアはやれやれ、といったポーズでボリボリ石塩を食べていた。